睡眠は脳だけでなく、心身の健康維持にもとても重要な意味をもつ生活習慣です。徹夜明けはぐっすり眠れた日よりも興奮モードの交感神経の緊張が強くみられ、心理的ストレスを受けやすく、情動不安定になる傾向が高まることが指摘されています。今日は、睡眠コンサルタントの友野なおさんに「睡眠不足と前頭前野の働き・関連性の高い病気」について教えてもらいました。
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不眠や睡眠不足が続くと、心の病気を発症するリスクが高まる危険
抑うつ症状と睡眠不足の関連性に関してはこれまで多数調べられていますが、米国にて7,954名の地域住民を対象に1年間にわたって追跡調査した疫学研究では、調査開始時点と1年後の再調査時の両方の時点で眠れていなかった人たちは、眠れていた人たちと比べてうつ病を発症する割合が約40倍も高かったという衝撃の結果を報告しました。
また、ジョンホプキンズ大学が卒業生1,053名を平均して34年間、最長で45年間追跡した調査でも、学生時代に不眠を訴えた人は、その後うつ病を発症するリスクが高まっていたという報告がされています。驚くことに、将来にまで睡眠の影響が続くということが証明されたのです。
さらに、ノルウェーにて74,977人を対象に行った20年間の追跡調査では、ときどき睡眠に問題がある人の場合は自殺危険率が1.9倍、しばしば睡眠に問題がある人の場合は2.7倍、ほぼ毎晩睡眠に問題がある人の場合は4.3倍高くなるという結果が発表されました。
人の脳の最前部には前頭前野という部分がありますが、この前頭前野は意思決定、コミュニケーション、思考、意欲、行動・感情抑制、注意の集中・分散、記憶コントロールなど、人間性の根幹に関わる働きを担っており、さらに「心の脳」とも呼ばれる情動を司る脳の部位である扁桃体の働きを抑制させる働きもあります。しかし、睡眠不足だと前頭前野の働きが鈍くなり、扁桃体の働きも抑えられなくなってしまうため、冷静で理性的な思考が失われて感情的になりやすくなってしまうのです。この前頭前野の働きの低下と自殺には関連性があることが指摘されています。
実際、4時間に睡眠時間を制限して5日間過ごしてもらい、その前後で脳の働きを比較した調査では、脳の感情を司る扁桃体という部分が、特に恐怖表情に対する反応が強く出るにもかかわらず、幸福表情に対する反応は変化がなかったという結果も。つまり、ネガティブな感情にとても敏感になり、ポジティブな感情には鈍感になることがわかったのです。
日々の睡眠を大切にすることは、自分の心を守り、自分を大切にすることであるといえます。幸せに、活き活きと、健康で過ごすための基盤には、毎日のよい睡眠習慣が欠かせないということを念頭におき、しっかりとおやすみ支度から睡眠時間までを確保できるようなスケジュールを組みましょう。