「マナー」と聞くと、「テーブルマナー」や「ビジネスマナー」が思い浮かび、覚えなければいけない、堅苦しい決まり事のように思えます。でも、それだけではないのだそう。そこで、日本文化マナー研究家であり印象戦略コンサルタントの伊東香苗さんに「マナーとはなにか?」を教えてもらいました。
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日本人にとってのマナーは「礼儀作法」
「マナーというのは、法律や規則ではないので、破ったからといって罰せられたりするようなものではないですよね。だから逆に難しいのです」と伊東さん。
「マナーというのは文化に根差したところから生まれるものです。マナーが何のためにあるかというと、『人と人が仲よく幸せに生きていくためにどうしたらいいかな』と考えて、その場を共有ししている人たちが、暗黙のうちに『いい空間をつくっていきましょう』『気持ちよく過ごしましょう』とお互いに配慮しあうということなのです。このとき、お互いに同じ文化や共通認識があって初めて成り立つものなのです」
「マナー」というと西洋的な印象を受けますが、伊東さんは「日本人にとってのマナーは『礼儀作法』」だといいます。
「日本の文化に根差した日本のマナー、それが礼儀作法だと私は考えています。海外の人に日本人のイメージを聞くと、『勤勉』『丁寧』『ルールを守る』『清潔』といった言葉が並びます。じつは、これはすべて何かというと、礼儀作法なのです。これらを守れる人が『礼儀正しい人』ということなのですね。『マナー』というと西洋的なものに思えるかもしれまんが、日本には日本のマナーがあって、それが『礼儀作法』です」
日本式の「礼儀作法」や「おもてなし」は外国の人たちにも知られるようになり、最近は、外国でも日本のビジネスマナーや接客を取り入れるところが増えてきています。
「それは、やはり礼儀正しい人が世の中で好かれるからですよね。外国の人たちからも認められている『礼儀正しい美しい心』は、日本人にとっての財産なのです。だから、もっと私たちひとりひとりが美しい心を大切にしていかないといけない。また、相手に対して『礼儀正しい人だな』という、いい第一印象を与えることができれば、そのあとの人間関係もうまくいき、その周りにいる人たちもみんないい気持ちで過ごすことができます。ですから、マナーを身につけるということは、これから生きていくうえでとても重要なことで、自分が幸せになるためにもとても大事なスキルといえます」
日本の「礼儀作法」のルーツとは?
「礼儀作法」の「礼」の字は、かつては「禮」が使われていて、この一文字で行儀作法や社会習慣という意味があります。この「禮」の字は、今でもお祭りの提灯などに使われていて、もともとは神様に対する礼儀作法という意味だったのだそう。
「昔の日本は、八百万の神からアニミズム(すべてのものに魂が宿るという考え方)がありました。だから自然災害などが起きたとき『神様を鎮めなきゃ』『神様はどうやったら気持ちを収めて、よろこんでくれるのだろう』と考えたわけです。でも、村人が集まったら、いろいろな考え方があるから、もめますよね。『お花はここに置いた方いい』『お酒はここに置かなきゃいけない』と。そこで、もめないように、『お米はここ』『お酒はここ』と決めごとがつくられたわけです。それが神様に対する礼儀作法ということなのです」
「礼儀作法」とは、神様に対する畏敬や感謝が表れたもの。現代では、その対象が、神様ではなく人にかわったということなのだそうです。
「人の命も、とても貴重な、ひとりひとり敬わなければいけない、本当に大切なものです。そういう相手に対して、神様を扱うのと同じように扱わないといけない。自分のことが大事なように相手のことも大事、だからていねいに扱わなければいけない。そういう気持ちを相手に伝える、人に対するおもてなしの心を表したものが現代の礼儀作法。私はそう考えています」
さらに伊東さんは「礼儀作法は、日本の道の精神にもつながるものがあります」と、興味深い話を続けてくれました。
「日本には、華道や茶道、柔道、弓道など、習いごとをしようとすると『道』という言葉がついているものがたくさんありますよね。この『道』というのは、外国の人には説明するのがすごく難しくて、まさに日本の精神。『道』というのは、ずっとつながっていて終わりのないもので、それをコツコツ努力して、究めていくものです。修業なのです。
私は、礼儀作法も同じで、心を鍛える、美しい心を持つための修業が必要だと思っています。『私はマナーに自信がなくて』という人も多いと思いますが、ダイエットや筋トレと同じように、毎日の生活の中で積み重ねていけばいつか理想的な自分になれます。修業すれば必ず身につけることができるのです。そして、『道』ですから、コツコツと究めていくことが大切です」
その修業については、今後このサイトで伊東さんにお話ししていただきますのでお楽しみに。