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健やかな心を保つためには、嫌だと思うことから目を背けたっていい。早めの「予防」で「自衛」することが大切。~鈴木明子さん×Mizukiさん対談2~

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鈴木明子さんとMizukiさん

ダイエット・ビューティ・フィットネス・ヘルスケア分野で活躍するオピニオンリーダーとFYTTEが選定した「2022年最注目の10のトレンドワード」のうちのひとつ、「ポジティブナチュラル」。美の基準が多様化してきた昨今、自分の個性を生かした美しさを探求する動きがあります。
過去に「摂食障害」という病を患った経験を持つ、プロフィギュアスケーターの鈴木明子さんと、人気ブロガーで料理家のMizukiさん。前回は、病を克服されたご経験についていろいろお話いただきました。今回は、健やかな心身を保つために、普段から心がけていることについて伺います。

Contents 目次

ネガティブにならないように“予防”する

――お二人とも「摂食障害」という病を乗り越えられて、今、やりたいことをされて生き生きとしていらっしゃるのがとても印象的です。心身を健やかに保ち続けるための秘訣は?

Mizukiさん:私もじつは鈴木さんにそのあたりのお話を伺ってみたかったんです。やりたいことをやれるようになるとはいっても、オリンピック(2010年バンクーバー冬季五輪)に出場するまでに回復されたのが本当にすごいと思っていて。

鈴木明子さん:実は、オリンピックに出場することを目指していたわけではなかったんですよ。復帰したときは本当に何もできない状態で、氷の上に立つのがやっとな感じで。小さい頃から一緒にがんばってきた子たちは、オリンピックに出場したり、世界の大会で成績を残したりしている中で、私はもはや“完全に終わった人”という状態でした。

でも、もう一度、自分が一生懸命になれる場所に戻って来られたという喜びと、過去のプライドみたいなものが残っていて、順位や成績は関係なく、自分のスケートが去年よりも今年のほうがよくなっていたい、それをみなさんにお見せしたい、その一心だけで練習しました。

Mizukiさん:そうだったんですね。でも、そこに辿り着くまでの努力は、並大抵のものではないと思います。

鈴木明子さん:次々と若くて有望な選手たちが出てくる中で、まさか私が20代でオリンピックに挑戦するとは思ってもみなくて、スケートに一生懸命向き合っていたら、たまたまチャンスがやって来ただけというか。Mizukiさんがおっしゃるように、確かに、アスリートとしてやっていくためには、普通に生活ができるようになっても、そこからさらにパフォーマンスを発揮する体づくりが必要なので、そういう意味では努力したといえるかもしれません。競技に復帰してからも、食への強い強迫観念といいますか、怖さというのは常にありました。特に海外の試合は大変で、遠征でオーストリアの試合に派遣されたときなんて、名物のシュニッツェル(オーストリアの肉料理)をはじめ、お肉を揚げた料理が多くて、サラダとパンを食べて持ちこたえる、みたいな(笑)。それではたんぱく質が不足してしまう。だからといって食べることもできない。

最初はそんな状態が続いていたのですが、一生懸命やっていくうちに、「やっぱり食べなきゃダメだ」「たんぱく質が足りていないから、動物性のたんぱく質をとろう」という感じで、自然と体が欲するようになっていきました。

お話を聞く鈴木明子さん

――一生懸命やり続けた先に、必要なものが自然と表れたと。

鈴木明子さん:そうですね。ただ、しっかりお肉を食べられるようになるまでには3年ぐらいかかりましたけど、この病気にしては早く回復したほうだったと思います。

Mizukiさん:摂食障害は、治るまでに結構時間がかかる人が多いんですよね。長い方だと、若い頃に発症して、50代、60代でも治療を続けていたり。私も鈴木さんと同じで、回復するまでそんなに長くかからなかったほうじゃないかと思います。

鈴木明子さん:いろいろな方に話をうかがうと、「治ってきたかな」と思っても、何かの引き金でまたもとに戻ってしまうという声もよく耳にします。私も、病気を克服したはずなのに、「もとに戻ってしまうかも」という怖さというのが未だにつきまとっていて。Mizukiさんはどうですか?

