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CATEGORY : ヘルスケア |女性ホルモン

「フェムテックブームをきっかけに、女性の健康課題について話し合ってみた」後編【宋 美玄先生(産婦人科医)×梅津和佳奈さん(fermata株式会社)×小林利行さん(『Get Navi』編集長)鼎談】

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「フェムテックブームをきっかけに、女性の健康課題について話し合ってみた」後編【宋 美玄先生(産婦人科医)×梅津和佳奈さん(fermata株式会社)×小林利行さん(『Get Navi』編集長)鼎談】

生理痛やPMS、更年期、妊娠中であればつわりなど、人生のさまざまなステージにおいてみんな何かしら悩みを抱えながら働いていることが多い女性たち。個人の問題とされがちな女性の健康課題を、社会みんなの問題としてとらえていくためにはどうしたらいいのでしょうか? 前編に続き医師、フェムテック普及を目指す企業の方、フェムテックについて学び始めた男性のお三方に、それぞれの立場から語っていただきました。

Contents 目次

宋 美玄そん   みひょん先生(産婦人科専門医・医学博士・性科学者)

宋 美玄(そん・みひょん)先生セクシュアル・ヘルス(性の健康)の推進を図る、日本性科学学会会員。2010年に発売した『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社刊)は100万部を超えるベストセラーに。現在、東京・丸の内にある「丸の内の森レディースクリニック」で診療に携わるかたわら多数のメディアに出演。医師・女性の立場から性と⽣殖に関する健康と権利を保護、充足を目的としたセクシャル・リプロダクト・ヘルス/ライツの啓発活動も行っている。プライベートでは2児の母。

梅津和佳奈さん(fermata株式会社)

梅津和佳奈さん2019年から女性のウェルネス課題の解決・支援事業を行うfermata(フェルマータ)株式会社のクリエイティブディレクター。「あなたのタブーがワクワクに変わる日まで」をビジョンにかかげ、市場参入を狙う企業のイノベーション支援や、世界最大級のイベント「Femtech Fes!」の企画など、市場のさらなる拡大を目指して事業を展開中。
https://fermata-inc.com/

小林利行さん(『GetNavi』編集長)

小林利行さん

ワン・パブリッシング発行、モノ・トレンド情報誌『GetNavi』の編集長。AV機器やスマホ記事のほか数々のムックなども担当し、ヒットを飛ばす。今回は、一般男性の立ち位置で、パートナーや女性社員の不調(生理、PMS)に対してどう対応しているかリアルな話をしていただいた。

女性はみな、健康課題を抱えながら働いている!

宋先生と梅津さん

小林さん 雑誌の編集の仕事を20年ぐらいやっておりまして、編集部にはもちろん女性もいるのですが、仕事柄、夜中まで作業することも多くて。多分つらい日もあったんでしょうけど(生理痛などが)、つらいとあまり言われたことがないんですね。言いにくかったものあるだろうし、責任感から頑張ってくれていたんだと思うんですけど…。

梅津さん 私は、今も昔も女性が多い職場にいるので、生理痛がつらいときは「つらい」って普通にみんなに言える状況だったんですよ。年齢や性別に関係なく生理に理解があって。それはすごいありがたいことだなと思っています。

小林さん 男性誌をつくっている関係で編集部員も男性が多いから、女性の健康課題に気づいてあげられないままきている、というのが正直なところです。生理痛というと、昭和生まれの考えでは、鎮痛剤を飲んで抑えるくらいしか対策が思いつかないですね。

梅津さん 私は救急車を呼ぶくらい生理痛がひどかったんですが、低用量ピルを飲みだしたこともあり、今はラクに過ごせるようになりました。 それまでは鎮痛剤を飲むことすらガマンしていたくらいです。

宋先生 鎮痛剤は効くまでに時間がかかるから、痛みを感じ始めたらすぐに飲むといいんですよ。

梅津さん 正しい知識を知らなかったですね。

宋先生 薬はなるべく飲まないほうがいい、みたいな風潮はありますよね。私も、低用量ピルを飲んでいたら母親に「将来、健康な赤ちゃんが産めなくなる。体に悪い!」と猛反対されたことがあります。私、産婦人科医やのに(笑)。親は、生理痛で苦しんでいる子を前にしても「生理っていうのはそういうものだ」ですませがちなんです。これは何が原因かというと、やっぱり性教育が不足しているからなんですよ。

