磁石などから発生する磁気は、体内を映し出すMRIをはじめとして、医療の分野でも盛んに使われています。そうしたなかでも注目されているのが、治療の目的で使われる磁気の効果です。このたびイスラエルなどの国際研究グループが、「強迫症」と呼ばれる精神疾患に対する効果がありそうだと報告しました。今後、日本の治療にも影響するかもしれません。
Contents 目次
強迫症とは?
強迫症は精神疾患のひとつで、「強迫観念」や「強迫行為」と呼ばれる、くり返し同じ考えや行動にとらわれたりすることを特徴とする病気です。例えば、物事の嫌なイメージにいつまでもとらわれたり、病的に爪を噛んだり毛をむしったりすること。たとえば、誰しも「戸締まりを忘れたかも」と、気になることはありますが、強迫症では病的に戸締まりが気になって、通常の生活が送れなくなってしまうといったことが起こり得ます。異常に家のなかにゴミをため込んでしまう、自分の家をゴミ屋敷にしてしまう人もこうした精神疾患との関連が考えられています。
このたび研究報告をした国際研究グループによると、世界では毎年1000人当たり12人の成人が患うとされ、一生のうち発症する人は2.3%になるといいます。一般的には通常の精神疾患の治療と同じように、カウンセリングによる治療や薬を使った治療が行われることになります。
そうしたなかで、今回、研究グループが調べたのは「dTMS(深部経頭蓋磁気刺激)」と呼ばれる頭に磁気を当てて脳の深部に刺激を与える治療の効果です。研究グループは、強迫症の99人をランダムに磁気による治療を行うグループと、偽の治療を行うグループに分けて、それぞれの症状への効果を比べました。治療を受けたのは、すでに薬による治療を行ってうまく症状が治らず失敗に終わった患者でした。
38%の人に効いた
わかったことは、磁気の治療を受けた人のほうが、症状が軽くなったということです。
具体的には、2つのグループはそれぞれ6週間の治療を受け、磁気による治療を受けたグループでは、症状が軽くなった人が38%見られました。一方、偽の治療を受けていたグループでは、11%にとどまりました。治療が完了した1か月後にも比べたところ、磁気のグループで症状が軽くなったのは45.2%なのに対して、偽のグループは17.8%と、大きな差がつきました。
強迫症にはさまざまな症状がありますが、どの人にも同じ治療を行って効果が出たことが重要だと研究グループは指摘しています。日本でもうつ病に対してTMSによる治療が行われており、今後、広がりを見せるかもしれません。
<参考文献>
Am J Psychiatry. 2019 May 21:appiajp201918101180. doi: 10.1176/appi.ajp.2019.18101180. [Epub ahead of print] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31109199
Deep magnet stimulation shown to improve symptoms of obsessive compulsive disorder
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/09/190908124443.htm
Noninvasive brain stimulation in obsessive–compulsive disorder
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6343411/
Transcranial Magnetic Stimulation (TMS) for Obsessive Compulsive Disorder (OCD)
https://iocdf.org/expert-opinions/transcranial-magnetic-stimulation-tms-for-obsessive-compulsive-disorder-ocd/