久しぶりに実家へ帰ったり、誰かの家を訪ねたり、どの家も訪れるとその家特有の“香り”を感じますよね。なつかしい香りや心地よい香りならいいですが、ときにそうではない“ニオイ”も。
一方、自分の部屋のニオイはなかなかわからないもの。家にいる時間が増えている昨今では、部屋の空気とともにニオイもこもりやすくなっている上、夏になると気温や湿度の上昇で、洗濯物の生乾き臭やカビ臭が発生しやすくなるなど、ますます部屋の“心地よくないニオイ”が気になるようになりがちです。
そんな部屋の気になるニオイの原因や対策について、臭気判定士の石川英一さんに教えていただきました。
Contents 目次
部屋のニオイはどこから? 悪臭の発生源を探る
まず、石川さんが務める「臭気判定士」とは? これは国家資格で、機械ではなく“人の鼻”でニオイの濃さを嗅ぎ分ける、嗅覚測定法の知識と技量を持った専門家のこと。
「ニオイというのは、さまざまな成分が混ざり合ってできています。機械では、アンモニアや硫黄水素など、それぞれの成分の数値を測ることはできても、何種類ものニオイが混ざっている場合に、どの成分が原因で悪臭になっているのかを特定することはできません。そのため、悪臭の原因を探るには、人間の鼻で嗅ぐ必要があるのです。
わたしはフリーランスの臭気判定士として、さまざまな企業や個人のお客さまからの依頼も引き受けるスタイルで活動をしていますが、多くの臭気判定士は企業や研究所などに所属している会社員です。会社の業務を行うために臭気判定士の資格を取得し、消臭グッズなどの製品開発に関わる仕事をしている方が多いですね。ちなみに国家資格ではないのですが、悪臭以外の幅広いニオイを扱う『におい・かおり環境アドバイザー』という新しい資格もできました」(臭気判定士・石川英一さん、以下同)
新しい資格が生まれるほど、需要が高まっている職業といえるでしょう。では、臭気判定士として多くの経験を積んでいる石川さんが気づいた、部屋の悪臭発生源とはどこなのでしょうか?
「部屋の不快なニオイとなる大きな要因は、キッチンから出る調理の油です。調理中の煙には油分が多く含まれていて、換気扇を回していても完全に吸い取ることができません。その煙がキッチンからダイニングへ伝わり、窓付近まで移動しますし、キッチンから廊下を伝って玄関までも広がってしまいます。気密性の高いマンションなどでは、とくにこれらのニオイがこもりやすくなります。それらの煙は、カーテンやカーペット、ソファなど、布製品に吸収されます。そして、煙に含まれていた油が酸化することで、独特の嫌なニオイが発生してしまうのです。
また、カビ臭にも注意が必要です。浴室やトイレ、北側の部屋は、湿気が高くなるのでカビが生えやすくなります。キッチンから発生したニオイ成分も湿気の高い場所に集まりやすいので、酸化した油とカビが混ざり合うことも少なくありません。寝室の枕や布団、人体から出る油や汗などのニオイが付着しているので、これらのニオイが混ざり合い、不快な悪臭になっていくのです」
こまめな換気と通気性を良くしておくことがニオイ解消に効果的
悪臭が部屋にこもってしまうのを避けるには、どのような対策が効果的なのでしょうか?
