猛暑日が続いて熱中症による搬送や死者も相次いでいますが、近年は世界的にも、極端な暑さだけでなく極端な寒さも問題になっています。温暖化の影響で寒い日は減っているとされますが、気温のせいで死亡するケースの多くが意外にも寒さのせいという米国からの研究報告がありました。これから寒くなるなか、暖かく過ごす工夫が大切かもしれません。
Contents 目次
米国イリノイ州のデータを分析
気候変動に関するさまざまな研究から、この先、世界的に気温が上昇すると予想され、熱波や寒波、大雨、干ばつなどの異常気象が増えると考えられています。そこで米国イリノイ大学の研究グループは、気温の変化への対策を検討する一助とするために、気温に関連した症状について、地元イリノイ州の状況を調べてみました。
研究では、2011〜2018年の間に暑さ、または寒さに関連した症状でイリノイ州の病院を受診したケースのデータと、米国国立気象局(NWS)からの気象データを関連させて分析しました。
こうしたデータの内訳は寒さを原因とする症状は重いことが多いというものです。寒さ関連の患者が2万4000人弱、暑さ関連の患者が2万4000人強と、患者数はほぼ同じでしたが、入院者数は寒さ関連のほうが4倍以上と多く、死亡者数は暑さ関連の70人に対して、寒さ関連は2000人近くに上りました。
低体温症に注意
さらにここから見えてきたのが、「低体温症」が死亡者全体の94%を占めるということです(気温に関連した症状全体に占める割合は27%なのに)。低体温症は体の深部体温(中核体温)が下がり過ぎた状態(おおむね35℃以下)で、体のさまざまな臓器やシステムが機能停止し始め、重症化すると命にかかわることに。特に心臓・血管の病気や腎不全などの健康問題があると、重症化するリスクが高くなります。ただ、ふだんから低い気温に慣れている人は、低体温症に対しても抵抗力があるそう。
この結果から研究グループは、暑い天候よりも寒い天候による死者数が多いのは、過去数十年にわたり寒い日が減っているために、低体温症になったときに体温調節機能が働きにくくなっていること、また体が寒さに慣れないうちに極端な寒さに遭遇してしまうことが要因ではないかと指摘しています。
研究グループは、公衆衛生の面では今のところ暑さによる症状ばかりに重点が置かれていますが、寒さへの対策が大切になる可能性を指摘します。寒い日がもっと減り、寒さはより厳しくなることで、寒さに慣れにくくなる可能性があるからです。そのため寒い天候による症状についても認識、教育する必要があると注意しています。
<参考文献>
Cold-weather accounts for almost all temperature-related deaths
https://today.uic.edu/cold-weather-accounts-for-almost-all-temperature-related-deaths
Friedman LS, Abasilim C, Fitts R, Wueste M. Clinical outcomes of temperature related injuries treated in the hospital setting, 2011-2018 [published online ahead of print, 2020 Jul 11]. Environ Res. 2020;189:109882. doi:10.1016/j.envres.2020.109882
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32678734/