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認知症など脳の病気にも関係! 研究者も注目の“腸脳相関”から見えてきた腸内細菌の世界(後編)

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腸と脳は頻繁に情報交換している―。多くの研究で注目されている腸と脳の相互関係。しかも、そこには腸内細菌が関与していることが、研究で明らかになってきています。今回は、いま世界の研究現場でもっとも注目されている「腸内細菌と脳の病気」の関係について、腸内細菌やビフィズス菌研究に詳しい森永乳業研究本部基礎研究所長の清水金忠先生にお話をうかがいしました。

Contents 目次

腸内細菌はどのように脳に影響するの?

腸と脳が双方向で情報交換する関係を一般的には「脳腸相関」と呼びますが、今回、FYTTEは腸に主眼を置き、あえて「腸脳相関」という表現を使い、腸内細菌と脳疾患の関連に迫りたいと思います!

編集 鈴木
腸と脳が情報をやりとりする腸脳相関には腸内細菌が介在していて、アルツハイマー型認知症など脳の疾患にも影響していると聞きます。研究で明らかになっていることを教えてください。
清水先生
アルツハイマー病に次ぐ神経系疾患とされるパーキンソン病の場合、原因物質とされるのは脳内にたまる異常たんぱく質ですが、このたんぱく質は腸内で多くつくられていて、迷走神経を通じて脳に伝わるのではないかと考えられています。また、アルツハイマー型認知症患者さんの腸内フローラ(腸内細菌叢)は健康な人と比べて多様性が低く、ビフィズス菌の占有率が低いという報告などもあります。
編集 森下
では、腸内フローラの状態も関連しているということでしょうか?
清水先生
これまでの研究を見る限り、何らかの関係は予想できるものの、じつはどの菌種がどのように違っているかまでは世界レベルでは一定の結論に達していない状況です。たとえば、ビフィズス菌は日本人に多いとされますが、もともと少ない国の人もいて健康に暮らしているので、腸内フローラを見るだけではわからない部分があります。
編集 森下
なるほど。腸内フローラは国・地域、食文化などの違いが影響している可能性もありそうですもんね。
清水先生
そうですね。そこで注目されるようになったのが、患者さんのお腹にいる腸内細菌がどのような代謝産物をつくっているか、という点です。つまり、代謝産物は腸と脳の情報伝達も担っているので、代謝産物の状態を調べれば、脳疾患との関連がもっとわかるのはないかということです。

代謝産物の異常が腸や脳のバリア機能を阻害する!

ドクターと腸

編集 鈴木
ちなみに、代謝産物ってどのようなものなんですか?
清水先生
腸内細菌は、私たちが食べたものや、もともと体のなかにあった分泌物などを分解したりして、さまざまな物質につくり変えています。これが代謝産物です。
編集 森下
最近よく耳にする短鎖脂肪酸も代謝産物のひとつですよね。それにしても、代謝産物はどのように脳に影響を及ぼしているのでしょうか?
清水先生
不摂生やストレスなどさまざまな要因で腸内フローラが乱れると、つくり出される代謝産物にも異常が起こり、有害物質などの侵入から腸を守るための腸管バリア機能が低下してしまうんです。すると腸内炎症が起きて、それが脳の炎症につながるのです。ほかにも代謝産物の異常は免疫系や神経系を介して、脳に影響を及ぼすことがわかっています。
編集 鈴木
ひぇ~? 腸内細菌というとお腹のことだけ考えがちですが、腸管バリアが低下すると、もちろん体全体にもよくないし、脳にまで悪影響を及ぼしてしまうんですね…。
清水先生
さらにもうひとつ問題があります。脳にも血液脳関門というバリア機能があるのですが、代謝産物の異常によって引き起こされる一連の影響で血液脳関門も崩壊してしまうため、脳内の代謝産物や免疫反応も異常をきたすことに。その結果、アルツハイマー病やパーキンソン病、精神疾患などの発症につながるといわれています。たとえば、ある研究では腸内代謝産物である2次胆汁酸の濃度が濃いほど、記憶をつかさどる脳の海馬の減少と関連していることが明らかになっています。
編集 森下
ええ~! 腸内バリアに続き、血液脳関門まで…! しかも海馬が減少したら記憶力も低下しちゃいますね。怖いです。
清水先生
でも逆に考えれば、腸内フローラを良好に保ち、腸内細菌にがんばってもらうことで、よい影響を与える代謝産物をたくさんつくってもらえるようにすれば、腸管バリアを改善・強化したり、脳に好影響を与える物質を届けたりできる、という可能性もありますよね。
編集 森下
たしかに、その通りです! 希望が見えてきました! 清水先生はアルツハイマー型認知症に注目していると聞きました。なにかよい“秘策”はありますか?

有用菌をしっかり活かしたい! そのポイントは?

脳

清水先生
腸内環境を乱さないよう、食事や睡眠など日ごろの生活習慣が大切ですが、菌の研究でいうと、私たち森永乳業の研究グループは、腸内細菌と認知機能の低下が関連しているのではないかと考え、その進展を抑える効果がある素材を探してきました。そこで、たどり着いたのが“ビフィズス菌MCC1274”です。
編集 鈴木
すでに有用な菌が見つかっているんですね! ビフィズス菌は腸内環境を整えるのに役立つ菌種ですが、なかでも“MCC1274”というのはどのような特長があるのですか?
清水先生
ビフィズス菌MCC1274は加齢に伴い低下する認知機能(記憶力)を維持する働きを世界で初めて※認められたビフィズス菌なんです。
編集 森下
ビフィズス菌MCC1274 は要チェックですね! それにしても最近は、ヨーグルトやドリンクなどに特定の菌とその機能が書いてあるものも増えましたね!  腸脳相関のお話を聞いて、これからは腸内環境にいいものを積極的にとり入れていきたいと思うのですが、たとえば、ビフィズス菌のじょうずなとり方がありましたら教えてください。
清水先生
ビフィズス菌MCC1274については菌自体の働きが重要になるため、菌を生きたまま腸まで届けることがポイントです。口からとり入れて、腸を通り、排出していくという毎日のプロセスが大切なんです。また、どんな腸内細菌がお腹にいるかは人それぞれで、もちろんビフィズス菌のほかにもよい働きをする菌はたくさん存在しているので、ふだんの食生活で発酵食品など腸内環境を整えるための食品をとり入れていく場合は、特定のものを大量にということではなく、いろいろ試しながらバランスよくとるというのが、面倒なようでやはりいちばんの近道だと思います!
編集 森下
ありがとうございます! 腸内細菌は人それぞれだからこそ、腸にうれしいいろいろな食べものをとることが大切なんですね。さっそく実践したいと思います!
編集 鈴木
腸脳相関のメカニズムを知って、食事はもちろん、腸内環境を悪くしないような生活を心がけなければ!と自分でできることをあらためて見直したいと気合いが入りました。ありがとうございました!

※ヒト臨床試験において単一のビフィズス菌生菌体のみで加齢に伴い低下する認知機能(記憶力)を維持する働きが世界で初めて論文報告された(PubMedと医中誌WEBより、ビフィズス菌と認知機能および記憶のキーワードを用いたランダム化比較試験の文献検索結果。ナレッジワイヤ社調べ)

 

お話をおうかがいしたのは…

清水金忠
森永乳業研究本部基礎研究所長
清水金忠さん

理化学研究所などで研究職に従事したのち、1995年に森永乳業入社、2015年より現職。農学博士。主な研究テーマは腸内細菌やビフィズス菌の基礎・機能性研究、および応用技術開発。

 

取材・文/番匠 郁

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