AI(人工知能)という言葉をいたるところで聞くようになりました。そして、今、急速に応用が進むのが医療への活用です。米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループが、乳がんの画像診断の精度を向上させるAIシステムを開発。診断の見落としを大幅に減らせるのではとの期待が高まっています。
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隠れた乳がんを見逃さない
研究グループが着目したのは、まず、がんの画像診断による検査や遺伝子医学は大きく進歩しているものの、乳がんを早期発見できず治療開始が遅れるケースが依然として多いという現状です。
乳がん検診で行われるマンモグラフィーが一般的に行われているのはご存じの通り。そこで撮影した画像を医師が読影し診断を行います。しかし、40歳未満では乳腺が発達しているため、マンモグラフィーでは乳腺の異常がわかりにくいことがあります。さらに、閉経前でいわゆる高濃度乳房の人では、正常の乳腺組織のなかにある乳がんを区別してみつけるのが難しく、熟練した医師ですら画像診断で見落としてしまうことがあります。
乳がんの検査においては、バイオプシー(乳房生検)によって診断することが欠かせませんが、2015年に米国の研究グループが行った調査によると、病理学者ごとに生検画像の解釈が異なっている問題が判明。非浸潤性乳管がん(DCIS)を患っていた女性の 6人に1人に診断ミスがあり、その半数が細胞異型(乳がんのリスクが高い異常細胞)の生検検査の際での誤診が原因だったのです。
そこで今回、研究グループは、AIを用いてバイオプシーの画像の診断を試みました。そうして人の目では検出が難しい乳がんのパターンを見つけることで、画像診断の精度が向上するのではないかと考えたのです。
まず研究グループは、AIに240件の生検画像から良性の細胞のほか、複数の種類のがん細胞などについて学習させ、病変のパターンを認識できるようにしました。またそれとは別に、3人の病理学者が生検画像の正確な病理診断を行い、コンピューターに教え込んでいきました。
こうして開発された検出システムを使い、研究グループはシステムによる診断結果と、87人の病理学者による診断結果を比べて、実力を評価したのです。
やはりAIは人間より正確だった
するとわかったのは、がんかそうでないかを見分けるのはAIも人間の医師も同じような結果でしたが、診断が最も難しいとされるがんに至らない段階の細胞異型と、非浸潤性乳管がんの検出においては、AIが人間の医師をはるかに上回るということでした。
研究グループが開発したAIシステムは、人間の医師に比べ、画像上に示されものが非浸潤性乳管がんなのかそれとも細胞異型なのかを、より正確に見分けることができたのです。病理学者の感度は0.70であるのに比べ、システムの感度は0.88~0.89の間でした(感度がより高い方が、診断や分類が正確であることを示します)。
研究グループは、現在のアメリカで「非浸潤性乳管がんや細胞異型の診断において、病理学者の診断の精度は低いのが現状」と指摘し、「今回の結果はとても期待ができる」としています。
AIと専門医の目視によるダブルチェックを行うことで、将来的には見落としを最大限に防ぐことが期待されており、研究グループは現在、非常に悪性な皮膚がんのひとつであるメラノーマにまでこのAIシステムを拡張させる研究を進めています。
<参考文献>
Using AI to predict breast cancer and personalize care
http://news.mit.edu/2019/using-ai-predict-breast-cancer-and-personalize-care-0507
Artificial intelligence could yield more accurate breast cancer diagnoses
http://newsroom.ucla.edu/releases/artificial-intelligence-breast-cancer-diagnosis
JAMA Netw Open. 2019 Aug 2;2(8):e198777. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2019.8777.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31397859