罪悪感に欠け、自らの欲望のまま衝動的に行動を起こし、反社会的な人格をもつ「サイコパシー」と呼ばれる特徴をもった人たち。凶暴な振る舞いをとることで知られる、そのような傾向をもつ人は刑務所のなかにいるのを思い浮かべますが、実際にはふつうに社会に溶け込み、その多くの人が成功を収めていると米国から報告されています。その秘密は、犯罪行為や反社会的な衝動をうまくコントロールする能力にあるのだそうです。
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少年犯罪者1354人を7年間追跡調査
サイコパシーとは、「反社会性パーソナリティ障害」と呼ばれています。その特徴として、良心の呵責や罪悪感の欠如、人をたくみに操る能力が挙げられます。このたび米国バージニア・コモンウェルス大学の研究グループが、サイコパシーの傾向をもつ人の多くが、企業の最高経営責任者(CEO)、弁護士、政治家といった成功者であるケースがあり、ある特定の人格の特徴がかかわっていると報告しました。
研究グループは、2003年から2010年に米国アリゾナ州およびペンシルバニア州で判決を受けた男女1354人の少年犯罪者(14~17歳)を対象に、「成功したサイコパスには反社会的な衝動を抑制する能力がある」という仮説を調査で検証しました。
対象者は、性的暴力、銃や刀剣類の所持などの重罪で逮捕された人たち。研究グループは調査対象者のサイコパス特性を、「青少年精神病学的特徴インベントリー(YPI)」という方法を用いて、「誇大・操作」「冷淡・非情緒」「衝動・無責任」の3つの側面から測定。また日常生活における怒りや衝動のコントロールの程度を、「Weinberger Adjustment Inventory(WAI)」と呼ばれる手法を用いて測定しています。加えて、自己申告による非行の尺度を測る「Self-Reported Offending(SRO)」という質問票で、直近6か月の犯罪行為への関与を報告してもらっています。
7年間の調査期間中、6か月毎に調査を実施し、各対象者から計14回の測定結果を回収しています。
成功の秘密は「誠実さ」と「衝動のコントロール」
調査からわかったのは、初期段階でサイコパスの特性が強いほど、その後、衝動性や攻撃性を抑制する能力が大きく伸びる傾向がみられることでした。のちに「成功者」となった少年犯罪者や、再犯回数が少なかった少年犯罪者で、そのような傾向が際立ってみられたのです。
研究グループの指摘によれば、サイコパスの傾向が強い人の場合、衝動を抑制するスキルを高めると、社会的に成功できる可能性もあるということ。もともとサイコパスの特徴もあって犯罪に走った人でも、早期介入して長所を伸ばすと、犯罪的な行為を防ぎ、成功していく可能性があると指摘します。さらには、サイコパスの傾向がある人に特有の大げさに表現する能力、他人を操るのに長けた能力が、逆に強みになっているのではないか、と研究グループはいいます。
サイコパスの人たちが社会に適応するには「誠実性」の発達が大きくかかわると今回の調査結果で示されました。「成功した」少年犯罪者でその傾向が強くみられたとのこと。今回の研究から考えると、サイコパスと呼ばれる特徴をもった人は、偏った面がある一方で、感情をコントロールする能力が長けており、そのあたりが成功に関係しているといえるのかもしれません。
<参考文献>
Not all psychopaths are violent. A new study may explain why some are ‘successful’ instead.
https://news.vcu.edu/article/Not_all_psychopaths_are_violent_A_new_study_may_explain_why_some
Lasko, E., & Chester, D. (2020, April 24). What Makes a ‘Successful’ Psychopath? Longitudinal Trajectories of Offenders’ Antisocial Behavior and Impulse Control as a Function of Psychopathy.
https://doi.org/10.31234/osf.io/rjg3q
https://psyarxiv.com/rjg3q/