女性特有の病気のなかでも腫瘍は身近な問題になってきます。乳がんや子宮頸がんのほか、子宮がんや卵巣腫瘍など、女性が注意すべき病気が知られています。健康全般への影響のほか、将来の妊娠への影響も心配されます。こうしたなか、このたび海外の研究から卵巣の「境界悪性腫瘍」と妊娠との関連について朗報となる報告がありました。
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女性特有のがんの影響とは?
このたび研究対象となったのは「境界悪性腫瘍」です。腫瘍には良性のものと、悪性のがんとがあると知られていますが、境界悪性腫瘍はそれらの中間的な存在と見なされています。境界悪性腫瘍は、子宮と卵巣の少なくとも一部を残す「妊孕性(にんようせい)温存手術」が行われています。子宮と両卵巣を切除する根治的手術とは異なり、将来の妊娠の可能性を残す方法になります。
スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究グループは、温存手術が病気を治すに至るかどうかに加えて、手術を受けた女性がその後に子どもを授かることができるのかについて研究しました。
毎年、スウェーデンでは約700人の女性が卵巣がんを発症しているといいます。卵巣腫瘍のうち卵巣がんは最大で2割。そのなかで妊娠に至る可能性のある年齢に至っていない女性は3分の1。再発リスクは、子宮と両卵巣を切除する根治的手術の場合よりも温存手術のほうが大きいものの、温存手術を選ぶ人も少なくないとのこと。
今回の研究では2008年から2015年の間に境界悪性腫瘍に対して妊孕性温存手術を受けた18~40歳の女性について調査を行いました。
治療効果を確認、「妊孕性」保たれた
ここから見えてきたのが、妊孕性温存手術を行った女性では、生存率において根治的手術と差はなく、妊孕性(妊娠するために必要な能力)においても問題なさそうだということでした。妊孕性温存手術を受けたあとにも、自然に妊娠する可能性は維持されたとしています。
妊孕性温存手術を受けた213人のうちの23%が計62人の子どもを出産。生殖医療を必要としたのは手術を受けた女性のうち9%でした。妊孕性温存手術を受けたグループと根治的手術を受けたグループとの間で全生存率も差はありませんでした。研究グループは、良性と悪性と中間的な卵巣腫瘍において安全で、将来の出産も見込める手術として妊孕性温存手術が選択肢になると説明しています。日本の女性にも無縁ではない研究といえそうです。
<参考文献>
Women could conceive after ovarian tumours
https://news.ki.se/women-could-conceive-after-ovarian-tumours
Johansen G, Dahm-Kähler P, Staf C, Flöter Rådestad A, Rodriguez-Wallberg KA. Reproductive and obstetrical outcomes with the overall survival of fertile-age women treated with fertility-sparing surgery for borderline ovarian tumors in Sweden: a prospective nationwide population-based study. Fertil Steril. 2020 Sep 22:S0015-0282(20)30696-8. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.043. Epub ahead of print. PMID: 32977941.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32977941/
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282(20)30696-8/fulltext