「とにかく、こまめな換気が一番です。部屋の中の空気が停滞しないように、窓はできる限り開けた状態をキープできるように心がけましょう。トイレやお風呂場の換気扇は常に回しておくのが理想的です。そして、気密性の高いマンションは特に、部屋にある換気口を必ず開けておきましょう。換気扇や換気口のフィルターが汚れていると、空気の入れ替えがスムーズにできなくなるので、それらの掃除をこまめにすることも大切です。
日中は外出しているから閉めなくてはいけない、夏場はエアコンを使うために窓をしめる時間が増えるという場合は、空気清浄機の併用も効果的です。空気清浄機は粒径0.3μmに対して99.97%の捕集率を持つHEPAフィルター付きのものを使いましょう。『ナノイー』や『プラズマクラスター』などのイオンを発生したり、HEPAフィルターを使った製品はニオイ対策にも有効です」
もしかして臭い? 我が家のニオイに気づく方法
毎日過ごす自宅には、自分では気づかないうちに嫌なニオイが充満している場合もあります。
「人間にとって、一番の刺激は“目”から来ます。生物の中で唯一、フルカラーの視力を持っている人間は、目からの情報量がとても大きくなります。このため、人間の脳は、視覚からの処理能力に多くの労力を使うのです。ところが脳の能力は限られているので、重要度が低い嗅覚は、かなり機能が限られた簡易型になってしまいました。
もちろん、腐った食べ物や人体に良くない化学成分など、命にかかわるようなニオイのキャッチには機能しますが、日常生活において慣れ親しんだニオイに対しては反応が鈍くなります。猫や犬など、モノクロの視力を持つ動物は、生きるために目からの情報だけではなく、嗅覚による情報も大切になるので、人間をはるかに上回る嗅覚を持っています。嗅覚を意識して使えば、当然、ニオイに対する感度は上がります。
自分の家のニオイを知りたいときは、リビングにかかっているカーテンなどの布製品をビニール袋に入れて屋外に持ち出し、袋の中の空気を抜き、袋の中に外気をたくさん入れてからニオイを嗅ぐことです。家の中にあるニオイから切り離すことで、部屋の中はどんなニオイがしているのかわかるようになります。部屋から不快なニオイがするけれど、原因がわからないという場合は、全部の窓を開けて家中の換気をしながら、不快なニオイの元をたどってみると要因を見つけ出しやすくなりますよ」
臭気判定士に依頼するにはどうすればいい?
自宅のニオイに関して、プロに依頼したい場合はどうすればいいのでしょうか?
「先日も、マンションを販売したいという方から『自宅のニオイが気になるので見に来てほしい』と依頼されました。部屋のニオイが原因でマンションが売れなかったらどうしようと、心配だったようです。ただ、一般のご家庭で気になるニオイを特定するために、臭気判定士などのプロに依頼するのは、正直あまりおすすめしません。1回10万円以上かかるケースもあり、費用が高額ですし、原因特定には半日以上かかる場合もあります。マンションを売りたいと言っていたお客様にしても、家財道具をすべて運び出してしまえば、自宅のニオイはほぼなくなりますので、心配は不要と言えます。臭気判定士に依頼するほど、個人宅で自分では認識できないニオイで迷惑をかけるレベルは、ほとんどないと感じます。
また、ご自身が気にしているニオイが、臭気判定士が不快だと感じたニオイと一致しない可能性もあります。わたしはクローゼットの奥にしまってある古いタンスのカビ臭が気になったけれど、ご本人はそのニオイには困ってはいないというケースもありました。それでも、費用と時間をかけてでもニオイを特定したいという場合は、消臭脱臭専門会社や臭気判定士に直接依頼してもいいでしょう」
これで解消! 部屋のニオイを消す方法
部屋のニオイ対策には、どのような方法があるのでしょうか?
「消臭剤や芳香剤などがいろいろと出回っていますので、それらを使う方法があります。ただし、不快なニオイをおさえるために、そのニオイよりも強い芳香剤を使うのは避けた方がいいでしょう。まずはニオイの原因を取り除かないと、悪臭と芳香剤の強いニオイが混ざって、とんでもない悪臭になることがあります。また、強い香りに鼻が慣れてしまうことで、悪臭を出している要因に気づけなくなるのも避けたいところ。
消臭対策としてまず心がけたいのは、カーテンや寝具などをこまめに洗うことです。雨が続くときには、コインランドリーの乾燥機を活用するとよさそうですね。生ゴミなどは密封容器でニオイが広がらないようにし、トイレや浴室はこまめに掃除をしてカビが発生するのを防ぎましょう。靴や傘を濡れたまま放置しないことも大切です。排水口に汚れがたまっていると悪臭が立ち込める原因になりますので、週末の朝など、定期的に排水口を掃除する習慣も心がけたいですね。それらを行いつつ、無香タイプの消臭剤を取り入れるのがオススメです」
【部屋のニオイ対策】
・カーテンや寝具などをこまめに洗うこと
・臭気を放つゴミは密封容器で保管する
・トイレや浴室はこまめな掃除でカビの発生を防ぐ
・靴や傘はなるべく早く乾かす
・排水口を定期的に掃除する
・“無香”タイプの消臭剤を取り入れる
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では、その消臭剤はどういったものを選べばいいでしょうか? 石川さんが実際に使ってテスト済みのアイテムから、おすすめを教えていただきました。
また、最近注目の「香りのサブスク」も紹介します。