小林さん 私が中学生のときは(約35 年前)、生理の授業は女子だけ受けて、その間、男子は外でサッカーをしていました。生理については男子は知らなくていいっていう世代でしたね。今、中2になる私の息子に聞いたら、今は男女別々で生理に関する映像教材を観るみたいです。

宋先生 今年の1月の能登半島地震のときも話題になったけど、男性は生理のことをよく知らないから、被災地の避難所で生理用品の支給が後回しにされたり、本来は1日に何枚も使用することが多い生理用ナプキンを「1人〇 個までね」と配布されたりする問題が起きるんですよ。知らないことがいろんな課題につながっているんです。

小林さん 息子も、学校で保健体育の授業で性教育があったみたいですけど「先生がさらっと言っただけで、よくわかんなかった」と言っていました。今の時代になっても性教育は自分の時代とそれほど変わっていないんだなあ、と思いました。

体調不良の際に、フレキシブルに受診しやすい環境が大事

宋先生と小林さん

小林さん 妻の生理予定日を知らずに、勝手に夏休みをとる日を決めて、南国でスキューバーダイビングをする計画を立てたんですけど、妻から「その時期は生理にあたるからダイビングなんてありえない!」って叱られて、ちょっともめたことがあるんです…。

一同 ……。たしかにそれは怒られますね…(笑)

宋先生 生理日は低用量ピルでずらすこともできます。なので、勝手に決めずに早めに話し合っておけば、もめずにすんだかもしれませんね。

小林さん それと、生理はストレートに聞きにくい話題だと個人的には思っているので、具合が悪くて、つらそうにしている女性スタッフにどう声をかければいいのか、第三者としては難しいです。

宋先生 生理痛で「痛い、痛い」って言っているときは休んでもらったり、「薬あるけど飲む?」と聞いたり。そういう声がけでいいと思うんですけど、やっぱりそういう声かけを出来るようになるためにも普段から男女ともに健康課題について取り組むべきだと思います。それこそ企業や社会レベルで。

小林さん 企業や社会レベルですか?

宋先生 私は企業で生理痛、PMSや更年期など女性特有の健康課題についての講演をするんですよ。女性の体のメカニズムから、生理痛やPMSのこと、さらにはこんな治療法がありますよっていうことをお伝えしているんです。人事の方や男性社員も含め、女性の健康課題を一般知識として共有する

梅津さん フェルマータには男性社員ももちろんいるんですけど、生理に限らず女性の健康課題への知識や理解があるので助かっています。フェルマータの場合、会社の事業と直結する問題のため、個人個人がそれぞれしっかり学んでいるのはもちろんですが、社内で日常的に「具合がすぐれないので薬を飲んで数時間休みます 」などの会話をしていることもあり、みんなが自分自身や周りに対して敏感にアンテナをはっているんですよね。

宋先生 社会全体で女性の健康課題を知っておくだけでも随分違う。理由を特に言わなくても「今日、病院へ行くので会社に遅れて行きます」とか「体調が悪いので休ませて下さい」とか言いやすくなるじゃないですか。生理痛に限定せず、性別関係なく、体調が悪いとき、行きたいときは病院へ行く。企業側でクリニックと連携して婦人科に受診しやすい環境やシステムをつくっているところもあるんです。ある意味、それもフェムテックのひとつだと思うんです。

性別によって、健康課題への社会的なサポートにギャップがある?

梅津さん

小林さん 僕が、男性に関する健康課題で思いつくのはメタボリックくらい。ずっと体を鍛えてる人は健康に見えるし。女性の更年期のように、ある年代から体の調子が悪くなることが増えるみたいなのは、男性の場合は少ないのかなあという印象はあります。

宋先生 男性に多い健康課題は、喫煙、メタボ、あとはメンタルヘルスくらい。どちらも性別問わずある課題ですが、これらについては、すでに国や社会が取り組みを始めていて、さまざまな制度が整備されているんですよ。

小林さん メタボ健診とかありますしね。

宋先生 その点、女性の健康課題に対する取り組みはまだまだ。なので私は企業で講演をするとき、男性の更年期の話題を必ず盛り込むようにしています。なぜなら講演が女性社員のためだけのものととらえられてしまうと、講演を承認してもらえないケースがあるんです。

小林さん つまり、女性だけでなく男性の話題をとり上げないと、会社の許可が下りないと。

梅津さん まさにフェルマータで支援させていただいている企業様でも同じような課題はあります。 多くの会社では決定権をもつ組織の上層部が、まだまだほぼ男性なので、その方々にどうやって会社全体で必要なことだと判断していただけるか、女性の健康課題について自分事化することが難しく、重要性が伝わりにくい状況です。

小林さん なるほど。

梅津さん 意思決定のほとんどを男性が行うとすると、 女性の健康課題についてどこからどう取り組めばいいのかわからないのも理解できます。「女性が活躍できる職場にしたい」と熱意を持っている方が多ければ多いほど、 スピーディに案件が進みやすいです。その先には、しっかりその企業に合った伴走体制で臨むことが大切になってきます。

フェムテックブームではあるけれど、浸透をはばむ原因は性教育不足!?

