頭がズキズキと痛み、ときには吐き気や嘔吐を伴ったり光や音に敏感になったり。そんな「片頭痛」の症状に悩んでいる人は多いでしょう。仕事や家事、育児のストレスや天候の変化、月経による発作など理由はさまざまですが、「放っておけばそのうち治る」とついガマンしてしまいがちです。でも、「片頭痛はガマンするものから、コントロールするものへ」というのが最近の考え方。よりよい片頭痛コントロールを目指して、一般社団法人日本頭痛学会、JPAC(頭痛医療を促進する患者と医療従事者の会)、アムジェンが開催した「片頭痛コントロールカレッジ」の模様をお伝えします。
Contents 目次
つらい頭痛はなぜ起こる? 頭痛ダイアリーの役わり
まず、埼玉国際頭痛センター センター長の坂井文彦先生による講演が行われました。15歳以上4万人を対象にした全国調査(1997年)によると、片頭痛人口は約840万人と推測されますが、そのうち69.4%が病院を受診したことがないと答えています。片頭痛のときに寝こんだり、仕事も休むかという問いに対しては、「いつも寝込む」「ときどき寝込む」と答えた人が34%、「寝込まないが支障大」が40%と、7割以上の人が大きな問題を抱えています。それにも関わらず、病院を受診する人は約3割に過ぎません。痛みがひどいのに市販の鎮痛薬だけ対処している人が多いのは、「病院を受診するほどの病気ではない」と思い込み、片頭痛による損失を本人・家族・社会が知らないから。また、片頭痛が治療可能な病気で、治療薬もあることが知られてないことも原因と言えるでしょう。
頭痛による経済的損失は、国全体で年間2兆円!
日本の職場では、片頭痛による経済的損失がしばしば起こっています。頭痛をガマンしてなんとか仕事をこなせても、生産性が極端に低下したり、ときどき欠勤したりと、経済的損失は大きいのです。2021年の調査によると、経済的損失は25万円(/人)、会社全体では64億円(/年間)で、国全体での経済的損失推定は2兆円(/年間)とされています。
ここで、片頭痛が起こる仕組みを説明しましょう。片頭痛の誘因は、環境(天候・光など)、体内(疲労、ホルモン)の変化に対応していた脳内セロトニンが疲弊して、枯渇すること。脳内セロトニンが低下すると、三叉(さんさ)神経から脳の血管へ痛みの伝達物質である「CGPR」が放出され、CGPRが血管を拡張し周囲に炎症起こすことで、拍動(はくどう)性の片頭痛が起こります。
すなわち、片頭痛治療の標的は、「セロトニン」と「CGPR」。セロトニン受容体に働くトリプタン系の薬に加え、最近はCGPRを抗体でブロックする新薬も開発されるなど、治療薬は進化しています。
自分の頭痛を把握して医師に伝えるために、「頭痛ダイアリー」を活用
自分の頭痛のつらさを、医師も含めた他人に理解してもらうのは困難です。その助けとなるのが「頭痛ダイアリー」をつけること。頭痛が起きた日づけと時間帯、頭痛の程度、頭痛のタイプ(吐き気、前ぶれ、誘因など)、服用した薬と効果などを記すことで、自身の頭痛を観察・整理できるようになります。また、どんなきっかけで頭痛が起こるかを把握するができ、医師も治療の作戦が立てやすくなる、というメリットもあります。
頭痛はコントロールできる? 頭痛とじょうずに付き合おう!
