昆虫を食べる、と聞くと驚く人がほとんどでしょうが、じつは環境にやさしい高品質なたんぱく源として多くの科学的研究が進行中。世界の食に関わる国連食糧農業機関(FAO)も人口増加などによる食糧難対策として重視。世界中でベンチャー企業も生まれています。昆虫食っていいの?
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肉や牛乳などと並ぶたんぱく源として注目
昆虫食がなじみのないものかというと、アジアでは昔から普通に食べられてきました。日本でも昔から親しまれ、イナゴの佃煮や蜂の子などは現代でも珍味として残っています。ほかの食べ物が手に入りやすくなったなど、さまざまな理由で衰退したのです。
それが一転して、最近、注目されはじめるようになっています。そもそも国連食糧農業機関(FAO)が2003年から研究を続けており、人間にとって高品質なたんぱく質、ビタミン類、アミノ酸を含む食品として注目するようになったのです。もともとは世界的な人口増加、寿命の延び、経済安定性の向上など、世界の食を安定させるという視点から見直されました。それが、日本を含めて昆虫食のベンチャー企業が生まれるなど、昆虫食を生活に取り入れようとするまた違った方向へのムーブメントが広がっています。
このたび英国ノッティンガム大学のソルター教授の研究グループが、昆虫食が注目される背景やその意義について報告を出しました。これによると、昆虫食は、肉や乳製品、卵や魚などに並ぶ動物性たんぱく質として関心を集めているそう。必須アミノ酸の含有量や消化率のよさに加えて、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB群、必須脂肪酸などの微量栄養素も豊富という動物性たんぱく質のいいところを、昆虫食も持っているとしてその価値が認められるようになっているようです。
意外な利益があるかもしれない
さらに、昆虫食が注目される理由として、これまでの食品を上回る健康面でのメリットがあるのではという観点も出ているよう。逆に言えば、現在、主に食べられている動物性たんぱく質は、健康面でのデメリットが問題視されるようになっているのです。例えば、赤身肉や特に加工肉は、がんや心臓病などを含めたさまざまな病気のリスクを上げてしまう可能性があり、健康の面でのデメリットが知られるようになってきました。
国連食糧農業機関も、昆虫食は、肉や魚よりも栄養が多いほか、健康によい脂肪酸を多く含み、薬としても使われることがあるなどの健康面での活用の可能性を指摘しています。例えば、最近、ドイツの研究グループは、動物実験ではありますが、ミールワームという昆虫食が、コレステロールや中性脂肪の上昇を抑えるという研究結果を報告しました。これも人間の食べ物としての可能性を視野に入れた研究なのです。
さらに、大切なのは、環境面での負荷が小さいところ。適切な環境で飼育すれば、温室効果ガス排出量を圧縮でき、土地や水も少なくて済むなどメリットもあるのです。
病原体をゼロにしたり、有毒な成分をなくしたりするなどの研究は必要ですが、近い将来に、新しいたんぱく質源として思いのほか身近になったとしても不思議ではありません。
<参考文献>
J Nutr. 2019 Apr 1;149(4):545-546. doi: 10.1093/jn/nxy315.
https://academic.oup.com/jn/article/149/4/545/5428116?searchresult=1
J Nutr. 2019 Apr 1;149(4):566-577. doi: 10.1093/jn/nxy256.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30726942
Insects for food and feed
http://www.fao.org/edible-insects/en/