度重なる物価上昇と、年齢を重ねて着たい服とほしい服が一致しなくなるジレンマetc…。さまざまな悩みが尽きないなか、限られた予算の中で自分に似合う、着たい服が着られるようになるためにはどうしたらいいのか。今回は“大人になればなるほど、ファッションはシンプルがよい”という、誰もが一度は目にしたことがあるおしゃれの定型文。これが、服選びの失敗を招いてしまう原因である理由と、シンプルではなければなにが大人にとってのベストなのかをスタイリストの筆者がお話しします。
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年を重ねるほど、シンプルから離れたほうがすてきに見える
黒や白、紺やグレーは、合わせやすく、飽きがこないと言われるベーシックカラー。かつ、目立った装飾もなければ柄もなく、型もプレーンないわゆる“シンプルな服”というのは、年齢を重ねれば重ねるほど、上質なものを選ぶことで長く着られる、ということが言われています。
しかしながら、世間をよく見てみてください。お年を召したすてきなマダムは、色柄物を着ていたり、一見個性的な小物を合わせていたりしませんか? どちらかというと“派手”に尽きるファッションアイテムを、華麗に着こなすマダムたち。決して着る本人を派手に、個性的に見せるわけではありません。
おしゃれをひと通り楽しみつくしたマダムたちが、先ほど挙げたシンプル至上主義とはまったく異なるファッションに着地するというのは、まさにおしゃれの真髄。ここに行き着くには、もちろん理由があるのです。
シンプル至上主義は、気力と体力なくしては続かない
究極のベーシックとは、素材のよし悪しをシンプルに表現するもの。つまり、着る人が容姿端麗であればあるほど、当然服がすてきに見えます。この効果を最大限利用しているのが、容姿端麗なモデルを起用した雑誌や広告です。人は加齢により誰もが変化していくわけで、つまり装う素材(=着る人)は変化します。変化は見た目だけではありません。
おしゃれをしたいけど面倒くさくなるという気力の低下だったり、今まで何気なくできていたことが、できなくなるという体力低下だったりするのです。このように、どんなにおしゃれが大好きでも、気力と体力が逆行してしまうこともあります。
例えば、上質なウール100%、黒無地で型もプレーンなタートルニットがあるとしましょう。シンプル服の王道であるこの黒いタートルニットが、年齢と共に似合わないと感じてしまったり、地味に見えたり、あるいは暗く野暮ったく感じてしまうのはなぜなのでしょう。
理由は、単純に筋肉や骨格の変化で、シルエットが貧相に見えたり、逆に太って見えるという視覚的変化のため。または、アクセサリーをつければ華やかになり、地味なイメージを変えられると頭でわかっているものの、つけることが面倒くさいという気持ちが勝ってやめてしまったり、老眼でネックレスの留め具が見えにくいからつけるのをやめるなど、気力と体力の変化が起こるからです。その結果、服自体にそでを通さなくなってしまいます。
だったら、最初から1枚着るだけですてきに見えるほうがいいですよね。アクセサリーなど小物をあれこれつける必要がなく、コーディネートをいちいち考えることさえも不要。気力と体力がなくても、着るだけで華やかさも活力も得られて、着るだけで完成しておしゃれが心地よく楽しめるものが大人女性にはベストなんです。
気力と体力の後退期からが、自分のスタイルも確立できる
「失ってからこそ、わかることがある」
これは、おしゃれでも言えることであり、お年を召したすてきなマダムというのは、これを体得した結果です。着たい服選びが、本気でむずかしくなってくるアラフォーからは、ちょうど気力と体力の後退期に入る時期。失っていくものがあるからこそ、本当の好みも、変わりゆく自分とその時々に似合うベストがわかっていくのです。
おしゃれ以外に没頭できるものがある人ならなおさら、おしゃれのために失いつつある気力と体力を投資するのは最小限に留めておきたい気持ちも増えるため、こういう人ほど自分のスタイルが確立するのも早いです。
シンプル至上主義は、アラサーで卒業。気力と体力を奪わない、1枚完成型の脱シンプル服が、大人女性にはベストと覚えておきましょう。きっと、人生も充実させてくれます。