腸は「第2の脳」と言われることがあります。それは腸が脳に匹敵するような働きをしたり、脳が感じるストレスや気分と深く関わりをもったりする器官だから。消化・吸収・排泄を行う消化器官としての働きだけでなく、脳と情報を交換し合う「指令塔」としての役割も担う腸。今回は、そんな消化機能以外の腸の働きについて、おおたけ消化器内科クリニック院長の大竹真一郎先生に伺いました。
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腸は「第2の脳」?! 腸と脳との密な関係
腸は、脳の指令を受けて食べ物の栄養を吸収したり、排泄の働きを促したりしますが、じつは、脳の指令を待たず、腸の判断のみで活動することもできます。こうした脳と腸の関係は1980年代、アメリカのマイケル・D・ガージョン博士によって「腸は第2の脳(セカンドブレイン)」と発表され、世界中を驚かせました。
では、なぜ、腸は独自の判断で活動できるのでしょう?
「腸には、脳に存在するものと同様の“神経細胞”が存在しています。そのため、独自の判断で活動することができるのです。神経細胞とは、情報処理や情報伝達の働きを持つ細胞で、脳には150億以上、腸(小腸と大腸)には約1億個以上が存在しているといわれています」(大竹先生)
さらに、腸と脳は一方通行の関係ではなく、腸から脳へも、情報が伝達されています。たとえば、私たちが毎日、定期的に「お腹が空いた」と感じるのは、腸から脳へ、空腹状態を伝達しているから。このように、お互いに影響し合う脳と腸の関係は“脳腸相関”と呼ばれています。
腸はストレスを受けやすい?
腸と脳は、お互いに影響し合うため、腸はストレスを受けやすい臓器ともいえます。
そのメカニズムを、説明しましょう。たとえば不安や心配などを感じ、脳が強いストレスを受けると、ストレスホルモンが分泌されます。すると、自律神経の交感神経が優位になり、血管が収縮し、血圧が上昇。一方で、腸の活動は停滞してしまいます。結果として腸内環境に悪影響が及ぼされることになります。
ストレスと腸内環境の関係については、たびたび実験が行われています。1976年、NASAで行われた実験で、ストレスを感じる環境にいると、腸内細菌の悪玉菌が増えることがわかりました。また、腸と腎臓に関する研究を行っていた方の多数が阪神淡路大震災に被災され、震災の前後で腸内細菌を調べたところ、震災後のほうが明らかに悪玉菌が増えていたのです。
このように、ストレスを感じると腸の働きが悪くなり、腸内環境が悪化。その結果、腸内細菌のバランスが崩れて悪玉菌が増え、便秘や下痢、腹痛を起こしてしまうのです。また、食生活の乱れなどで腸内環境が悪化し、悪玉菌が増えることで、ストレスを感じやすくなるともいわれています。
とはいえ、現代社会でストレスとまったく関わらずに過ごすのは難しいもの。どうすれば、ストレスと腸の悪循環を断ち切ることができるのでしょう?
「腸内環境をよくすれば、ストレスを感じにくくすることができます。ふだんから腸内環境をよくする生活習慣を心がけ、ストレスを受け流せる体を作ることが大切ですね」(大竹先生)
幸せのモトは腸にあり!
腸内環境がよくなると、ストレスに強くなるだけでなく、前向きでハッピーな気持ちも高まるそう!
「脳内伝達物質“セロトニン”は、別名“幸せホルモン”とも呼ばれています。そして、その90%以上が腸で作られています。腸で作られたセロトニンが脳に届くわけではありませんが、腸内環境が良好で、セロトニンが十分に分泌されていると、毎日をポジティブに過ごすことできると考えられています」(大竹先生)
反対に、セロトニンが不足すると気分が落ち込みやすく、うつ病を発症するリスクが高くなると考えられています。心身を健やかに保つためにも、腸内環境を整えることが、とても大事なのです。
そこで次回は、腸内環境をよくする食べ物について、大竹先生にくわしく教えてもらいます。
取材・文/野口美奈子