エクササイズがもつ力は、美容や体の健康によいというだけではなく、心の健康にも大きな影響を与えることがわかってきています。このたび、海外研究では、一般的な薬や心理療法と比べて、どんな運動の場合でもうつ病や不安障害などの症状を軽くする効果が高いと報告されました。病気の診断を受けた人でも有効だといいます。
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運動のタイプごとに効果は変わる?
世界的にうつ病と不安障害はメンタル面の不調のなかでも大きなウエートを占め、最近では新型コロナのパンデミックに伴って「心理的苦悩(psychological distress)」という症状も増加しているそうです。これらの症状に対しては、運動をするグループとしないグループに分けて効果を調べた研究がこれまでにも多く、研究では運動が薬や心理療法と同等の効果があるうえ、副作用の有無の点でも薬などよりまさっていることを示しています。
しかしながら、これまでの個別の研究結果をまとめて検証するメタアナリシス(複数の研究結果をまとめて分析する手法のことです)では、各研究の対象者や条件が大きく異なるため、運動がメンタルヘルスの改善に実際にどれくらい効果があるかの確実な結論には至っていませんでした。
そこで今回、南オーストラリア大学の研究グループは、このようなメタアナリシスを集めて、さらにデータを統合・分析するという「メタアナリシスのメタアナリシス」を行い、うつ病、不安障害、心理的苦悩の3症状に対する有酸素運動や筋トレ、ヨガなどさまざまな運動の効果について、科学的証拠を統合してみました。分析では論文データベースから、97のメタアナリシス(1000件以上の研究で合計参加者1万3000人近く)を集めることができました。
有酸素運動や筋トレ、ヨガなどすべてで症状改善
研究で明らかになったことは、健康な人はもちろん、精神障害や慢性的な病気を抱える人たちを含めたすべてのグループで、運動療法が効果的だということです。
こうした運動療法はうつ病、不安障害、心理的苦悩の症状42〜60%減らすことができ、過去の研究で見られた薬剤療法や心理療法など通常の治療法の効果と同等、あるいはそれより大きなものでした。効果は対象によって異なり、最も効果的だったのはうつ病の人、健康な人、妊娠中および産後の女性、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)および腎臓病の人でした。
有酸素運動や筋トレ、ヨガなどすべての運動が有効でしたが、とくに強度の高い運動ではうつ病と不安障害でより大きく症状が改善しました。また、運動療法の期間が長くなるほど効果は現れづらくなったものの、最も長期間の運動療法でも一定の効果が見られました。
今回の結果を受けて、うつ病、不安障害、心理的苦悩のケアにおいては、運動をメインの治療法にしてはどうかと研究グループは提案しています。
<参考文献>
Singh B, Olds T, Curtis R, Dumuid D, Virgara R, Watson A, Szeto K, O’Connor E, Ferguson T, Eglitis E, Miatke A, Simpson CE, Maher C. Effectiveness of physical activity interventions for improving depression, anxiety and distress: an overview of systematic reviews. Br J Sports Med. 2023 Sep;57(18):1203-1209. doi: 10.1136/bjsports-2022-106195. Epub 2023 Feb 16. PMID: 36796860; PMCID: PMC10579187.
https://bjsm.bmj.com/content/early/2023/07/11/bjsports-2022-106195
Research reinforces the importance of exercise in managing mental health
https://www.unisa.edu.au/connect/alumni-network/alumni-news/alumni-connect/2023/issue2/research-reinforces-the-importance-of-exercise-in-managing-mental-health/