新型コロナの影響で、変わりゆく私たちの暮らし。こんな時代だからこそ、手探りで、自分らしい新しい暮らしや未来を切り開く—。そんなヒントを本から見つけてみませんか。カリスマ書店員として知られる新井見枝香さんが独自の視点で選ぶ「コロナ禍の今だからこそ、読みたいオススメ本」シリーズ。3回目は「ヘルスケア」をテーマに2冊をご紹介します!
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勤め先の店長は、急な頭痛や腹痛によるスタッフの遅刻に対し、必ず「無理はしないで」と優しい声を掛ける。
幸い私は生まれつき体が強く、病気や怪我で学校や仕事を休んだことが、ほとんどなかった。だが本当のことを言うと、しんどかった日がなかったわけではない。熱があるとか腹を下したとか、わかりやすい症状があるなら、理由を述べて病院へ行くこともできる。だが私の場合、ただひたすらダルいのだ。正直に「ダルいので遅刻します」と言えば、心証が悪すぎる。しかし他に言い表しようがない。噓を吐いて後ろめたい思いをするくらいなら、砂袋みたいな体を引きずり、ブルドッグのように垂れ下がる顔面の肉を全力で引っ張り上げてでも、うすら笑いを作ったほうがまだマシだった。しかしそんな状態で仕事をすれば、するはずのないミスをする。もしかしたらお客様にだって、不快な思いをさせてしまっていたかもしれない。本当に厄介な不調なのだ。
今のところ、原因も治し方もわからないが、午後にはすっかり治ることもあるため、スマホで「ダルい」「死にそうにダルい」などと検索はしても、病院には行っていない。何科に行って、何と訴えればいいのだろうか。
雁須磨子さんの漫画『あした死ぬには、』(太田出版)は、映画の宣伝会社で働く40代の女性が、激しい動悸で目覚めるシーンから始まる。遅刻するわけにはいかないと、何とか支度して満員電車に乗り込むも、しんどい。気を張り詰めて働き、ようやく眠りに就いたと思ったら、今度は夜中に、さらに酷い症状が出る。さすがに救急車を呼んで診察してもらうも、先生には「どこも悪くない」と言われてしまった。大したことがなかったら恥ずかしいからと、ギリギリまで我慢した人が、どうしてもっと早く病院に来なかったのかと叱られるケースだってあるのに。うちの店長は、身近な人が、そういうことで取り返しのつかないことになった経験があるのかもしれない。
コロナで自宅待機が続いた頃、妙に体調が良いことに気づいた人も多いはずだ。死に直結するような病でなくとも、人間には体調の浮き沈みがあり、それは無理して会社に行かなくていいだけで、しなくてもいい苦しみを回避できるのだ。
職場では、低気圧による頭痛に悩む同僚が、スマホのアプリ「頭痛ーる」をチェックしている。原因が天候によるものだとわかるだけで、気持ちが楽になるのだろう。私にとっては「CoCo美漢方」田中友也さんのTwitterが、それと同じような効果をもつ。朝の目覚めが悪いとき、《味噌汁を飲むと眠りを即すホルモン「メラトニン」の分泌が高まります》なんてツイートを目にすると、もう大丈夫な気がしてくるのだ。
病院に行くほどではない不調をまとめた田中さんの本『不調ごとのセルフケア大全 おうち養生 きほんの100』(KADOKAWA)は、症状から検索して、今すぐできる東洋医学的対処法を知ることができる。鼻づまり、胃腸の不調、肌荒れ、PMS。今日は大丈夫でも、過去に経験のある体調不良は、それに効くツボや食材を知っているだけで、心強い。体調の異変に敏感な今、手元に置いておきたい相棒だ。
文/新井見枝香
【今回のオススメ本2冊】
『あした死ぬには、』 雁 須磨子 著(太田出版) ¥1,200
20代ほどがむしゃらじゃない、30代ほどノリノリじゃない。40代で直面する、心と身体の変わり目。突然の病気、更年期障害、取れない疲労、美容の悩み、お金の不安、これからの人生プラン……私のあしたはどうなるの!? 切実に生きる女子たちの「40代の壁」を描くオムニバスシリーズ。
『不調ごとのセルフケア大全 おうち養生 きほんの100』 田中友也 著(KADOKAWA) ¥1,400
一家に一冊置いておきたい新しい「家庭の医学」。おうち時間に簡単に取り入れられる、あらゆる不調に対応するセルフケア術をまとめた一冊。養生レシピも多数掲載。