皮膚や粘膜の健康を保つ、ビタミンAに対してそんなイメージをお持ちの人が多いのではないでしょうか。日々、食品やサプリメントを通じて意識的に摂取している人もいるはず。でも、“緑黄色野菜=ビタミンAが多い”という認識は、正確に言えば間違い。一体どういうことなのか、マニアックな食品成分表の世界について、管理栄養士の藤原朋未さんに教えていただきました。
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ビタミンAとは? プロビタミンAとの関係を整理してみよう
みなさんは「ビタミンA」と聞くとなにを思い浮かべますか? にんじんやピーマンなどの緑黄色野菜でしょうか? それともレバーやうなぎでしょうか。
食品成分表を見てみると「ビタミンA」の項目欄は少しややこしくなっています。
<1>レチノール
<2>α-カロテン
β-カロテン
β-クリプトキサンチン
β-カロテン当量
<3>レチノール活性当量
4つの成分の名前と「○○当量」という2つの項目があります。
それぞれの成分はビタミンAとして同じような機能を持ちますが、同等の効力をもたない場合、基準となる成分の相当量として、「○○当量」という表し方をしています。もっと具体的に見ていきましょう。
<1>レチノール
レチノールとは、ビタミンAの化学名です。ビタミンAは栄養学的にはレチノールを指します。
レバーやうなぎなどの動物性食品に多く含まれます。一方で野菜などの植物性食品には含まれていません。レチノールは目の機能を正常に保ち、皮膚や粘膜を守り免疫力を高める働きがあります。
<2>α-カロテン/β-カロテン/β-クリプトキサンチン
これらは体内でビタミンAに変わる物質で「プロビタミンA」と呼ばれます。
とくにβ-カロテンは緑黄色野菜などに多く含まれるため、私たちにとって身近な存在とも言えるでしょう。ビタミンAとしての働きのほか、抗酸化作用の強さが知られています。
β-カロテン当量
次の式で算出されます。
=(1/2×α-カロテン)+(β-カロテン)+(1/2×β-クリプトキサンチン)
この式から、α-カロテン、β-カロテン、β-クリプトキサンチンの3つの成分のなかでβ-カロテンが2倍の効力であることがわかります。
<3>レチノール活性当量(=ビタミンA)
次の式で算出されます。
(レチノール)+(1/12×β-カロテン当量)
この式から、β-カロテン当量はレチノールの1/12の効力であることがわかります。
「にんじんにはビタミンAが多く含まれています。」
「にんじんにはβ-カロテンが多く含まれています。」
にんじんにはレチノールは含まれていませんので“厳密にいえば”後者の表現が正しいと言えるでしょう。にんじんに含まれているβ-カロテンは、植物性食品に含まれるプロビタミンAのことを表しています。
ビタミンA/プロビタミンAの効果効能は?
ビタミンA及びプロビタミンAの働きについてまとめてみましょう。
ビタミンA(レチノール)
油に溶けやすい性質を持った脂溶性ビタミンとして、目の機能や皮膚や粘膜の健康を守るために重要な栄養素です。主に動物性食品に多く含まれています。欠乏症としては暗いところで視力がきかなくなる夜盲症や細菌などに感染しやすくなるといったことがあげられます。一方で過剰症としては頭痛や吐き気などの症状があげられます。食事でとる分には心配はいりませんが、サプリメントなどを服用される場合は規定量を守るように注意しましょう。
<レチノールが多く含まれる食品>
プロビタミンA(β-カロテン当量)
体内でビタミンAに変わる物質の総称。食品成分表ではβ-カロテン当量として表されています。中でもβ-カロテンはプロビタミンAの中でも食品中に最も多く含まれ、変換率も高い色素成分。ビタミンAの働きの他、抗酸化作用があるためアンチエイジングや様々な生活習慣病予防に効果が期待できます。にんじんやほうれん草、かぼちゃなどの緑黄色野菜に多く含まれます。
<プロビタミンA(β-カロテン当量)が多く含まれる食品>
β-カロテン当量と緑黄色野菜
β-カロテン当量がレチノールの1/12の効力と聞くと、野菜を食べてもあまり意味がない?と感じてしまうでしょうか。しかし緑黄色野菜にはこの1/12のハンデを跳ね除けるほどのβ-カロテン当量が含まれています。
先ほどの表で緑黄色野菜のβ-カロテン当量を確認してみましょう。
にんじん:8600μg
ほうれん草:4200μg
かぼちゃ:4000μg
ブロッコリー:900μg
トマト:540μg
ピーマン:400μg
にんじん100gあたり、β-カロテン当量は8600μgということは、【×1/12】をすると、レチノール活性当量の値の計算も可能です。
8600μg×1/12≒720μg
1日分のレチノール活性当量の成人女性における1日の推奨量は650~700μg、にんじん100g(2/3本)で、約1日分のレチノール活性当量を補えるということになりますね!
ちなみに過剰症を防ぐための成人女性における1日の耐容上限量(過剰摂取による健康障害を未然に防ぐ量)は2700μgです。レバー類の食べ過ぎやサプリメントのとり過ぎには注意したいですね。ただし緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンは体がビタミンAを必要としないときは変換されないため、耐用上限量は設定されていません。
そのため、緑黄色野菜は免疫力UPや肌つやのキープのためにも、モリモリ食べていただきたいです!
いかがでしたでしょうか?
今回は食品成分表を眺めながら複雑なビタミンAについて整理してみました。栄養素は奥が深い…。知れば知るほど食事が楽しくなってきませんか?
参考
・日本食品標準成分表2020年版(八訂) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
・日本食品標準成分表に関するQ&A 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kagsei-index_020.pdf
・日本人の食事摂取基準(2020年版)厚生労働省 Ⅱ 各論
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586561.pdf
・e-ヘルスネット 厚生労働省 緑黄色野菜
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-037.html
・八訂 食品成分表2021 女子栄養大学出版部
栄養価計算ソフト
・栄養価計算エクセル「楽らく栄養ちゃん 2020(八訂)」 エミッシュ
https://ticket.tsuku2.jp/eventsDetail.php?ecd=01202120060456