検診や予防医療の効果を分析している米国の専門家委員会が、特に症状のない一般人では膵臓がんの検診を行わないほうがよいと勧告を出しました。最新の科学的な根拠に基づいて、2004年の勧告を再確認したもので、膵臓がんになりやすい遺伝子を持つ人や、膵臓がんになった家族がいる人など、リスクが高い人でなければ推奨できないということです。
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発生率は低いが死亡率が高い
勧告を行ったのは「米国予防医学専門委員会(USPSTF:U.S. Preventive Services Task Force)」という、米国連邦政府と独立した専門家から成る委員会です。膵臓がんに限らずさまざまな検診を受ける意味があるかどうかを科学的な根拠に基づいて分析。その結論を発表しています。推奨の考え方は、多くの分野で影響力を持っており、国際的にも大きく注目されてきました。
USPSTFが今回勧告の対象とした膵臓がんは、米国においては年間の発生率が10万人当たり12.9人と稀ながんですが、死亡率は10万人当たり11人。これは死亡率としては高く、米国ではがんによる死亡として3番目に多いものです。日本でかかる人は7番目に多く、死亡数は4番目に多くなっています。
今回USPSTFは、一般の人を対象とする膵臓がんの検診は行わないほうがよいとする2004年の勧告を確認するために、新しい科学的な根拠を分析しました。
検診の利益は小さく、むしろ有害性がある
分析の結果、膵臓がん検診や、検診で検出された膵臓がんの治療によって、膵臓がん患者の割合や死亡率が下がるという証拠は見つからないと指摘しました。また、CTやMRI、超音波内視鏡など現行の画像検査では、膵臓がんを正確に検出できるという証拠も見つからないと説明しています。膵臓がんを早期に発見できる有効なバイオマーカーも、今のところないとしています。
これらの結果に加えて、膵臓がんは発生率が低く、初期段階で治療しても結果がよくないことを考え合わせ、一般人を対象とする膵臓がん検診の利益は小さいと判定。むしろ検査の正確性が低く、膵臓がん検診や検診で検出された膵臓がんの治療による有害性のほうが問題になると判定しています。
たとえば、がんではない人ががんと判定される「偽陽性」の可能性が高くなるほか、検診に伴う精神的なストレス、無用な検査などによる身体的な有害性、膵臓がんが検出された場合の手術に伴う合併症や死亡の危険性などを問題視しています。USPSTFはこのような検診のメリットとデメリットをてんびんにかけたうえで、特に症状がない一般人では膵臓がんの検診は勧められない「グレードD」と結論しました。
ただし、膵臓がんになりやすい遺伝子を持つ人や、膵臓がんになった家族がいる人など、リスクが高い人は今回の勧告の対象にはなりません。がんの検診は症状がないときにも受けるものになります。お腹の痛みが続くなど症状があるときや、心配になったときにはためらわずに医療機関に相談するような考え方が大切といえるのでしょう。
<参考文献>
JAMA. 2019 Aug 6;322(5):438-444. doi: 10.1001/jama.2019.10232.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31386141
U.S. Preventive Services Task Force Issues Final Recommendation Statement on Screening for Pancreatic Cancer
https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Name/newsroom
USPSTF Still Recommends Against Screening for Pancreatic Cancer in Asymptomatic Adults
https://media.jamanetwork.com/news-item/uspstf-still-recommends-against-screening-for-pancreatic-cancer-in-asymptomatic-adults/