インフルエンザ予防に重要な働きをするIgA抗体って？

大注目したいIgA抗体ですが、いったいどんな物質で、なぜインフルエンザ予防のカギとなるのでしょう？　神奈川歯科大学大学院 口腔科学講座 環境病理学教授の槻木恵一先生に教えてもらいました。
IgA（免疫グロブリンA）は、主に口の中や目、鼻、消化管、乳腺などの粘膜に存在する免疫の抗体の一種。体内にウイルスや細菌が侵入してくると粘膜の表面でそうした異物にどんどん吸着して、毒素を中和する役目を担って、体を守っています。とくに口腔内では、比較的分泌量が多いIgAが免疫抗体の代表格として働いていて、この時期、つらいインフルエンザを予防する要となっているのです。
ところが、年齢とともにだんだん唾液の量が減ってきたり、口腔内でIgAを分泌する能力が衰えるため、ウイルスが侵入しやすくなって風邪を引きやすくなります。インフルエンザが重症化しやすい高齢者はますます注意しなければなりません。
そして心配なことに、近年は若い世代でもやわらかいものばかり食べたり、ストレスなどが要因となって唾液の量が減り、それに伴ってトラブルを抱えている人も増えているとか。あなたの唾液は大丈夫！？
そこで、槻木先生により作成された「唾液の健康状態チェックリスト」で自分の唾液を調べてみましょう。

唾液の健康状態チェックリスト
＜その１＞
適正な「量」の唾液が出ているかをcheck！
(1)飲料水が手放せなく、いつも持っている／はい→１点
(2)食物がパサパサして食べにくい／はい→２点
(3)口で息をしている／はい→1点
(4)いつも口がネバネバしている／はい→1点
(5)義歯が入れづらく、よく傷ができてしまう／はい→0.5点
(6)口が渇く気がする／はい→３点
※合計が３点以上の人は、唾液の「量」が少ない可能性があります。

＜その２＞
唾液の「質」を確認
(7)朝食を食べないことがある／はい→１点
(8)ヨーグルトをほとんど食べない／はい→３点
(9)野菜やイモなどはほとんど食べない／はい→３点
(10)脂っこい食べ物が好きだ／はい→２点
(11)買い物や銀行でお金をおろすことが面倒になった／はい→１点
(12)家にいることが多い／はい→１点
(13)よく便秘になる／はい→２点
※合計が３点以上の人は唾液の「質」が落ちている可能性があります。

結果はいかがでしたか？
唾液は口腔内を洗い流す自浄作用を担っていて、量が十分に分泌されずに乾燥すると、口の中が汚れてしまって虫歯や歯周病を発症しやすくなったり、ウイルスや細菌が侵入しやすくなります。口の中はしっかり潤っているのが理想の状態です。
「(2)(4)(5)はまさに唾液が少ないことによる症状です。(1)～(5)のチェックがないのに(6)だけ『はい』だった人は、唾液が出ているのに『出ていない』と思い込んでいる可能性も。気になる人は歯科医院で唾液量を測定してもらいましょう」（槻木先生）
一方、唾液の質の面ではIgAをはじめ、リゾチーム、ペルオキシターゼ、ラクトフェリンなどさまざまな抗菌物質が含まれていて、これらが高濃度で存在して異物混入を防いでいるのが良いコンディションです。
「(8)(9)(10)がすべて『はい』の人は、ぜひ食生活を見直してほしいですね。唾液の量と質は体全体の健康に関わっていて、中でも感染症予防に唾液が重要な働きをしているので、きちんと気を配って過ごしてください」（槻木先生）
唾液の分泌量を増やすには、食事で大きめにカットした食材をよく噛んで食べ、水分補給も十分に行うといいそう。寝不足せず、軽い運動を習慣にして、リラックスタイムも楽しむような、心身にストレスのかからない生活がいちばんです。

ヨーグルトがIgA抗体を増加させることが
最新の研究からわかった！

槻木先生が率いる神奈川歯科大学の研究グループと株式会社 明治が共同で研究を進めているのは、主に乳酸菌Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R-1（以下OLL1073R-1株）で発酵したヨーグルトが人の健康面に与える効果についてです。継続して摂取することによって、唾液中のIgAにどういった影響があるか、またインフルエンザウイルスやインフルエンザワクチンに対して何らかの作用をもたらすかなどを調査してきました。そのいくつかを紹介します。

＜わかったこと・その１＞
OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトの摂取により、
唾液中IgA濃度と分泌速度が有意に増加

最初の試験では、高齢者37名に、OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトを112gずつ、毎日12週間食べてもらい、唾液中のIgA濃度と分泌速度を確認しました。OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトの摂取前と後の数値を比較したところ、濃度、分泌速度ともに有意に増加することがわかりました。

【グラフ】OLL1073R-1株ヨーグルトの摂取により
唾液中のIgA濃度・分泌速度が有意に増加（変化率）

＜わかったこと・その２＞
OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトには
インフルエンザワクチンを増強する作用があった！

この試験では、インフルエンザワクチンのワクチン株に対する抗体を十分に持たない男女62名（25～59歳）が対象です。この人たちを2グループに分け、ワクチン接種を挟んで3週間前から6週間後までの9週間の毎日、片方のグループにはOLL1073R-1株で発酵したヨーグルトを、もう片方には酸性乳飲料を飲んでもらって、血液中の抗体価を調べました。結果は、酸性乳飲料を飲んでいた人たちに比べてOLL1073R-1株で発酵したヨーグルトを摂取した人たちは、ワクチン株に対する抗体価が優位に上昇していたことが確認できました。

【グラフ】OLL1073R-1株ヨーグルトのインフルエンザワクチン増強作用※A（H1N1）亜型

＜さらにわかった最新の事実！＞
OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトの摂取が
インフルエンザ予防につながる可能性も!!

発表された最新試験では、高齢者96名を2グループに分け、１つのグループにはOLL1073R-1株で発酵したヨーグルトを、もうひとつのグループにはほかの乳酸菌で発酵したヨーグルトを毎日100gずつ摂取してもらい、唾液を採取、調査しました。なお、どちらのグループの人たちも調査開始から約5週間過ぎた頃にインフルエンザワクチンを接種しています。
調査の結果、OLL1073R-1株で発酵したヨーグルトを食べていたいグループでは、ほかのヨーグルトを食べていたグループに比べて、唾液中のインフルエンザＡ（H3N2）亜型に反応する唾液中のIgA濃度が増加していて、その増加率が有意に上昇したことがわかったのです。これは、ただIgAが増えただけではなく、増えたIgAがインフルエンザウイルスに特異的に対抗する力をもつと確認されたということです。

【グラフ】インフルエンザＡ（H3N2）亜型に反応する唾液中IgAが増加（変化率）

今回の研究で、さらにインフルエンザ予防に有効であることがわかったOLL1073R-1株で発酵したヨーグルト。まだまだ続くインフルエンザの季節、自分のために、そして家族のためにおいしく食べながらの健康習慣をぜひ参考にしたいですね。

文／宮下二葉