日本人にとって欠かせないお風呂。1日の終わりにゆったり湯船につかると疲れがとれ、とても気持ちのよいものです。そしてこのたび、入浴にはリラクゼーション効果以外に、心疾患や脳卒中のリスクも下げることが世界で初めて報告されています。お風呂に入る回数が多いほど、心臓血管の健康によいのだとか。日本人の長寿の謎がまたひとつ解き明される結果となりました。
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お風呂の健康効果
これまでにも日本人が長生きできる理由はいくつか報告されていますが、このたび日本の浴槽入浴の文化が、日本人の長寿に影響を与えている可能性があることが新たに報告されました。
大阪健康安全基盤研究所の研究グループは、日本人特有の入浴習慣が長寿に貢献しているのかどうかについて、大規模な「前向きコホート研究」で調べました。対象者は調査時点で心疾患にかかっていなかった40歳~59歳までの日本人男女3万76人。1990年から2009年までの約20年間を追跡調査しています。
研究開始時のアンケートで回答してもらったのは、入浴頻度のほかに、心疾患や脳卒中に関連していることが報告されている運動、食事、飲酒、BMI、睡眠時間、病歴、使用中の薬などでした。その回答から、対象者を入浴頻度別に「週2回以下」「週に3~4回」「ほとんど毎日」の3つのグループに分け、その後の虚血性心疾患および脳卒中発症との関連を調べました。
お風呂で心疾患リスクが35%減
こうした追跡調査からわかったのは、浴槽入浴頻度が高いほど、心疾患および脳卒中の発症リスクが低下するという結果です。約20年間の追跡期間中に、2097人が心疾患を発症し、275人が心臓麻痺、53人が心臓突然死、1769人が脳卒中を発症していました。病気の発症に影響を与える飲酒や運動といった要因を考慮しても、「ほとんど毎日」のグループは「週2回以下」あるいは「週に3~4回」に比べて、心疾患のリスクは35%、脳卒中のリスクは26%低下していることが明らかになりました。一方で入浴頻度と心臓突然死および、くも膜下出血の発症リスクには関連がみられませんでした。
この結果から研究グループは「湯船につかることによる体温上昇は運動と同様の作用があり、心疾患の発症リスク低下に関連した可能性がある」とし、「入浴頻度と高血圧リスクの低下には関連が認められていることから、今回認められた浴槽入浴の心疾患リスクへの効果は高血圧リスクの低下によるものである」と考えています。
また研究グループはお風呂の適温も調査。心疾患リスクは温かめのお湯で26%、熱めのお湯で35%低下しましたが、脳卒中とお湯の温度に有意な関連はみられませんでした。
ただ、研究グループは熱めのお風呂に入ることのリスクも認めており、「熱すぎるお風呂に入るリスクについては疑う余地がなく、高齢者になるほど、またお湯の温度が上がるほどそのリスクは高くなる」と注意を促しています。
<参考文献>
Regular tub bathing linked to lower risk of death from cardiovascular disease
https://www.bmj.com/company/newsroom/regular-tub-bathing-linked-to-lower-risk-of-death-from-cardiovascular-disease/
Ukai T, Iso H, Yamagishi K, et al. Habitual tub bathing and risks of incident coronary heart disease and stroke [published online ahead of print, 2020 Mar 24]. Heart. 2020;heartjnl-2019-315752. doi:10.1136/heartjnl-2019-315752
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32209614/