最近、20~40代の女性にストレス性のめまいを訴える人が増えています。前庭性片頭痛は、めまいを伴う片頭痛のことで、片頭痛発作にはストレスが関連します。めまい症状が出る疾患についてシリーズで紹介します。今回は、前庭性片頭痛について、横浜市立みなと赤十字病院めまい平衡神経科部長で、25万人のめまい症状を改善してきた新井基洋先生にうかがいました。
Contents 目次
このシリーズでは、めまい症状が出る疾患について紹介していきます。
(1)ストレス性のめまいって?
(2)ストレス性のめまいのセルフケア
(3)PPPD
(4)メニエール病
(5)めまいを伴う突発難聴
(6)前庭性片頭痛 ←今回はココ
(7)良性発作性頭位めまい症
あなたは大丈夫? 前庭性片頭痛のチェックテストを行ってみましょう。
【チェックテスト】
□15年以上、片頭痛が続いている
□めまいが片頭痛と同時か、前後して起こる
□めまいに伴い、嘔吐や吐き気、光過敏、音過敏などがみられる
□大きなストレスを感じることがあった
いかがでしたか? すべての項目に当てはまれば、前庭性片頭痛かもしれません。
めまいを伴う前庭性片頭痛は、20~30代の女性に多い
片頭痛に伴い、「前庭症状」と呼ばれるめまい・浮動感が起こるのが前庭性片頭痛です。新井先生は長年の診療経験から、「つらい片頭痛が15年以上続いている人に出やすく、20~40代の女性に多い」と言います。
では、なぜ片頭痛でめまいが起こるのでしょうか。
「片頭痛が進むと、風が吹いたり、髪の毛をとかしても頭が痛くなってくる『異痛症(アロディニア)』が生じることがあり、鼓膜や外耳道に問題がない耳の痛みも出てきます。めまいもそのひとつと考える説もありますが、明確な機序はわかっていません。しかし、片頭痛の中でめまいを伴う患者は確実にいるのです。
めまい症状は、数秒間起こることもあれば、数分間、数時間、数日間と続くこともあります。いずれにしても、頭痛と同時か、頭痛と前後してくり返すのが特徴です。吐き気や嘔吐、音過敏、光過敏、におい過敏などを伴うこともあります」
前庭性片頭痛もストレス性めまいのひとつで、症状の出現にはストレスが関連しています。
「大きなストレスにさらされたり、ストレスから解放されたときに頭痛が出やすくなります。ほかにも、精神的緊張、疲れ、継続的な光刺激、音刺激、におい刺激、睡眠不足、睡眠過多、天候の変化、温度差、空腹、アルコールなども引き金になります。月経周期と関連するケースもあります」
前庭性片頭痛の人に多い、典型的なエピソードとは?
新井先生は、前庭性片頭痛の典型例として、次のようなエピソードを挙げます。
・母親が片頭痛持ち
・初潮があった翌年ぐらいから、ズキズキする頭痛が始まった
・頭痛が始まる前には、目の前がチカチカしたり、稲妻のようなものが見える「閃輝暗点(せんきあんてん)」という現象があり、その後、激しい頭痛におそわれる。
・中学、高校では頭痛のため保健室で休んだり、学校を休むことが多かった。あるいは、頭痛のために学校に行けず、不登校になってしまった。
・大学生や社会人になり、毎日勉強や仕事で忙しくなると、頭痛が悪化するようになった。
・休みの日に寝だめをすると、かえって頭痛がひどくなる。
・チェダーチーズやチョコレ-トをつまみに赤ワインを飲むと、決まって頭痛がする。
・結婚後、妊娠すると頭痛が起こらなくなった。しかし、出産後、断乳すると頭痛が復活した。
・閉経後、頭痛はやわらいだが、めまいは続いている。
「じつは、前庭性片頭痛は発生機序等のよくわかっていないことも多いのですが、こうしたエピソードに心当たりがあれば、前庭性片頭痛の可能性があります」と新井先生は話します。
治療は、片頭痛の予防薬の服用が第一
前庭性片頭痛かも?と思ったら、前庭性片頭痛にくわしい頭痛外来やめまい外来などを受診しましょう。
「前庭性片頭痛を改善するには、片頭痛の予防薬を処方してもらい、片頭痛が起こらないようにしていくのが第一。そして、疲れ、継続的な光刺激、音刺激、におい刺激、睡眠不足、睡眠過多、飲酒など、片頭痛を引き起こす原因を避けるようにしましょう」
片頭痛が治まっても、めまいが残る場合は、めまい改善トレーニングを行っていきます。
速いヨコ
(1)両腕を伸ばして、肩幅よりやや広めに開く。両手の左右の高さをそろえて親指を立てる。
(2)頭を固定して、目だけを動かして右の親指と左の親指を交互に見る。
※1秒間に1回見るリズムで、「1」「2」と声を出して回数を数えましょう。合計20回です。
ゆっくりヨコ
(1)体と顔を正面に向けて、左手の人さし指でアゴを押さえ、頭が動かないように固定する。右腕を正面にまっすぐに伸ばし、手を握って親指を立てる。
(2)左手の人さし指を固定し、右腕のひじを伸ばしたまま親指を右方向に30°移動させながら、親指の爪の動きを目で追う。頭を動かさないように注意する。
(3)右の親指を、正面を通って左方向に30°移動させながら、(2)と同様に目で追う。
※(2)~(3)を10往復行う。
※親指を移動させるときに、声を出して「1」「2」と回数を数えましょう。合計20回です。
振り返る
(1)体と顔を正面に向けて右腕を伸ばし、手を握って親指を立てる。
(2)親指の爪を見ながら、頭だけを右に30°ひねる。
(3)同様に、左に30°ひねる。
※(2)~(3)を10往復行う。
※頭をひねるときに、声を出して「1」「2」と回数を数えよう。合計20回です。
※クラッとしたら効いている証拠です。
上下
(1)体と顔を正面に向けて右腕を伸ばし、手を握って親指を横に突き出す。
(2)手は動かさず、目線を親指の爪に固定したまま、頭を30°上に向ける。
(3)同様に、アゴをしっかり引いて頭を30°下に向ける。
※(2)~(3)を10往復行う。
※頭をひねるときに、声を出して「1」「2」と回数を数えましょう。合計20回です。
無理のない範囲で行っていきましょう。
取材・文/海老根祐子 イラスト/クロカワユカリ