超高齢化社会が進む日本で認知症の患者数は年々増加しており、深刻な社会問題となっています。また認知症は若年性アルツハイマーでも知られるように、高齢者でなくてもかかる可能性がある病気。発症リスクを下げるには何に注意すればいいのか気になるところです。このたび、同じ高齢者でも認知症にかかる人とかからない人の違いはどこにあるのか、ヒントとなる報告が海外でありました。予防を考える参考になるかもしれません。
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米国人高齢者2131人を17年間追跡調査
認知症は国内では2012年の段階で462万人と推計されており、2025年には700万人に達すると見込まれています。高齢になるとありふれた病気のひとつであり、誰にとっても遠い存在とは言えない状況になっています。高齢になってから問題になりますが、その背景には生活習慣や知的活動などが発症に関連するとされています。まだどういった習慣が認知症につながるのかは不明点も多いものの、若いころから予防のためにできることはあると考えられています。
しかし、認知症の症状がどのような原因から出てくるのかも解明されていません。同じ90代でも、アルツハイマー病を発症する人と、はたまたアルツハイマー病の特徴であるアミロイド斑が脳内に見られているにもかかわらず、頭が冴えきって元気いっぱいな人も。90歳を超えても脳内にそのアミロイド斑がそもそも出ない人もいます。
このたび米国カリフォルニア大学の研究グループは立ちくらみと認知症との関連性について調査。認知症にかかっていない男女2131人(男性47%、女性53%、平均年齢73歳)を対象として、起立したときに血圧が低下する起立性低血圧症の人がその後、認知症を発症しやすくなるのかについて、12年間にわたって追跡、分析したのです。
起立性低血圧症の定義は、3回の測定で1回以上、座った姿勢から立ち上がった際に、収縮期血圧(いわゆる上の血圧、最高血圧)の低下、拡張期血圧(いわゆる下の血圧、最低血圧)の低下としています。調査開始時、1年後、3年後、5年後に血圧を測定。収縮期起立性低血圧症および拡張期起立性低血圧症についてもそれぞれ診断しています。
対象者のうち309人(14.5%)が起立性低血圧症、192人(9.0%)が収縮期起立性低血圧症、132人(6.2%)が拡張期起立性低血圧症と診断されています。
立ちくらみと認知症の間に関係も
長期間追跡してわかったのは、収縮期起立性低血圧症、つまり収縮期血圧が立ち上がった際に過度に低下する人にだけ、認知症の発症リスクと関連が見られたことでした。
追跡期間中、対象者のうち462人(22%)が認知症を発症したのですが、年齢や性別などの社会人口統計学的及び既存の健康状態の条件で補正すると、収縮期起立性低血圧症の人は認知症の発症リスクが1.37倍、つまり約4割近くも高くなることがわかりました。一方で拡張期起立性低血圧症や起立性低血圧症全般で見るとそのような結果は見られませんでした。
「このような過度の血圧低下をコントロールすることが、年齢を重ねても思考力や記憶力を維持するための有望な手段となるのではないか」と研究グループは期待しています。まだどのようなタイプの認知症が増えるのかなどについては詳細を調べる必要はありますが、立ちくらみ自体が血圧の問題とも関係があることでもあり、意識的に医療機関に相談するとよいかもしれません。
<参考文献>
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf
PEOPLE WHO FEEL DIZZY WHEN THEY STAND UP MAY HAVE HIGHER RISK OF DEMENTIA
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/3810
Rouch L, Vidal JS, Hoang T, Cestac P, Hanon O, Yaffe K. Systolic blood pressure postural changes variability is associated with greater dementia risk [published online ahead of print, 2020 Jul 20]. Neurology. 2020;10.1212/WNL.0000000000010420. doi:10.1212/WNL.0000000000010420
https://n.neurology.org/content/early/2020/07/20/WNL.0000000000010420