会議や移動中など、なかなかトイレに行けない状況のときに限って、お腹がゴロゴロして困る、または、何かと忙しくなると、何日も便通がなくなってしまう……。そんな経験はありませんか。その症状は、もしかしたら、過敏性腸症候群かもしれません。20~30代の女性に多く、悩んでいる人も増えています。消化器治療の第一人者で、過敏性腸症候群に詳しいさくらライフ錦糸クリニック院長の松枝啓先生に、セルフケアの方法について伺いました。
Contents 目次
自律神経と胃腸の両面からアプローチ
過敏性腸症候群のセルフケアは、ストレスマネジメント、自律神経のバランスを整える、胃腸の働きを整える、の3本柱で行っていきます。
●75点主義で、ストレスをマネジメント
「過敏性腸症候群の人は、感受性が強く、几帳面なところがあります。だからこそ、ストレスがたまりやすいのですが、感受性や几帳面さは、才能のひとつです。それをいい方向に生かすために、完璧主義ではなく、75点主義を目指しましょう」
●規則正しい生活と運動で、自律神経を整える
過敏性腸症候群による便秘、下痢は、ストレスによる自律神経のアンバランスが引き金になります。自律神経のバランスを整えるには、起きる時間や寝る時間、食事の時間を一定にするなど規則正しい生活を送ることが大切です。
「休みの日も、ふだんと同じ時間に起きて、活動的に過ごしましょう。寝だめをしたり、家でだらだら過ごしたりすると、自律神経のバランスが崩れてしまいます。」
また、運動も、自律神経のバランスを整えるのに効果的です。
「汗ばむ程度の運動は、交感神経を優位にします。あえて、交感神経が優位な状態を作ることで、自律神経のアンバランスがリセットされるのです。なかなか運動する時間がとれない人や腰痛のある人などは、イスに座った状態で、15分ぐらい足踏みをしましょう。それだけで、うっすらと汗をかいてきます」テレビを見ながらでもできるので、おすすめです。
「ストレスがあると、運動をあと回しにしがちですが、“元気になってからやろう”ではだめ。元気がないときこそ運動することで、腸も元気になります」
食物繊維をたっぷり食べよう
●食事は、食物繊維を意識してとろう
過敏性腸症候群では、特に食べてはいけないものはありません。好きなものばかり食べず、栄養バランスがとれていることを大事にしつつ、ふだんから食物繊維を多めにとるように心がけましょう。
食物繊維のとり方については、次回くわしく紹介していきます。
食事は、1日3食をできるだけ決まった時間に食べるようにします。食事の時間があくと、腸がぜん動運動を始めにくくなります。また、夜遅い食事、早食いやまとめ食いは、胃腸の負担になるので避けるようにしましょう。
1日のうちで、「とくに朝食を大事にして」と松枝先生はアドバイスします。
「胃と腸は連動しており、『胃結腸反射』といって、食べものが胃に入って拡張したときや、たんぱく質や脂肪が胃に入ったときに腸は動き出します。食事の前後で、腸の動きを調べた結果、朝食のあとがもっともよく腸が動くことがわかっています。特に、便秘型の人は、朝食をしっかり食べると、お通じがよくなります。
一方、下痢型の人は、食べると下痢をするんじゃないかという不安で、ますます下痢をしやすくなります。朝食には、“寒天”を食べるといいでしょう。食物繊維が多く、便を固める効果とともに、便をコチコチにしない作用があり、下痢と便秘の両方に効果があります」
食事が腸の動きのリズムをつくります。なるべく朝食後にトイレに行く時間を作って、排便のリズムを作りたいですね。
発酵食品などで腸内環境を整えたい
過敏性腸症候群の人は、腸内環境を整えることも大事なことです。
「腸内には善玉菌と悪玉菌、日和見菌が一定の割合で共存しています。善玉菌が優位な状態では、免疫の働きも正常化され、風邪などの感染症に強くなり、老化も防ぎます。しかし、ストレスがあると悪玉菌が優位になり、日和見菌も悪玉菌に変わり、免疫力も低下し、便秘、下痢を起こしやすくなります。便秘や下痢でも悪玉菌が増えるため、悪循環に陥ってしまいます」
善玉菌を増やすには、乳酸菌がおすすめです。ヨーグルト、みそ、しょうゆ、納豆、ぬか漬けやキムチなどの発酵食品に多く含まれています。善玉菌の餌となるオリゴ糖もおすすめです。食物繊維は善玉菌の働きを助けます。
「おいしく食べて、お腹がいっぱいになれば、気持ちが豊かになり、ストレスにも対応できるようになりますよ」
取材・文/海老根祐子