睡眠の質は、美容から健康までじつにさまざまな影響を与えていることが研究でわかってきています。そして、このたび、不安感を和らげるというもうひとつの効果が報告されました。必要なのは「ノンレム睡眠」と呼ばれる深い眠り。これが足りないと、感情をつかさどる脳の「前頭葉」の働きに悪影響を及ぼし、逆に不安感が増してしまうようなのです。
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睡眠は不安感にどう影響?
総務省の調査によると、日本人の睡眠時間は平均7時間40分。ベストな睡眠時間は人それぞれですが、適切な睡眠をとることが大事であるのはたしか。では、なぜ睡眠をとらなければいけないのか、眠ることのメリットをめぐる研究は着実に進んでいます。
今回、米国カリフォルニア大学の研究グループが調べたのは睡眠が及ぼす不安感への影響です。18人の成人を対象として、十分に眠った翌朝と眠らなかった翌朝とで不安感に違いが出るかどうかを調べたのです。起きたあとに、気持ちを動揺させるような映像を見てもらい、脳のMRIと睡眠ポリグラフ検査(睡眠中の脳波や眼球運動を調べる)で脳の状態の違いを調べ、質問票を使って不安感を評価しました。
眠らないと不安感が30%増す
その結果、判明したのは、眠らなかった翌朝は、最大で30%も不安感が増すということ。その理由は、不安感の調整を助けている脳の「前頭葉」の前部の活動が低下してしまっていたことにあります。自律神経などをつかさどる領域とのつながりが悪くなってしまう一方、さらに深いところの感情中枢が活動過多になっているとわかりました。
また、よく眠った夜の睡眠ポリグラフ検査によると、ノンレム睡眠が多かった人ほど不安感が和らいでいました。ノンレム睡眠は、血圧や心拍数が下がって、ゆっくりした脳波が現れる深い睡眠段階。つまり、深い睡眠は不安感を和らげる脳のネットワークをよくすると考えられます。
さらに、30人を対象にした実験や、インターネットによる追跡調査でも、睡眠による不安感の軽減を確認しました。研究グループは「ノンレム睡眠が不安感を和らげる効果があることを示す結果」と説明。現代社会における睡眠不足や質の低下と不安障害の増加は因果関係があると指摘し、不安障害の治療法に睡眠の改善が選択肢になると提案しています。
ちなみに、カリフォルニア大学ではよく眠るために次のようなコツを紹介しています。
・毎日決まった時間に寝起きする(週末も)。
・寝室の温度は18℃くらいが寝やすい。
・就寝する1時間前には部屋の明かりを薄暗くして、デジタル画面は切る。
・眠れないときはベッドから出て、眠くなるまで何かリラックスできることをする。
・午後1時以降はカフェインをとらない。お酒に酔った状態で寝ない(アルコールは、夢を見る睡眠の「レム睡眠」を妨げる)。
しっかり睡眠をとることの重要性がますます認識されることになりそうです。
<参考文献>
総務省「平成28年社会生活基本調査」
Stressed to the max? Deep sleep can rewire the anxious brain
https://news.berkeley.edu/2019/11/04/deep-sleep-can-rewire-the-anxious-brain/
Nat Hum Behav. 2019 Nov 4. doi: 10.1038/s41562-019-0754-8. [Epub ahead of print] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31685950