[鉄分の基本] 知識と役割を知ろう！ 女性の不調と鉄分不足の関係

前回の記事では、日本人女性の約６割以上が鉄分不足という状況や、鉄欠乏・隠れ貧血についてのお話でした。前回のおさらいも兼ねて、鉄分についての基本的な働きや役割について教えてください。

「鉄は私たちの体に必要な栄養素のひとつ、ミネラルの一種。胃で吸収されやすい形となり腸で吸収されて血液を構成する赤血球中のヘモグロビンの構成要素になります。ヘモグロビンは酸素を全身の組織に運ぶ重要な働きをしています。

体内の鉄にはヘモグロビンなどに存在する機能鉄と呼ばれるものと、たんぱく質に包まれた貯蔵鉄（フェリチン鉄）の２種類があります。貯蔵鉄は肝臓や脾臓などにストックされ、機能鉄が不足した際に使われます。

食品に含まれる鉄には、動物性食材（肉や魚、貝など）に含まれるヘム鉄と、植物性食材（野菜や海藻、大豆など）に含まれる非ヘム鉄があります」（川口先生、以下同略）

女性の悩み（冷えや体のだるさなど）と鉄分不足には関係があるのでしょうか？　また、これから夏に向けて鉄分不足になりやすいなど注意しておきたいことがあれば教えてください。

「鉄は汗を大量にかく夏には、汗からも消失していきます。また、夏場の食欲不振など食事量の低下や、食事内容にも影響を受けます。たとえば、動物性の食材を調理する主菜よりも野菜中心のさっぱりした食事が多くなり、たくさん食べても鉄は吸収率が低いため鉄は不足ぎみになります。鉄の吸収率は、肉やレバーに含まれるヘム鉄は10～20％、野菜（ほうれん草など）に含まれる非ヘム鉄は２～５％ほどです。

鉄分が含まれる食材だけをとっても吸収されにくいので、お野菜に含まれる非ヘム鉄は、たんぱく質やビタミンCと一緒にとるなど、組み合わせやバランスがとても大事です。たとえば、鉄の多いほうれん草を卵とじにしてたんぱく質もとって、フルーツも加えてビタミンCも一緒にとるようなバランスのいい食生活を意識すると、鉄が効率よく吸収されます。

女性の不調については、鉄分が不足することで体内に十分な酸素を運べなくなるため、冷え性や体のだるさ、イライラ、めまいなどが起こりやすくなります。また、鉄はコラーゲンの産生にも関与していることから、肌の乾燥（かさつき）や粘膜、骨の形成にも影響します」

鉄分不足によって起こる具体的な不調と鉄分の重要性

鉄分不足による不調にはどんな症状がありますか？　また、妊娠・出産期など女性の健康にどのような影響を与えるのでしょうか。

「鉄不足になると、日常生活が楽しめなくなります。体が動かなくなり、常に疲労感やだるさを感じ、瞬発的に動くことができなくなります。そうなるとメンタルも落ちていきますね。不定愁訴や頭痛、イライラ、なんか変だよね？ということも鉄欠乏性の要因のひとつであることを知っていただきたいですね。もしこのような症状があったら鉄欠乏性を疑ってみて、ガマンしすぎず病院に行き、医師に相談してみてください。

とくに女性の妊娠期は、正常な妊娠・出産に向けて鉄を意識をすることが大事。母体が貧血だと十分な鉄を蓄えることができず、赤ちゃんの発育と成長（パーツの形成/骨・皮ふ・粘膜・舌・目・容姿など）に影響を及ぼす可能性があります」

鉄不足は肌やホルモンバランス、免疫などには影響はありますか？　更年期・閉経後の女性への影響についても教えてください。

「免疫に関しては、鉄は白血球の機能にも関わるので、不足すると抵抗力が低下し、感染症などにかかりやすくなります。ホルモンにも影響を与えるため、鉄不足は不妊症やホルモンバランスへの影響のほか、意欲・やる気が出ないなど、社会力の低下にもつながる可能性があります。

更年期・閉経後の貧血は、それほど多くありませんが、女性には比較的よく見られる問題です。原因のひとつは食生活の問題。鉄が含まれたバランスのいい食事をとったとしても、体内には２mgくらいしか吸収できません。このため、意識をしないと充足しづらい、難しいミネラルなのです」

では、どうやってとったらいいのでしょうか？　最近グミなどに栄養素が含まれている食品もありますが、どうなのでしょうか？

「鉄分が含まれたグミなどを利用するのもよい方法ですが、一度にたくさんとっても効果は薄く、少しずつコツコツ継続してとることが大切です。また、鉄の吸収率には一緒にとる栄養素にも影響されます。このため、鉄の吸収率も考慮して、１～２か月ほど鉄分を意識した食生活を継続し、貯蔵鉄の蓄えを維持していくことが大事です。

鉄分を補う治療は、貯蔵鉄（銀行）を満たすことが目的で、薬や注射を一生続けることはありません。貯金をしっかり蓄えたら、その後は鉄を意識した食生活を送ります。

また、最近は男性の鉄欠乏症にも注意が集まっています。ストレス社会で胃酸分泌を抑える薬を飲む人が増えていますが、鉄の吸収を高めるためには十分な胃酸の分泌が必要なため、食事でとった鉄の吸収が減ってしまうのです。非ヘム鉄は胃の中に入ると胃酸の力で、吸収しやすい鉄に還元されて吸収されます。しかし、不規則な食生活や飲酒量の増加に加え、胃薬の服用が重なることで、鉄欠乏や貧血を引き起こす悪循環が生じやすいのが現代社会の特徴といえます。

まずは知識を深め、意識を向けて、食事を見直すきっかけを作ってほしいと思います。
それには鉄が含まれている食材を食生活にとり入れること。大豆には鉄が多く含まれていますので、大豆製品（豆腐や油揚げなど）を食事にとり入れる。レバーと同様に内臓のある食材（動物性由来/アサリやシジミなど）には鉄分が豊富に含まれています。

最近は、野菜や食物繊維をしっかりとりましょう！と意識は高まってきているけれど、鉄をとりましょう！　こういった食品を食事の中に入れていきましょう、という啓発はないんですよね。カルシウムもそうです。カルシウムは成人で、１日600～800mg程度をとることが設定されていますが、とりにくい栄養素なので牛乳コップ１杯（200mg）で１日の3/1の量がとれる、という風に意識付けをしています。鉄も常に意識してとらないと１日の必要量がとれないんです。

具体的には、貝類が好きだからおみそ汁にアサリの水煮缶を入れる、とか。
鉄が多い食材って何？　鉄の多い食材を食生活にどうやって入れていけばいいの？という風に意識をしないと１日の必要量はとれません。

だからこそ、鉄入りのふりかけや、健康食品やサプリメントなどを活用し、意識的に鉄をとるのもよい方法だと思います。現在の日本の食生活では、このような製品もうまくとり入れることが大切です。とくに鉄が不足しがちな人はサプリメントや健康食品（鉄強化の商品）の利用が必要だと思いますし、実際にセミナーや取材の場でもその重要性をお伝えしています」

鉄の重要性が理解できました。とくに、女性は月経で鉄を排泄してしまうので、意識を向けないと不足しがちですし、バランスを考えた食生活を送っていても吸収率を考えると充足させることはなかなか難しい…。また、鉄不足によるさまざまな不調は、ほとんど当てはまる…など心当たりのある人も多いのではないでしょうか。

次回は、鉄分摂取において「種類選択」が必要な理由や第三の鉄「次世代型鉄分」についてをお届けします！

取材・文／FYTTE編集部