新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中で働く環境が急速に変化しています。働き方改革の一環としてテレワークを導入する企業が増加しており、ポストコロナではオフィス環境もより柔軟さが求められてくると考えられます。このたびオフィス環境の快適さを調べた研究から、集中力を低下させるさまざまな原因が見出されました。頻繁な会議が問題になる理由は意外なところにあるようです。
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集中度に影響する要因とは
新型コロナウイルス感染症の新たな発症例が減って、外出自粛の要請が緩和され、国内でも企業がオフィス勤務を再開しています。「ポストコロナ」と呼ばれるこれからの時代はテレワークをはじめ働き方も大きく変化すると予想されています。「フリーデスク」あるいは「ホットデスキング」といった、机やコンビュータなどをシェアするオープンオフィスの仕組みも注目されるとみられています。こうしたなか、新しい働き方にするときにいちばんの課題は、仕事に集中できる環境を整えることでしょう。
このたび豪州ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)の研究グループは、スタッフの集中度を把握することで、よりよいオフィス空間をレイアウトするための研究を行いました。技術コンサルタント会社と集中度を測定する人工知能(AI)を応用したセンサーシステムを共同開発。研究グループは、センサー開発にあたり、心理学者と集中度や快適度に関係する主な要因を割り出しています。新しいシステムは、騒音レベル、室内温度、空気質、湿度、気圧、電磁場のデータを収集し、アルゴリズムにより機械学習させて、データに潜む集中度やスタッフの行動のパターンを分析したのです。
研究グループは、4週間にわたって合計31人が働く大学と技術コンサルタント会社の2か所のオープンオフィスで新しいシステムの実用性を試験しました。
オフィスづくりの注意点は?
こうしてわかったのは、オープンオフィスの環境下では、スタッフは総じて互いに協力的であった一方で、集中できるお気に入りの場所がそれぞれにあること。たとえば、多くのスタッフは窓側やオフィスキッチン、はたまた上司の席の近くなど、それぞれお気に入りの席を決めているのです。逆にそれ以外の場所では集中力を保つのを難しく感じていました。お気に入りの席以外に座ると室温に対しても敏感に反応していることがわかりました。
室温はどの席に座るかにかかわらず、スタッフの快適度や集中度を大きく左右していることも判明。ほとんどのスタッフが22.5℃以下では寒すぎて集中しにくいと感じ、時間が経つにつれ室温に対し敏感になっていました。午前中の集中度にもっとも影響していたのは、やはり前日の睡眠の質でした。
会議や打ち合わせの頻度も、集中度に大きく影響していることが示されました。1日に5回会議に出席していたスタッフは、それよりも頻度が少なかったスタッフに比べて、集中力が低下していることが示されました。研究グループはオープンオフィスでよくある「軽い打ち合わせ」も測定したところ、会議の頻度が減ることからそのような打ち合わせを好むスタッフがいる一方で、仕事の妨げになると感じているスタッフもいることがわかりました。
会議が悪影響を及ぼすのは、スタッフが密集することで空気中の二酸化炭素レベルが上昇してしまうからである可能性もあるようです。それは結果として集中力を低下させる要因になるのです。「二酸化炭素レベルと室温の快適域に関する今回の結果は、オフィスデザインにおいて高機能の空調システム及び、二酸化炭素を削減する観葉植物の重要性が示された」と研究グループは提案しています。
ポストコロナの時代に働く環境が大きく変わるなか、「今回開発したAIによる新センサーシステムは、新たな職場環境での柔軟な働き方の実現につながる」と研究グループはいいます。時代に適した新しい働き方の可能性を広げてくれる、このような新技術の開発が今後も期待されます。
<参考文献>
Can’t concentrate at work? This AI system knows why
https://www.rmit.edu.au/news/all-news/2020/jun/office-comfort-and-concentration
M. S. Rahaman et al., “An Ambient-Physical System to Infer Concentration in Open-plan Workplace,” in IEEE Internet of Things Journal, doi: 10.1109/JIOT.2020.2996219.
https://ieeexplore.ieee.org/document/9097829