なじみのない病気かもしれない難病のALSは、略さずにいうと「筋萎縮性側索硬化症」といいます。著名人でも発症する人がおり、最近では美容家の佐伯チズさんが発病を公表し逝去する報道がありました。米国ハーバード大学の研究グループがこの病気に影響を与える要因として思わぬものの関係を明らかにしています。それは腸内細菌です。
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ALSとは?
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、自己免疫疾患のひとつです。本来は体外からの異物に抵抗するために存在している「免疫」が自分自身を攻撃してしまうために起こる病気。自分自身の免疫が筋肉に延びている神経をいためてしまうために起こります。
1年間に国内でこの病気になる人は10万人に1~2.5人。ごくまれではありますが、著名人でかかるケースがあり、古くは米国メジャーリーグの人気投手、ルー・ゲーリッグがかかり、長く「ルー・ゲーリッグ病」として知られていました。そのほかにも著名人で発症する人はときおり報告されます。
米国ハーバード大学の研究グループは、このALSのリスクを高める要因について研究を行い、このたびその背景にある要因のひとつとして、「腸内細菌」が関係していると報告しました。ALSは遺伝的な要因が関係していると考えられているのですが、腸内細菌の影響が判明したのは意外なことでした。
同じ遺伝子でも病気の出方に違い
ここから見えてきたのが、同じALSにつながる遺伝子をもっていても、腸内細菌の条件しだいでは、病気になりづらくなる可能性があるという事実です。これは動物実験からわかりました。
これは不思議な出来事から判明しました。というのも同じ遺伝子をもっているのに、マウスを飼育する施設を変えると、病気にならない変化が起きたのです。こうした違いは、施設ごとの環境が違うために腸内細菌が変化することにあると考えられたのです。
さらに、腸内細菌に人工的な変化を起こすと、体に起きていた炎症が軽くなることも確認。炎症というのは免疫の反応であり、こうした影響によって発病に違いが現れる可能性が考えられました。
悪さをしていると見られたのは、免疫を刺激するような腸内環境。腸炎をいつも起こしているような状況は好ましくないといった可能性が考えられます。腸内細菌についてはさらに研究が必要ですが、食べるものがこうした難病の発生にも関係するかもしれません。
<参考文献>
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(難病情報センター)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/52
Gut microbiome influences ALS outcomes
https://news.harvard.edu/gazette/story/2020/05/harvard-scientists-identify-gut-brain-connection-in-als/
Burberry A, Wells MF, Limone F, et al. C9orf72 suppresses systemic and neural inflammation induced by gut bacteria. Nature. 2020;582(7810):89-94. doi:10.1038/s41586-020-2288-7
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32483373/