30代以上の約6割がすでに危険な状態にあるとされる歯周病。口腔内だけでなく、全身の病気のリスクも高めてしまいます。歯周病は自覚症状なく進行し、アラフォー以降では症状が顕著に進行しやすくなります。今回は、歯周病治療で評判の高い、歯科医の亀井孝一朗先生による著書『小さな町で評判の歯科医が解説 歯周病になったらどうする?』から、その理由を見ていきましょう。
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アラフォー以降に歯周病が増加する理由
歯周病は20代以下の若年層でも発症しますが、多くの場合で30代後半から40代にかけて症状が進行します。厚生労働省のデータによると、検査によってなんらかの歯周病に関する所見があった人(=歯周病と疑われる人)の割合は、35歳~39歳で3分の2に達し、それ以降も増加していきます。アラフォーから歯周病が増えるのは、次のような複合的な要因によるものと考えられています。
1.アラフォーからの口腔フローラの完成によるリスク
アラフォー世代以降に歯周病が増加する原因のひとつは、口腔フローラが完成し、歯周病菌が定着するようになるためです。口のなかには約300種類~700種類の細菌が生息していますが、その細菌の構成がかたまるのは大人になってから。子どものうちは、さまざまな細菌が縄張り争いをくり広げ、出ていく細菌もあれば、新たな細菌が住み着いたりしています。
「成長にともない常在菌(常に住み着いている菌)のメンバーは固定化されていくのですが、特に歯周病菌群は定着が遅く、20歳~30歳ごろに細菌の構成がかたまると推測されています。このときに歯周病菌が定着することで、歯周病が進行する可能性が高まります」(亀井先生)
大人になって細菌構成がかたまる時期まで歯周病菌に感染しなければ、歯周病とは無縁の人生を送ることができますが、ほとんどの人は、子ども時代に親や家族との食事のなかで歯周病菌を受け継いだり、10代以降は恋人とのキスなどを通じて、歯周病菌に感染しています。
2.ストレスによる歯周病のリスク
30代以降、仕事や家庭でストレスを感じるという人は多いはず。
「ストレスと歯周病は無縁ではありません。過剰なストレスは自律神経を乱し、睡眠をはじめとする生活リズムを壊すことで体の免疫力を低下させます。免疫は体に有害な細菌とも戦っているため、免疫力が低下すれば口腔フローラは乱れ、歯周病菌の活動が活発化してしまいます。それまで歯周病菌をある程度抑えてくれた乳酸菌などの善玉菌も減少し、歯周病の発症リスクが高まるのです」
3.口呼吸による歯周病のリスク
ストレスを抱えている状態でも、自律神経の乱れから呼吸が浅くなり、多くの酸素をとり込めるよう口呼吸に変わってしまいます。
「口呼吸が常態化してしまうと、口のなかが乾燥した“ドライマウス”という状態になり、歯周病菌を内包したプラークが硬化して効率的に歯に沈着します。歯石化も促進され、歯周病の温床ができやすくなってしまうので注意が必要です」
4.食生活の乱れによるリスク
30代以降、忙しさやストレスの影響として食生活が乱れる人は多くなります。また、加齢に伴い、生活習慣病が気になってきますが、特に血糖値が高めの人は歯周病も進行しやすくなります。
「高血糖の状態は免疫力が低下し、歯周病菌を活気づけます。糖尿病の疑いがあるほど血糖値の数値が悪い人は要注意です。糖尿病と歯周病には相関関係があり、糖尿病は歯周病を進行させ、歯周病は糖尿病を進行させることがわかっています。常態的に高血糖の人は、歯科クリニックで歯周病のチェックを欠かさずにしてほしいと思います」
糖質過多な食事が増えると、口腔内細菌にエサを与えることになり、プラークができやすい環境に。それは歯周病菌にとっても増殖のチャンスとなってしまうのです。そのほか、咀嚼回数が少ない人や間食が多い人は、唾液による自浄作用が弱くなり、その結果として、細菌の繁殖を許して歯周病のリスクを高めてしまいます。
歯周病による全身への影響
歯周病は単に歯茎が損傷し、歯が抜けるだけではありません。さまざまな全身の疾患と関連しています。
「研究では動脈硬化や心筋梗塞、糖尿病、関節リウマチ、アルツハイマーや新型コロナウイルスとの関係性も指摘されるなど、さまざまな全身疾患と関係していることが明らかになっています。日本臨床歯周病学会は、歯周病の人はそうではない人の2.8倍の確率で脳梗塞になりやすいと発表しています。さらに、最近では、歯周病と糖尿病の双方向の関係性についても研究が進んでいます」
東京医科歯科大学の研究チームが、糖尿病と歯周病の両方をもつ患者グループに、歯周病の治療だけを行ったところ、糖尿病が改善し、その反対に糖尿病の治療だけをすると今度は歯周病が改善したのだそうです。
なぜそのようなことが起こるのでしょうか。それには歯周病菌が誘導する「炎症性サイトカイン」が関係してきます。
「歯肉炎や歯周炎が起こっているとき、その炎症を引き起こしているのは歯周病菌の生み出す毒素だけでなく、私たちの免疫反応です。免疫細胞は歯周ポケットのなかで毒素をはく歯周病菌を倒すため、炎症性サイトカイン(炎症の重要な調節因子で、細胞から分泌される低分子のたんぱく質の総称)をつくり出します」
しかし、歯周病菌はプラークというネバネバしたバリアに守られて生存し、歯茎の細胞だけがサイトカインによって炎症を悪化させていきます。このように、歯周病菌は毒素を出すだけでなく、炎症性サイトカインを「誘導」しているといえるのです。
「歯茎の炎症が進んだ患部や潰瘍の出血によって、炎症性サイトカインは血管に入り込み血流にのって全身を巡り、血管や内臓、筋肉や骨、脳や神経など、あらゆる器官と細胞の炎症を悪化させるリスクを高めるのです」
全身の疾患も悪化させる恐れのある歯周病。アラフォー世代は歯周病を進行させてしまう生活習慣や食生活を少しでも慎みたいものですね。
文/庄司真紀
参考書籍/
『小さな町で評判の歯科医が解説 歯周病になったらどうする?』(アスコム)
亀井孝一朗
かめい・こういちろう 1982年三重県生まれ。大阪大学歯学部卒業後、大阪大学歯学部大学院修了。2016年に三重県名張市で、かめい歯科クリニックを開院。ひとりひとりの気持ちに寄り添った治療が地域の人たちの信頼を生み、今では、近郊の都市からも多く患者が訪れる。日本口腔インプラント学会専門医・インビザラインプラチナエリートプロバイダー・ITI学会公認インプラントスペシャリスト