現在クラミジアは世界中で最も蔓延する感染症のひとつで、最近では若い女性の感染者数が増加傾向にあります。感染すると、骨盤内で炎症が起こり不妊症や子宮外妊娠の原因にも。WHOはそのワクチン開発の重要性を提言していますが、これまで有効なワクチンは存在していませんでした。このたび英国の研究グループは世界で初めて有効なクラミジアワクチンを見つけたことを報告しました。
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これまで有効なワクチンはなかった
クラミジアは、現在最も蔓延している性感染症(STI)のひとつです。世界の発生者数は毎年1億3100万件と推計され、病気による影響を示す「疾病負荷」は地球規模で大きくなっています。しかし無症状なことが多く、実際には感染者数はさらに多いと推測されています。最近では、若年層、そして女性に増加傾向がみられます。
一般的にクラミジアの治療には抗菌薬が用いられています。重症化すると炎症、不妊、子宮外妊娠、関節炎につながるほか、さらにはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などそのほかの性行為感染症に感染しやすくなります。多くの感染者が無症状なことから、治療せず不妊症の原因となることも。また、無症状で治療を受けていない感染者が多いほか、治療を受けて治っても、再感染しやすいことがあります。
英国の研究グループは「その悪循環を断ち切る」ためのワクチンの開発を進めてきました。構成の異なる2種類のワクチン候補を比べて、どちらがより有効であるかを調べました。
対象となったのは、英国ロンドンとデンマークのコペンハーゲンで無作為に選ばれたクラミジアに感染していない35人の健康な女性。対象の女性は、3つのグループに分けて、そのうち15人は「リポソームが入ったワクチン」を接種してもらいました。
もうひとつのグループの15人には「水酸化アルミニウムが入ったワクチン」を接種してもらいました。
残りの5人は「生理食塩水(偽薬)」を接種してもらいました。全員に、数か月の間に3回の筋肉注射とその後の2回の経鼻投与で、計5回のワクチンを接種してもらいました。
ワクチンに希望が
わかったのは、偽薬グループでは免疫反応は引き起こされませんでしたが、ワクチンを受けた2つのグループの全員に免疫反応が引き起こされ、さらにリポソームが入ったワクチンで、より安定してクラミジアの感染を防ぐための多くの抗体が生産されていました。
研究グループは、今回の研究結果は「とても重要な第一歩」であるとしています。このリポソームの入ったワクチンで引き起こされた免疫反応が、クラミジア感染の予防に有効であるかは、今後さらに研究を進める必要があるとしたうえで、「ワクチンの安全性が示され、クラミジア感染を防ぐ可能性のある免疫反応が見られたことから、今後に大いに期待が持てる」といいます。
研究グループは「臨床試験をさらに重ねていかなければ、このワクチンの有効性を確実に示すことはできない」とし、この世界的な健康問題を解決するには、今回の研究結果にとどまらず、より大規模なプロジェクトで、企業や研究機関を巻き込み一緒に技術や専門性を高めていくことが必要であると指摘します。
今後の研究で、このワクチンのクラミジア感染の予防効果がさらに解明されることが期待されます。
<参考文献>
First vaccine for chlamydia shows promise in early trials
http://www.imperial.ac.uk/news/192449/first-vaccine-chlamydia-shows-promise-early/
WHO guidelines for the treatment of Chlamydia trachomatis
ISBN: ISBN 978 92 4 154971 4
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/246165/9789241549714-eng.pdf;jsessionid=BFAA19CDE9D84DE1D5E3B76E7C6DC9D6?sequence=1
国立感染症研究所「性器クラミジア感染症とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/pertussis/392-encyclopedia/423-chlamydia-std-intro.html
文/星良孝