このままでは、そう遠くない未来に豚肉が食べられなくなってしまう――。IT技術を駆使した養豚DXのスタートアップ「Eco-Pork(エコポーク)」の新規事業発表会は、ちょっと衝撃的な主旨の話から始まりました。”食肉文化を次世代につなぐ”を企業理念に掲げる、同社の“次の一手”をイベントレポートと豚しゃぶ食レポで解説します。
Contents 目次
生産者の利益増に貢献する養豚経営支援システムを開発
まずはエコポークという会社の取り組みからご紹介。「株式会社Eco-Pork」は、外資系コンサルティング企業でAIによる統計解析のスペシャリストとして活躍した神林 隆さんが2019年に起業しました。
代表的なサービスは、テクノロジーで養豚を改善するクラウド型養豚経営支援システム「Porker(ポーカー)」。こちらは、AIとともにセンサーや3Dカメラなどを駆使して豚の体格や健康状態を一頭ごとに管理し、少ない人手でも効率的に豚を生み育て、適正サイズでの出荷を可能にするシステム。日本全国の約1割の養豚農家で導入されています。
豚は出荷時の体重が96~121kgの「上物」でないと買取価格が下がってしまうのですが、そんな重たい豚を体重計にのせるのは至難の業。そうしたことから、「上物」取引の割合は平成~令和の約30年間の市場で一度も50%を超えたことがないとか。
「Porker」はこうした現状の改善に役立てられ、養豚農家の利益増に貢献しています。
日本の養豚業では、飼料高騰や人手・後継者不足を原因とした持続可能性が課題となっています。一方で、世界的な人口増加などから食糧危機が叫ばれていることも見逃せません。こうした要因のひとつひとつが、冒頭の「このままでは、そう遠くない未来に豚肉が食べられなくなってしまう」ことにつながり、この解決のために立ち上がったのがエコポークなのです。
世界初のユーグレナエコポークと一流シェフの監修で差別化を図る
これまで、エコポークの取引先は養豚農家などの事業者でしたが、新たに打ち出したのが一般消費者向けの豚肉販売サービス。
専用ECサイトから養豚生産者の豚肉を、精肉や加工品、ミールキットといった形での提供をスタートしました。この新事業が発表会のメインテーマです。
まずは第1弾として、新潟県魚沼の生産者「鬼や福ふく」が雪深い山中で育てた銘柄豚「鬼の宝ポーク」を発売。加えて、この豚肉を本場ドイツ出身のマイスターブランド「バルドゥーン」が仕上げたシャルキュトリ(豚肉を用いた加工品)もラインナップ。
さらに驚くべきニュースは、藻の一種であるミドリムシを使ったスーパーフード「ユーグレナ」を循環型飼料として活用した「ユーグレナエコポーク」を世界で初めて生産したこと。こちらも専用ECサイトにラインナップされています。
加えて発表されたのが、星付きシェフ・田村浩二さんがフードディレクターに就任したこと。今後ECサイトで販売される豚肉や加工品、ミールキットの開発に携わっていくそうです。
田村シェフは、食文化の持続性にいち早くコミットしていた料理人。代表的なとり組みが、サスティナブルシーフードブランド「アタラシイヒモノ」の監修です。
またトレンドメーカーとしての側面もあり、あの「Mr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」のプロデュースにより世の中にD2C(Direct to Consumer/メーカーが消費者と直接取り引きする)チーズケーキブームを巻き起こした仕掛け人でもあります。
そんな田村シェフに、エコポークの開発で期待していることについて聞きました。
「漁業に関しては、そもそも魚を食べる日本人が減っているという課題解決に対するやりがいがあるのですが、豚肉は食べ手が減っているわけではないんですね。その点も踏まえ、多くの方に届けられるという新たな可能性を非常に感じています」(田村シェフ)
豚肉に関する興味深いエピソードも教えてくれました。
「フランスでの修業時代、厨房仲間と仕事が円滑にまわるようになったきっかけが、僕が作ったまかないだったんですね。『レシピ教えてよ』とか『こんなにおいしいまかないを作れるんだったら、次の仕事も任せるよ』とか。そのまかないメニューが、トンカツだったんです。
帰国後の『ティルプス』時代も『つかんと』というイベントをやらせていただくぐらい、トンカツは好きで得意な料理ですし、あとはしょうが焼きも好きなので、より研究を重ねておいしく提案したいと思っています」(田村シェフ)
濃厚な肉汁がかむごとに口いっぱいに広がる!
イベントの終盤では、田村シェフが特別に考案した料理がふるまわれました。
用意されたのは豚のしゃぶしゃぶ。「豚肉のおいしさを、ストレートかつシンプルに味わっていただくために、豚しゃぶを用意しました」と田村シェフ。
味わってみると、出汁からして個性的かつ絶品。香川・渡海家の伊吹いりこ、北海道・礼文島山本商店の利尻昆布、秋田・仙葉善治商店のしょっつる(魚醤)などが調和したふくよかな香りと円熟したうまみの奥に、花椒(ホアジャオ)のさわやかな香りやシビれが、シャープなキレを演出します。そして豚肉も、この力強さに負けないしっかりとした甘みとうまみ。
モグモグと、咀嚼(そしゃく)をくり返すなかでエコポークの真価がわかりました。
しっかり火が通っていても驚くべき肉質のやわらかさで、ロースはうまみが口内にふわっと広がっていきます。そしてバラ肉は、より脂の甘みが豊か。かむごとに、素材の奥から芳醇な肉汁がどんどんわき出てくる感動的なおいしさです。
ちなみに、エコポークでは豚⾁のおいしさを可視化するべく、豚⾁の成分検査を実施し、味わいをレーダーチャートで表⽰。「鬼の宝ポーク」は、とくにうまみがすぐれていることがわかったそうです。
また、田村シェフは「豚の腸内環境がいいんでしょうね。臭みがまったくなくて、だからこそうまみを豊かに感じられるのだと思います」とおっしゃっていました。
豚にも地球にもやさしく、とにかくおいしいエコポーク。同社では2024年を目処に、「鬼や福ふく」のほかにも参加養豚農家数を3~5件に拡大し、定期便のユーザー数は1,000名超を目標に展開するそうです。
畜産業界をとり巻く環境にはさまざまな課題がありますが、今回のイベントに参加して食と豚の明るい未来も見えました。今後もエコポークの活躍から目が離せません!
文/中山秀明