続いて行われた、仙台頭痛脳神経クリニック院長 松森保彦先生による講演内容を紹介しましょう。
頭痛は、頭痛そのものが病気である「一次性頭痛」と、ほかの病気のいち症状である「二次性頭痛」の2種類があります。「一次性頭痛」は偏頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの“困る頭痛”で、頭痛そのものが病気です。一方の「二次性頭痛」は脳腫瘍、髄膜炎(ずいまくえん)、副鼻腔炎などの“危ない頭痛”で、ほかの病気のいち症状として現れます。このうち、頭痛患者の90%以上を占めるのが「一次性頭痛」。くり返し頭痛が起こることが特徴で、検査をしても異常が見つからないため、「問題ありません」「ただの頭痛です」と言われることがほとんどです。
たしかに「一次性頭痛」が命に関わることはごくまれですが、放っておくと生活の質が低下してしまうため、正しい診断・治療が欠かせません。
「一次性頭痛」のなかでも、とくに日本人に多いのは偏頭痛と緊張型頭痛ですが、片頭痛は片側、または両側がズキンズキンと脈を打つように痛み、ときには吐き気や嘔吐、光・音過敏などの症状を伴う特徴がありあす。痛みは4〜72時間持続し、痛くないときは無症状。体を動かすと痛みが増して寝込むこともあり、日常生活への支障度は中等度以上です。
片頭痛が起こると、寝込む(76%)、家事ができない(90%)、仕事ができない(72%)、会議や予約をキャンセルしたり延期する(67%)など、日常生活に支障が起こることがわかっています。また、偏頭痛のせいで家族や友人とのコミュニケーションが妨げられている(54%)、自分の頭痛が周囲をうんざりさせているのではないかと思っている(66%)という回答があり、人間関係にも影響が及んでしまいます。
最新の予防治療として、月に1度の注射薬が登場
病院では、軽〜中程度の頭痛に対しては市販または処方薬の鎮痛薬、中〜重度の頭痛に対しては「トリプタン製剤」が用いられますが、治療方法は痛み止めだけではありません。頭痛の種類や患者さんの持病などに合わせた予防治療を行うことで、「頭痛の頻度や程度を改善」「痛みの持続時間が短縮」「痛み止めが聴きやすくなる」などの効果がみられます。
従来は、抗てんかん薬、抗うつ薬などの内服薬が使われていましたが、「副作用がある」「効くまで時間がかかる」「少ない量から始めて調整する必要がある」といった問題点がありました、こうした問題点を解決するのが、最新の予防治療である注射薬です。月に1回、痛みの伝達物質である「CGRP」をブロックする注射を打つことで、発作を減らし、軽いものにするとされ、注目を集めています。
頭痛を予防するために、日常生活で気をつけること
片頭痛を予防するには、日常生活にも注意をする必要があります。カテゴリごとに注意点を以下にまとめました。
<食事>
以下の食品のとり過ぎに気をつける。
・ オリーブオイル・赤ワイン・チーズ・チョコレート(チラミンやポリフェノールが血管を拡張)
・ 中華料理、ソーセージ(うまみ調味料や添加物が血管を拡張)
・ アルコール(過度な飲酒は避ける)
<休日の過ごし方>
・ 前夜に羽目を外し過ぎない
・ 極端に寝坊をしない
・ 朝食をきちんととる(低血糖を避ける)
<環境面での注意>
・ 人ごみや騒音の激しいところは避ける
・ 日差しが強いときはサングラスや日傘を利用する
・ 映画館、カラオケ、パチンコ店などは避ける
<ストレスの管理>
・ 日頃からストレスをためないよう工夫する
・ 適度な運度を心がける
頭痛にはハーブティーとして飲まれている「フィーバーフュー(ナツシロギク)」や、サプリメントに使われる「バターバー(西洋フキ)」がよいと言われています。また、ビタミンB2やマグネシウムも知られています。
正しく診断し治療を行うと多くの頭痛はよくなります。頭痛で困ったら、一度、頭痛専門医への相談を。次回の「片頭痛コントロールカレッジ」は11月28日(日)の13時から14時30分が予定されています(申込締切は11月21日23時59 分)。参加費は無料。Zoom開催のため、ぜひ気軽に参加してみてください。
<申し込みサイト>
https://www.henzutsu.net/
文/MFC