Mizukiさん:私も同じです。いつか戻ってしまうんじゃないかっていう怖さは多少あります。なので、実はこの10年ぐらい、自分では体重計に乗っていないんですよ(笑)。さすがに、病院に定期検診で行ったときには測りますけど。体重が増えていても減っていてもショックを受けてしまうかもしれないので。

鈴木明子さん:私も1年に1回行く人間ドックと、半年に1回行くレディースクリニックで体重を測る以外、体重計に乗っていません。そもそも家に体重計がないです(笑)。

Mizukiさん:いらないですもんね、体重計。私も、体重計を視界に入れないように、棚の下に隠しています(笑)。病を克服したとはいえ、もともとの性格もあるので、やっぱり今でもすごく小さなことで落ち込んだり、ちょっとイヤなことがあると“この世の終わり”みたいな気持ちになったりすることもあります。何かあると鬱っぽくなりやすいという自覚があるので、落ち込んだり、イヤだと思う感情が生まれたりしそうなことからは、目を背けるようになりました。

鈴木明子さん:それってきっと、「予防」の一環ですよね。

Mizukiさん:そう、まさに予防!

鈴木明子さん:私もできるだけ、ネガティブな感情を呼び起こすようなことはしないようにしています。もう、あらかじめすべて遠ざける!(笑)

あえて見聞きしないようにすることって、現実から目を背けるとか、逃げるとかいうことではなく、人が普通に病気を予防するのと同じだと思うんです。風邪とかインフルエンザとか、それこそ今なら新型コロナウイルスを予防するのと一緒。メンタルの部分ももっとみんな自衛していいと思うんですよ。

Mizukiさん:やっぱり、自分は自分で守らないと。一度病気を経験している私たちのような人は、壊れやすいことを知っているので、気をつけたいところですよね。

ふたりで顔を見合わせている鈴木明子さんとMizukiさん

 

自分本位でOK。自分を守るのは自分

――具体的にはどのように自分を守っていったらいいのでしょうか。

鈴木明子さん:私は、自分の心が喜ばないことを無理にする必要はない、というふうに考えるようになりました。今はコロナ禍で、人と会える時間やタイミングなどが限られているので、食事などに誘われても、気乗りしない場合は行かなくてもいいんじゃないか、と思えるようになったんです。以前は、「断り続けたら申し訳ないから…」という感じで無理して行っていたんですけど…。

みんな、もっと自分本位でもいいと思います。他人を優先したり、人の目が気になることもあるとは思うのですが、心身をすり減らしてしまっては元も子もないですし。女性の場合は、生理期間に体調が不安定になる人もいると思うので、その期間は予定を入れないようにするとか。

あと、私の場合は、体重にとらわれそうになってしまったら、体重計に乗るのではなく、ファッションを工夫してほっそり見せるようにするとか、別の方法を模索して、自分を守るよう工夫しています。

Mizukiさん:自分の心を守るために、余計なものを遠ざけて“予防する”って、すごく大切なことですよね。もちろん、摂食障害に限らず、ほかのメンタルの病気も同じ。特にこのコロナ禍で、メンタルが不安定になりやすいという話はよく聞きますから、今まさに自衛することが必要なんじゃないかと思います。

心が少しでも不安定だと思ったときは、SNSをチェックしないようにするとか、デジタル社会から自分を守ることも大事ですよね。私の場合は、ブログやInstagramなどのSNSが欠かせないので、そのあたりは注意しています。

鈴木明子さん:傷つくようなコメントを目にすると落ち込みますが、逆に、自分が落ちているときにがんばっている人、充実してキラキラしている人を見ると、「この人、こんなにがんばっているのに、自分は…」って不必要に落ち込むことがあります(苦笑)。

Mizukiさん:わかります。以前なら目にしなかったのに、この時代ならではというか、SNSなどのツールがあるからこそ入ってきてしまう情報ですよね。私もたまにそういう投稿を見て、悔しいとか妬ましいとかいう感情がわくこともありますよ(笑)。

鈴木明子さん:そうなんですね(笑)。私、そのあとに「なんて自分の心は醜いんだろう…」って思って、それで自己嫌悪に陥る…のくり返し。だから、今の状態で「これ見たらよくない」と思ったら逃げます。もちろん便利な側面もあって、自分がポジティブな状態であれば、つられて「よし、私もがんばろう!」ってパワーをもらえることもあります。

 

人に喜んでもらえることで生まれる、ポジティブな循環

お話をきくMizukiさん

鈴木明子さん:今度は、Mizukiさんが今のようにやりたいことをやれるようになったお話をうかがってみたいのですが、本にも書かれていましたけど、最初のうちは試食ができない状態だったとか。

Mizukiさん:そうなんです。自分では食べられなかったので、母に食べてもらっていて、母が代わりにすごい太ってしまったという(笑)。母にはいろいろな面からサポートしてもらっていたので、この恩をどうにかして返したいという気持ちがあって、どうしたら喜ばせられるんだろうと考えているうちに、料理本を出せたらいいんじゃないか、というところにたどり着きまして。発想が単純なんですけどね(笑)。

