秋の夜長は、涼しくなって寝苦しさから解放され、質のいい睡眠を見直すのに最適です。しかし、ストレスから寝つきが悪い人や、悪夢を見ることが多く、目覚めが悪い人も少なくありません。そこで今回は、睡眠専門医として、これまでに多くの人を診療してきた坪田聡先生に、それらの対処法を教えていただきました。
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いろいろ考えすぎて眠れない…そんなときに役立つ5つの解決法
眠る前にあれこれ考えてしまって眠れない…。
さらに眠れないことがあせりとなって、余計に眠れなくなってしまう…。
そんな経験は誰にでもあるのでは?
「15分経っても眠れないときは、思い切って寝床を出ましょう。できれば寝室を出て、薄明りのリビングなどで音楽を聞いたり、読書をしたりして、リラックスして過ごしてください。このとき、気分転換にテレビやケータイを見てしまっては、覚醒してしまうのでNGです。そして、眠たくなったら寝床に戻って目をつぶりましょう」(坪田先生)
人間関係や仕事のことなど、悩みがあると寝つきが悪くなってしまいがちです。
「悩みすぎると眠れなくなってしまうので、エジソンやノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹さんも実践していたという『追想法(レミニセンス)』を試してみてください。これは、まず眠る前に問題となっていることの枠組みや事実関係だけを考えます。内容が具体的であればあるほど、成果は大きいといわれているので、たとえば人間関係だったら、『自分とあの人は○○でこういう状態に陥っています』と、ひと通り問題を整理します。そして最後に、『次に目が覚めたときには、問題の解決法を思いついている』と強く念じます。ここで追想法をうたがってはいけません。この自己暗示が深層心理に働きかけて、眠っている間に問題解決のアイデアを探し出してくれるのです」
「気持ちがモヤモヤして眠れないというときは、『エクスプレッシブ・ライティング』がおすすめです。これは、眠る前に自分の悩みや嫌だったことなど、ネガティブな感情をノートに書き出して解消する方法です。感情を書き終わったらノートを閉じ、『はい、終わり』とか『これでおしまい』などと言いながら引き出しにしまいます。そうすることで、気持ちがひと段落して、眠りやすくなります。寝る直前だとますます眠れなくなるという人は、自分の気持ちがいちばん落ち着く時間帯に書いてみてください」
「それでもうまくいかないときは、『スリー・グッド・シングス』という心理学を応用した手段があります。これは、寝る前にその日1日を振り返って、よかったことを3つ書き出す方法です。そうすることで、心の緊張がほぐれて前向きになり、眠りやすくなります」
「最後に、眠れない日が続くなら、『スリープ・セレモニー(入眠儀式)』もとり入れましょう。これは、眠る前に決まった行動をとることです。たとえば、ぬるめのお風呂にゆっくり入って、パジャマに着替えて歯を磨き、軽くストレッチをして寝床に入り、『おやすみなさい』とつぶやいて目を閉じる。このように眠るまでの行動を一定にすることで、リラックスできて自然に眠りやすくなります」
悪夢を見てしまうときは?夢をコントロールする方法
そもそも私たちはなぜ夢をみるのでしょうか?
「人はなぜ夢を見るのか? については、これまでにさまざまな研究が行われてきましたが、じつのところまだわかっていません。眠っている間に脳では必要な記憶が残されて、いらない記憶は捨てられています。この新しい記憶が保存されるのときに、古い記憶とリンクづけされ、そのとき浮かび上がってきた映像の断片が、勝手につなぎ合わされて夢のようなストーリーができあがるという説が有力です」
「また、フランスの脳科学者ミッシェル・ジュヴェが唱える『遺伝プログラム仮説』もあります。これは、脳細胞の遺伝子には、生きるのに必要な行動プログラムがあらかじめ埋め込まれており、夢はその行動プログラムのシミュレーションだというものです。
たとえば、猫も夢を見るのですが、猫の脳に特殊な処置を施すと、レム睡眠中に獲物を威嚇したり、捕らえようとしたりする行動が観察され、ネズミを捕らえる夢を見ていたと考えられます。これは、脳の遺伝子に書き込まれた行動プログラムは、実際に使わないと消されていくので、眠っているときに自分に必要な技法やフォームを練習しているのではというものです」
では、悪夢を見てしまうのはどうしてでしょう?
「多くはストレスが原因といわれています。コロナ禍で患者さんに対応していた看護師さんは、悪夢を見る確率が数倍に増えたというデータもあります。同じ悪夢をくり返し見る人もいますが、そういう人は、起きているときに今度同じ夢を見たら、こういう対処をすると具体的に考えて、悪夢をいい夢に変えましょう。ロールプレイのように頭の中で対策を練ってから眠ると、それができることがあるといわれています。そうすることで悪夢を見るストレスも軽減され、悪夢を見る回数も減るはずです」
「もちろん、いい夢を見るためのロールプレイも有効です。昔は、初夢を見るために枕の下に宝船の絵を入れたりしていました。いい夢を見るためには、寝る前にアイドルや好きな人、行きたい場所などの写真を見たりして、見たい夢の情報をインプットしましょう。
夢はレム睡眠のときに見るといわれ、ひと晩に3〜4回は見ていることになりますが、起きる直前に見る夢を覚えていることが多いです。夢を見たときは、目覚めてからすぐに夢の内容をメモにとりましょう。最初は断片的な箇条書きですが、慣れてくるとストーリーでたくさん書けるようになってくるので、そうすると夢をしっかり覚えられるようになります。すると、自分で夢だと自覚できる明晰夢(めいせきむ)を見ることができるようになり、自分の好きなように夢をコントロールすることも可能だといわれています」
楽しい夢のことを考えて眠りにつくのは精神的にもよく、よりリラックスして寝やすくなるのでおすすめです。
取材・文/奥沢ナツ