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何かひとつがんばれたら、それでいい。落ちるところまで落ちたからこそ見えた、自分らしくいるための方法とは~鈴木明子さん×Mizukiさん対談~
ダイエット・ビューティ・フィットネス・ヘルスケア分野で活躍するオピニオンリーダーとFYTTEが選定した「2022年最注目の10のヘルスケアトレンド」のうちのひとつ、「ポジティブナチュラル」。美の基準が多様化してきた昨今、自分の個性を生かした美しさを探求する動きがあります。
そこで今回は、過去に「摂食障害」という病を患った経験を持つ、プロフィギュアスケーターの鈴木明子さんと、人気ブロガーで料理家のMizukiさんに、ありのままの自分を好きになることや、やりたいことを実現させるために必要なことなどについて、お話しいただきました!
Contents 目次
会う前から、「私たちには似ている部分がある」と感じていた
――鈴木明子さん、Mizukiさんともに、過去に摂食障害に苦しんだ経験をお持ちです。もともとお互いを知っていらしたそうですね。
鈴木明子さん:もともとMizukiさんのレシピのファンで、よく作っていたんです。あるとき、何かの記事でMizukiさんが摂食障害を患っていらっしゃったことを知って、InstagramからいきなりDMを送らせていただいたんです。ご迷惑じゃなかったですか?(笑)
Mizukiさん:とんでもない! すごくうれしかったです。母にも「鈴木明子さんからメッセージがきた!」って自慢してしまいました(笑)。母は昔から鈴木明子さんの大ファンだったので、びっくりしていましたよ。実は、お会いする前からずっと、勝手に似ている部分があるんじゃないか、と思っていたので、実際にお目にかかれてうれしいです。
鈴木明子さん:本を出版されるまでは、摂食障害ということは公表されていなかったんですか?
Mizukiさん:公表はしていたんですけど、そこまで大々的には言ってはいなくて。こういう仕事をしていると、たまに「病気をウリにしている」ということを言われたりして、それが悔しくて。
鈴木明子さん:わかります。私も“売名行為”と言われたことがあって…。でも、自分の経験をお話させていただくことで、救われる方がいるということも知ったので、それからはためらわないようになりました。
Mizukiさん:同じです。私はあえて言わないようにしていた時期もあったのですが、本を出版するにあたって表に出ざるを得なかったので、聞かれたら素直にお話ししようと思うようになりました。
克服のきっかけは、とことんやって行きついた先に見えたもの
――お二人が摂食障害を克服されたきっかけは何だったのでしょうか。
Mizukiさん:私の場合は、23歳のときに体重が23kgまで落ちて、一度生死を彷徨ったことでしょうか。倒れて救急搬送されて、延命治療をするところまで悪化してしまったんです。
高校生の頃に摂食障害を患ったのですが、親に「勉強しなさい」と言われたわけではないのに、「いい点を取らないといけない」と勝手に思い込んでいて、徹夜して必死に勉強していました。もともと物事を突き詰めて考えたり、やってしまったりするタイプで、妥協ができない。23歳って、ちょうど周りが就職したり、結婚したりし始める時期で、なのに自分は体が動かないし、思うようにしゃべれないしで、ツラくてツラくて、もう死にたいとすら思っていたんです。でも、倒れたときに自分から「救急車、呼んで!」って言ったみたいで。延命治療中も、頭では死にたいと思っているのに、体は少しずつ回復していった。どこかで「生きたい」という気持ちがあったのだと思います。それで、「死ねないなら、生きるしかない。生きるのなら治すしかない」と。そこから、治療をすることになりました。
鈴木さん:私もMizukiさんと同じように、妥協できずにとことんやってしまうタイプで完璧主義なところがあって。フィギュアスケートは体重管理が大事だとされるスポーツなのですが、私はもともと食が細かったこともあり、あまり苦労したことがなかったんですね。それなのに、大学入学を機に親元を離れてから、「これからは自己管理をしっかりしなくちゃいけない」と変に気負ってしまい、食べる量を減らしていくうちに、気がつくと食べられない状態になっていました。はじめのうちは体重が減ると、「管理できている」と喜んでいたのですが、48kgあった体重が1か月で40kgまで減り、夏頃にはついに体重が32kgまで落ちてしまって、さすがにおかしいな、と。でも、摂食障害はこれといった明確な治療法があるわけではないので、この先どうなってしまうんだろうという不安がありました。
体力がどんどん低下し、眠れない日が続く中で、あるときふと、「自分は一体何をしたいのだろう?」ということを考えたら、「スケートをしたい」という思いしかないことに気づいたんです。これが一番大きなきっかけだったように思います。
Mizukiさん:やりたいことがあったというのはいいですよね。私の場合は、そのとき何かしたいことがあったわけではなく、もし治っても何をしたらいいんだろう…っていう、将来への漠然とした不安しかなかったです。
鈴木さん:私も最初はそうでした。同世代の周りの人たちは、就職したり、結婚したりしていくのに、普通の社会生活すら送れないんじゃないか、と。そんなときに、母から、「スケートも辞めて、大学も辞めていいから、とにかく元気になりなさい!」って言われて、よかれと思って言ってくれたはずなのに、「先が見えない中で、何のために元気になるんだろう?」って治す意味が見いだせなくなってしまって…。きっと、摂食障害に限らず、ほかの病気にかかっている方も、「会社を辞めてもいいから」「すべて辞めてもいいからとにかく治しましょう」って言われることがあると思うのですが、その先の人生が見えないのにがんばれないですよね。だから、何かしら“希望”や“目標”みたいなものがひとつでもあるといいのかな、と。
ひとつがんばれたら、あとのことは適当でもいい
――真面目すぎるがゆえに自らを追い込んでしまう…そんなストイックさが長所でもあるお二人ですが、病気を克服された今はどうですか?