小林さん

小林さん 日本やアジアは欧州に比べ、フェムテックに関しての知識や普及が遅れているイメージですか?

梅津さん 日本VS海外の考え方もすごく難しくて、ひとくちに海外 といってもアメリカとアフリカでは考え方も全然違うし、「進んでいる/遅れている」の判断はなかなか難しいところがあります。 宗教の戒律に基づく絶対的なタブーがある国もたくさんありますし。逆に言えば、日本は(保守的な部分はあるものの)初詣に神社に行き、クリスマスを祝い、お墓参りはお寺に行くなど、柔軟に宗教と付き合っている人も多い国なので、フェムテックも受け入れやすい土壌ではあるのかな、という感覚はあります。

宋先生 (フェムテックが浸透しないのは)性教育が制度として上から降ってこない問題もあると思います。宗教やジェンダーの問題もあるのでひとくくりにはできませんが、ここ10年ぐらい性教育が足りないっていうのは国民みんなが気づいていて、最近では「おうち性教育」をとり入れる家庭も増えている。ただ、個人レベルで学ぶ方法だと、全員に届かないんですよ。

小林さん みんな性教育の重要性に気づいているし、学校でもしっかりとした性教育をしてほしいという声もあるのに、 不足しているイメージがありますね。

宋先生 生理痛のとき薬は飲んじゃいけないって考えるのも、やっぱり性教育が不足しているからです。性教育は大人になってからでも学べるし、自分の子どもにはちゃんと教えたい人も多い。だから、結構素直に受け入れてくれる態勢はあるのかな。日本って性教育が遅れているけど、やりようによってはうまくいくと思うんです。

まずは知識をもつこと、情報のアップデートが必須

宋先生と梅津さん

宋先生 学校を卒業して就職したら、今度は企業側が性教育のような学べる機会を従業員に提供して 、知識をアップデートする機会を制度として設けておく。もちろんマスメディアや行政もその役割を担う立場ではありますけど。

小林さん  ヘルスリテラシーを上げていく、って考え方ですね。

宋先生 もちろん女性側が意識を持って本を読んだり、調べたりするのもいいけど、放っておいたら知識をアップデートする機会なんてないんです。例えば、私が子どものときは承認されていなかった低用量ピルが、今は承認を受け、病院やオンラインで処方されているとか、今は選択肢も増えているわけだから。企業が勉強できるようインフラを整えていくことは、個人ひいては、それが企業や国のためにもなる。

梅津さん 制度も変わっていきますからね。一部自治体では健康診断で子宮頸がん検診が無料になったり、安価で受けることができることも知らなくて、詳しいことを会社の先輩に聞いたくらい。国や自治体からお知らせが出ていても、なかなか情報が伝わってこないこともありますよね 。学校での教育も重要だけど、大人になってからも学ぶ機会があるとより一層いいですね。

小林さん 機会が制度としてあれば、男性女性共に学べますね。宋先生は講演を通して伝えているわけですが、ほかに大人が学ぶ方法にどんなものがありますか?

宋先生 健康保険組合で(女性のヘルスケア課題について)学べる機会もありますよ。企業によっては必修だったりするんですよね。

小林さん 健保だったら、みんなどこかしらに入っていますよね。

宋先生 男性も女性もセミナーを受けると、みんなで健康課題について話しやすい雰囲気が生まれるんです。「あの講座、聞いたよね」って。タブーがなくなるって結構大きいことですよね。

フェムテックという言葉が広がったのと共に社会が進んできたとはいえ、まだまだ足りない生理やPMS、更年期といった女性の健康課題への理解。社会全体で健康課題に取り組むことで、性別に関わらず周りの人や自分自身をいたわることができる のではないでしょうか。フェムテックの話題をきっかけに、自分ができることについて考えてみませんか?

撮影/鈴木謙介
取材・文/平川 恵

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