闘病生活中は、「どうして娘がこんなになるまで、ほうっておいたんだ」とか、「娘を殺す気か」とか、批判的なことを母がいろいろ言われてしまい…。私にとっては母が唯一の理解者で、一生懸命守ってくれたので、私が元気になって周りから「娘さんすごいね」って言われるようになったら、母が喜んでくれるんじゃないかと思ったんです。

そこで、料理本を出すためにはどうしたらいいのかを考えて、とりあえずブログを始めました。今は、母のためだけでなく、フォロワーや読者のみなさんに喜んでもらいたい一心でやっています。

鈴木明子さん:うわ~。すごい! その人を喜ばせたいというエネルギーって大切ですよね。私も同じで、スケートをしている姿を見て、少しでも母に喜んでもらいたいという気持ちでずっとやっていました。母が別に期待していたわけではなく、自分で勝手に期待を背負ってやっていただけなんですけどね(笑)。

人って、誰かの喜びになると思ったら、ものすごい力を出せるのではないかと常々思っていて。「よし、見返してやるぞ!」という悔しさや憎しみみたいなものをバネにがんばれる人もいますが、そのパワーは一瞬燃え盛って終わってしまう感じがして、長く続けていくには根底に人に喜んでもらいたいという、ポジティブな感情があるような気がします。やっぱり誰かに喜んでもらえるとうれしいですしね。

――先ほどMizukiさんが、読者のみなさんの「家族に作ったら喜んでもらえた」「おいしいといってもらえた」というコメントが励みになるとおっしゃっていたのと同じですね。

Mizukiさん:料理を作る人というのは、結局食べてくれた人が喜んでくれることで満足感を得ている気がします。自分がラクしたいからカンタンに作りたいわけではなく、待たせたくないとか、おいしいものを食べさせてあげたいとか、結局、誰かが喜ぶ顔を想像してがんばれるというか。

――その喜びの声を聞いてうれしくなって、また新しいものを考える――まさにポジティブな循環ですね。

Mizukiさん:本当にそうですね。でもこんなふうに考えられるようになったのも、病気をしたからかなって思います。

鈴木明子さん:私もそう思います。一度病気になったことで、「自分は弱いんだ」と認められるようになり、なんでもかんでもがんばらなきゃいけない、という気持ちが少なくなりましたし、感謝をする気持ちも以前にも増した気がします。

Mizukiさん:ほんと、病気にならなければ、ここまで深く考えたりすることもなかった気がします。

鈴木明子さんとMizukiさんのお二人から出てきた共通のキーワード「自衛すること」「誰かに喜んでもらうこと」。コロナ禍でいろいろと塞ぎ込みがちな今こそ、参考にしたい部分ですね。

次回は、やりたいことに向かって突き進むための考え方のヒントについてお話をうかがいます。第3回もお楽しみに!

 

鈴木明子
1985年生まれ、愛知県出身。6歳からスケートを始め、高校1年のときに全日本選手権で4位となり注目を集める。大学入学後に摂食障害を患い、休養を経て2004/05シーズンに復帰。10年バンクーバー五輪で8位に入賞し、多くの感動を呼んだ。11年GPファイナル銀メダル、2012年世界選手権銅メダル、13年全日本選手権では悲願の初優勝を果たし、ソチ五輪では2大会連続となる8位入賞。現在は、プロフィギュアスケーターとして活躍する傍ら、解説や振付家、講演活動を行うなど活動の場を広げている。

鈴木明子さん

Mizuki
1986年生まれ、和歌山県出身。高校生で摂食障害を患い、23歳で体重が23kgに。20代半ばで病を乗り越えてから料理家の道へ。調理師免許のほか、スイーツコンシェルジュの資格をもち、月間300万PVを誇る人気ブロガー。身近な食材で誰でも作れる、簡単でおいしく、華やかなレシピに定評がある。企業のレシピ開発、雑誌、テレビ、WEBメディアで活動中。レシピブログアワードを2016年から3年連続で総合グランプリ受賞。◎LINEブログ「Mizukiオフィシャルブログ ~奇跡のキッチン」

Mizukiさん

最新刊『今日のごはん、これに決まり! Mizukiのレシピノート決定版! 500品』(学研プラス)は11万部と大ヒット中。

書影

写真/我妻慶一 取材・文/鈴木啓子

 

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