誰でも年をとるにつれて代謝機能が衰えます。その結果、脂肪がたまりがちになって、中年太りやメタボ、心臓や血管の病気などになりやすくなるわけです。でもこのたび海外研究から、代謝の衰えによる脂肪蓄積の防止につながりそうな発見が報告されました。カギは第3の脂肪細胞、「ベージュ脂肪細胞」にあるといいます。
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寒さで白色脂肪細胞が変化
私たち人間を含めて、哺乳類の体を構成する脂肪は大きく2つに分けられます。余計にとったカロリーを蓄えておく「白色脂肪細胞」と、体温を保つためにカロリーを燃やして熱をつくり出す「褐色脂肪細胞」です。
そして、最近、「ベージュ脂肪細胞」と呼ばれるタイプの脂肪細胞が、第3の脂肪細胞として注目されています。この細胞は白色脂肪細胞に似ていますが、褐色脂肪細胞のような熱生成機能をもつのです。長い間、寒さにさらされると、通常は白色脂肪細胞になるはずの幹細胞が、代わりにベージュ脂肪細胞に変化することがあり、体内の熱をつくるようになるのです。このため肥満の治療や予防に利用できるのではないかと考えられています。
今回、米国の研究グループが、体内でベージュ脂肪細胞がどのようにつくられるかを調べるために動物実験を行いました。若いうちは季節の変化くらいの寒暖差でもベージュ脂肪細胞がつくられますが、寒さに対する反応が加齢とともに弱くなり、結果的に白色脂肪細胞が増えることになります。このメカニズムをより深く理解することで、加齢に伴う脂肪の蓄積という課題に対処することを目指しました。
寒さに対して反応しなくなるのはなぜ?
こうして確認されたのが、年を重ねると、ベージュ脂肪細胞を生み出すメカニズムに変化が見られることです。
具体的には、脂肪細胞に分化する幹細胞のなかで、年をとるにつれて細胞の分化や増殖にかかわる特定のタンパク質分子(血小板由来成長因子受容体β=Pdgfrβという名前のタンパク質)が増え、これがベージュ脂肪細胞をつくる体内の能力を妨げていました。このタンパク質は免疫細胞に影響することで、寒さへの反応を鈍くしていたのです。
一方で、このタンパク質がない場合、寒さによりベージュ脂肪細胞がつくられやすくなること、逆にこのタンパク質を若いうちに活性化させると、ベージュ脂肪細胞がつくられなくなることも判明。また、このタンパク質は薬によって働かないようにすることもできて、これによって寒さに反応してベージュ脂肪細胞がつくられました。
この仕組みをうまく利用すると、脂肪燃焼をうながし、肥満解消などの応用も考えられそうです。まだ研究の初期段階ではありますが、このような研究から、第3の脂肪「ベージュ脂肪細胞」が今後、さらに注目されるかもしれません。
<参考文献>
Benvie, A.M., Lee, D., Steiner, B.M. et al. Age-dependent Pdgfrβ signaling drives adipocyte progenitor dysfunction to alter the beige adipogenic niche in male mice. Nat Commun 14, 1806 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-37386-z
https://www.nature.com/articles/s41467-023-37386-z
‘Beige fat’ could hold key to age-related metabolism change
https://news.cornell.edu/stories/2023/04/beige-fat-could-hold-key-age-related-metabolism-change