近年注目を集めるホルモンの一種「マイオカイン」。このマイオカインは、なんと、免疫強化や脂肪燃焼、アンチエイジングなどの若返り、メンタルヘルスの向上、認知機能とのかかわりまで、とっても幅広い期待を受けている「骨格筋から分泌される生理活性物質」なのです。今現在、効果は多種多様なものが次々と発見されていますが、特にこれから本格的な寒さを迎える風邪のシーズンに備え、マイオカインを増やすことで免疫力を上げる方法を学んでいきましょう! 金沢大学の西川裕一先生に、この神秘のホルモンがどうしたら増加するのか?その具体的な方法を教えていただきました。
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結論、やっぱり運動は最強!<読めば今すぐ体を動かしたくなる>運動で筋肉から分泌されるホルモン「マイオカイン」の驚きの効果
マイオカインとは、筋肉から分泌される“生理活性物質”のこと。代表的な生理活性物質といえば、ホルモンや神経伝達物質、ビタミン、補酵素、抗生物質、サイトカインなどで、いずれも体の活動を維持・調節する化学物質のことです。じつは、運動などで筋肉を動かしてその刺激が筋細胞に伝わると、マイオカインが分泌されるということが近年の研究で明らかになってきました。しかも、分泌されるマイオカインは、現在わかっているだけでも、なんと約600種類もあるのだそう!
「まだはっきりと効能が認められていないものが多いですが、そのうち10~20種類のマイオカインは、分泌されるとどのような効果が期待できるのかが少しずつわかってきました。
例えば『IL-6(インターロイキン6)』は、副腎皮質に作用するマイオカインのひとつで、コルチゾールというホルモンを分泌し、細菌などの病原菌を退治する好中球という白血球の一種を増やしてくれる作用があります。好中球は体を守る重要な役割を果たすため、増加すると免疫力の向上につながります。
ほかにも『アイリシン』というマイオカインは、エネルギー代謝を高めて脂肪燃焼を促進する働きがあり、『PGC-1α』は分泌量が増えると、老廃物を排出し、肌のハリとツヤを保つといわれるミトコンドリアを増やしてくれるため、美肌にも効果的です。また、最近注目されている『マイオネクチン』というマイオカインも、シミの原因となるメラニンの分解を促して予防します。神経細胞や筋肉を新生・保護・治癒するもの、骨代謝を上げるもの、うつ病などメンタルの改善に効果を示すなど、その効果は多岐に渡ります」(西川裕一先生)
運動などで筋肉を動かすことでマイオカインが分泌され、体にいい効果が得られるということ。やはり運動=最強の健康方法!ということですね。
では、一体どんな運動をすればいいかと言うと、“筋肉に大きく負荷がかかる運動”がよいと西川先生。しかも「負荷や強度は高ければ高いほど効果的」なのだそう。具体的な運動方法についても教えてもらいます。
高負荷なほど効能抜群!宅トレでもOK! 息があがる運動よりも“筋肉をしっかり使う”のが「マイオカイン」増加の秘訣
西川先生曰く、マイオカインを増やすために重要なのは高強度の運動をすること。具体的にはどんな方法がおすすめなのでしょうか。
「筋肉量が多く鍛えやすいため、効率的なのは腕よりも足です。スクワットや筋トレももちろんよい方法ですが、おすすめは階段昇降。体感として、息があがるのは上りですが、下りは重力に逆らってブレーキをかけながらその状態を維持しつつ降りるため、じつは筋肉をよく使うのは下りです。日常的にはエレベーターやエスカレーターを使うことが多いかと思いますが、上りはよしとしても、下りは階段を使って降りるようにすると、日々の生活の中で自然と階段昇降をとり入れることができますよ」
階段を上るのはきついけど、下りならできそうという人も多いのでは? 階段昇降なら日常の中でできますし、運動が苦手な人にもこれは朗報ですね!
「運動するなら呼吸のしんどさよりも “筋肉の使い方”がポイントなので、足を鍛えようと思って平地を自転車で15分漕ぐよりは、階段昇降を多めに行ったほうが効果てき面ということ。また、毎日5分間でもとにかく筋肉に刺激を与えることが重要なので、自宅で行える高強度インターバルトレーニング(HIIT)も方法のひとつです」
自宅でもできる「HIIT」ならスペースもとらず、しかも短時間でできます。FYTTEでも「HIIT」を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
「また、筋肉が収縮をしてさえいればよいため、低周波の電気刺激によって筋肉を収縮させる運動器(EMS)を活用するのもOK。筋トレや階段昇降などの運動を積極的にしなくても同じ効果が得られるので、簡単にマイオカインの恩恵にあずかることができますよ」
じつは年齢は関係ない!「マイオカイン」は運動すれば、何歳でも即増やせる!
ここまでで、神秘のホルモン・マイオカインは、“高負荷の運動をすればするほど分泌量が増える”ということがわかりました!
でも、頑張って運動をしたとしても「昔のようには体がついていかないし…」と加齢に敗北宣言をしてしまい、結局やる気が出ないままのパターンもあるかもしれません。果たして、年齢によってマイオカインの量は変わるのでしょうか。
「男性も女性も、加齢に伴いマイオカインの量はどうしても減っていきます。また筋肉量と筋力の減少も、多少は影響を受けるかもしれません。しかし、だからと言ってマイオカインの分泌量が著しく減るようなことはありません。むしろ、筋肉量は加齢よりも、運動習慣のあるなしが大きく関わっています。運動習慣がある高齢者と習慣がない高齢者で比較した研究では、運動習慣がある高齢者のほうが、体の中の神経細胞を保護・修復する働きを持つ『BDNF』という因子が多いという報告があり、筋肉量がより多く保たれている人のほうがマイオカインの量も多いのではないかと考えられています。また女性の場合、排卵周期によって多少の変化はあるかもしれないですが、現状の研究結果では、男女でマイオカインの分泌量に差もありません。もしも加齢によってマイオカインの分泌量が減ることがあったとしても、それは男女ともに共通して減っていきます」
同じ年齢でも運動している人のほうが見た目も若々しく、ハツラツと感じることがあるかと思います。やはり高齢になっても、運動習慣がある人は元気で若さを維持できているし、それはマイオカインの分泌量が関係している可能性は大いにあるでしょう。
やったらやった分だけ自分の体に還って来て、しかも即時効果も抜群! 免疫力アップだけにとどまらない“いいことだらけのマイオカイン”。増やすために、まずは、いま自分ができる範囲で体を動かしてみてはいかがでしょうか。
後編では、まだまだ解明されていないマイオカインの可能性について、さらに西川先生に尋ねました! あわせて、西川先生が日々実践している運動習慣のお話も紹介します。
取材・文/番匠郁