子宮内膜症を患う女性には、骨盤の痛みに悩まされている人が多くいます。そのような骨盤痛は、手術療法やホルモン療法を受けてもなかなか改善されず、また一時的に治ったとしてもまた再発しやすいものです。このたび米国の研究機関が発表した内容によると、骨盤底筋のけいれんを抑えると痛みがやわらぎ、生活の質が向上するそう。はたして骨盤痛に悩む女性に朗報となるのでしょうか?
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ボトックス注射を骨盤底筋に?
世界中で子宮内膜症に悩む女性の数は、17億6千万人にも上るといわれます。子宮内膜症は、本来、子宮の内側にある子宮内膜組織が、子宮以外の場所で増えてしまう病気のことで、生理痛をはじめとする痛みと不妊が主な症状です。
婦人科での一般的な治療法には、ホルモン療法や、また重症度によっては手術療法による組織の切除があります。しかし、これらの治療を受けた後にも痛みが再発しているケースが多くの症例で示されています。
このたび米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)の研究チームが、子宮内膜症によって起こる骨盤の痛みには、骨盤底筋のけいれんが関連していることを明らかにしました。そしてそれを改善するにはボツリヌス菌の毒素であるボトックスの注射が効果的なのだそうです。
けいれんが落ち着くことで痛みがとれた
研究チームが調査の対象としたのは、子宮内膜症の治療としてホルモン療法を受け、それにもかかわらず痛みが続き、骨盤底筋にけいれんの症状がある患者13人。この臨床試験では、患者の骨盤底筋のけいれんする部位に、初回はボツリヌス毒素か食塩水のいずれかを注射し、1か月後に今度は全員にボツリヌス毒素を注射。その後4か月間、経過を観察しています。
するとわかったのは、ボトックス注射には、骨盤底筋のけいれんを完全に抑えるか、その回数を減らす効果があるということでした。対象患者の13人中11人が、注射を受けてから2か月後には、痛みが緩和するか、完全に痛みがなくなっていたのです。また、対象患者の半数で痛み止めの使用量が減っていました。
子宮内膜症による痛みは、女性の生活の質に大きく影響します。研究グループは「この治療法で、多くの女性がもとの生活を取り戻せるようになる」と、この治療法に大きな期待を寄せています。しかし今回の研究はまだ小規模で期間も限られているため、さらなる大規模な研究が必要とされます。いずれにしても、ボトックス注射には、まだ多くの可能性が秘められているといえそうです。
<参考文献>
NIH scientists identify spasm in women with endometriosis-associated chronic pelvic pain
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/nih-scientists-identify-spasm-women-endometriosis-associated-chronic-pelvic-pain
文/星良孝