乳がんには、じつは「なりやすいタイプ」の人もいます。それが「遺伝」です。米ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝的な理由から乳がんが見つかる前に乳房を切除し話題となりましたが、家族や身内に乳がんの人がいる場合、自分ががんになるリスクはどのくらい高まるのでしょうか。「遺伝性乳がん」について、昭和大学医学部乳腺外科教授の明石定子先生にお話をうかがいました。
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一生涯での発症率は70~80%
近年の研究では、乳がんに関係する代表的な遺伝子として「BRCA1」と「BRCA2」の2つがわかっています。
「遺伝性乳がんというのは、乳がん全体の5%くらいを占めていて、BRCA1またはBRCA2の遺伝子変異をもっている人の場合、一生涯で乳がんを発症する確率は70%〜80%といわれています。これは一般の人の10倍以上の発症リスクです。身内に乳がんになった人がいたとしても、乳がん遺伝子を受け継いでいなければ、発症リスクは少し下がって平均の1.5倍ほどになります」(明石先生)
遺伝性乳がんは30〜40代での発症率が高く、特にBRCA1の遺伝子を受け継いでいる人は比較的若年での発症が多いことがわかっています。
卵巣がんの発症率も高くなる!?
さらに遺伝性乳がんの人が気をつけなければいけないのが、卵巣がんの発症率も高くなるという点です。
「BRCA1やBRCA2の遺伝子は乳がんだけでなく、卵巣がんにも関係しており、BRCA1の遺伝子を受け継いでいる人は卵巣がんの発症率が20倍、BRCA2だと10倍に上昇することがわかっています。このように遺伝的にどちらのがんも発症しやすい体質の人を『遺伝性乳がん卵巣がん症候群』といいます」
こうした遺伝的な要因が考えられる人は、「遺伝学的検査」を受けて、実際に乳がん遺伝子の有無を調べ、発症前の治療を検討するのも一案です。
遺伝学的検査とは?
遺伝学的検査とは、乳がんに関係する「BRCA1」と「BRCA2」などの遺伝子を受け継いでいるか否かを調べるものです。
検査は採血によって行い、結果が出るのは約1か月後。2020年4月から、自身が乳がんで45歳以下あるいは家族に乳がんの人がいるなどの要件を満たした場合や、卵巣がんの患者は、検査費用や予防切除などの治療費が保険適用となりました。
たとえば、すでに乳がんになっている人が遺伝的要因を調べるために受けた検査費や、反対側の乳房に別の乳がんが出ることの予防としての乳房切除手術費などが対象になります。ただ、アンジェリーナ・ジョリーさんのようにまだ発症していない人の場合は保険適用とならず自己負担になるため、検査で20万円ほどかかるといいます。
「遺伝学的検査を受けるかどうかはご本人の選択によるので、もちろん受けない方もいます。検査を受けた結果、乳がん全体の約5%の人が陽性と診断されます。BRCA1、BRCA2が陽性の方には特別な検診プログラムを受ける、あるいは乳房切除という選択肢があります」と明石先生。
「乳がんは定期的な検診で早期発見のチャンスがありますが、卵巣がんに関しては、見つかった時点ですでにステージⅢ~Ⅳというケースも多く、早期発見が難しい病気です。そのため、遺伝学的検査の結果、特に発症リスクが高いBRCA1の遺伝子が陽性の場合、40歳以上で出産希望がない方は卵巣の予防的切除がおすすめとなります。また、BRCA1、BRCA2以外にも遺伝性乳がんに関連した遺伝子もあるため、BRCA1、BRCA2遺伝子の異変が陰性であっても100%遺伝性乳がんが否定されたわけではありませんので、油断は禁物です」
次回は、万が一、乳がんと診断されたときの心構えと治療についてお伝えしていきます。
取材・文/浜津樹里