鈴木明子さん:今は、あの頃のストイックさはどこに行っちゃったの? って感じです(笑)。当時は、自分で決めたルール、しばりみたいなものから抜け出すのはかなり大変でした。守れないと、「怠けているんじゃないか」「自分は堕落した人間なんじゃないか」と思えてきて…。でも、スケートをやりたいという気持ちに気づいたら、「私にはスケートが待っているから、まぁいっか」と。誰も見ていなければ、ダラダラしていてもいいじゃん! って思えるようになりましたね(笑)。
Mizukiさん:私も同じです(笑)。昔と比べると、だいぶ柔軟になりました。だんだんそうやって、“適当”になってくることは、とてもいいことなんじゃないかと思います。やっぱり、スケートという、ひとつがんばれることがあるから、ほかのことはちょっといいかなって思えるのかもしれないですよね。
鈴木明子さん:Mizukiさんはなんでもすごくきっちりしていそうなイメージがあります。
Mizukiさん:とんでもない! 私も仕事以外…つまり、お料理以外の家事はかなり手抜きです。家の掃除もしないし、散らかっていても何も気にならなくて(笑)。昔から両極端なんです。
鈴木明子さん:そうなんですね! てっきりきちんとやられていると思っていたので、少し安心しました(笑)。
Mizukiさん:本当にそんなことはなくて、これだけはしないと気が済まないみたいなところだけは今も昔もあります。
鈴木明子さん:これだけはしないと、っていうところがあるから、ひとつのことを極められるのかもしれないですね。私も「スケートの練習だけは絶対にする」って決めているんですけど、それ以外の部分は…。別にがむしゃらにがんばらなくても、極端な話、世の中に迷惑をかけるわけではないことに気づいてしまって(笑)。
そういえば、実は昨日もMizukiさんのレシピに助けられたんです。特別な食材や調味料、調理器具は一切必要なくて、おうちにある食材で手軽に作れて、おいしくできるのがいいですよね。
Mizukiさん:本当に、ごくごく普通のご飯を作っているだけなので(笑)、これを仕事にしているのもちょっと不思議だなっていつも思っているんですけど、そういっていただけるとうれしいです。
鈴木明子さん:毎日毎日、しかも朝に必ず新しいレシピをアップされていて、本当にすごいです!
Mizukiさん:投稿を読んでくれるみなさんが、朝にこのレシピを見て、その日に作るご飯が決まったらいいなと思って、毎朝アップするようにしています。みなさん、毎日毎日「今日は何にしよう?」って考えるのが大変じゃないですか。なので、そんな人たちの役に立てばいいな、と軽い気持ちでやりはじめたら、それがやめられなくなって、もはやルーティンになってしまいました(笑)。これは、これからもずっと続けていきたいと思っています。
鈴木明子さんとMizukiさんのお二人に共通していたのが、好きなことや興味のあることを“とことん突き詰める”こと。ストイックすぎるがゆえに苦しんだ経験も、「病気をしたからこそわかったことがある」とポジティブな言葉に変換されていたのがとても印象的でした。
次回は、そんなお二人が、健やかな心身を保つために普段から心がけていることや気をつけていることについて語っていただきます。第2回もお楽しみに!
鈴木明子
1985年生まれ、愛知県出身。6歳からスケートを始め、高校1年のときに全日本選手権で4位となり注目を集める。大学入学後に摂食障害を患い、休養を経て2004/05シーズンに復帰。10年バンクーバー五輪で8位に入賞し、多くの感動を呼んだ。11年GPファイナル銀メダル、2012年世界選手権銅メダル、13年全日本選手権では悲願の初優勝を果たし、ソチ五輪では2大会連続となる8位入賞。現在は、プロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、解説や振付家、講演活動を行うなど活動の場を広げている。
Mizuki
1986年生まれ、和歌山県出身。高校生で摂食障害を患い、23歳で体重が23kgに。20代半ばで病を乗り越えてから料理家の道へ。調理師免許のほか、スイーツコンシェルジュの資格をもち、月間300万PVを誇る人気ブロガー。身近な食材で誰でも作れる、簡単でおいしく、華やかなレシピに定評がある。企業のレシピ開発、雑誌、テレビ、WEBメディアで活動中。レシピブログアワードを2016年から3年連続で総合グランプリ受賞。◎LINEブログ「Mizukiオフィシャルブログ ~奇跡のキッチン」
最新刊『今日のごはん、これに決まり! Mizukiのレシピノート決定版! 500品』(学研プラス)は11万部と大ヒット中。
写真/我妻慶一 取材・文/鈴木啓子