花粉症は、自然治癒はしないと言われ、長くつき合っていかなければならない疾患です。そこで今、スギ花粉症の治療方法として注目されているのが、「舌下免疫療法」です。これまでの対症療法ではなく、免疫システムにアプローチして、アレルギー反応そのものを起こさないようにする根本的な治療法です。舌下免疫療法にくわしい、ながくら耳鼻咽喉科アレルギー科の永倉仁史先生に伺いました。
Contents 目次
免疫バランスを整えて、アレルギーを起こさないようにする
「舌下免疫療法」は、「舌下」で薬を服用することで、免疫システムにアプローチして、花粉症を改善していく治療法です。
では、免疫療法とは、どのようなものでしょうか。
●免疫療法のしくみ
免疫は、外から侵入してきた敵に対して攻撃を加え、体を守るしくみです。しかし、本来、体に害のないものに対しても「IgE抗体」という武器を作り、攻撃を加え、逆に自分の体にダメージを与えてしまうのがアレルギーです。
「免疫療法は、スギ花粉を原料とする薬をあえて一度に大量に服用することで、アレルギー反応を起こりにくくするものです」(永倉先生)
現在、治療に使われる錠剤の「シダキュア」には、1錠に対して、ふつうの生活で一度に吸い込む花粉の1万倍のアレルゲンが含まれています。 “一度に大量に服用する”ことがポイントで、アレルゲンを大量に取り込むことで、次のような反応が引き起こされます。
・過剰な免疫反応をおさえる細胞(制御性T細胞)の活性化
・アレルギー反応をおさえる細胞(Th1細胞)の増加
・アレルギー反応を促す細胞(Th2細胞)の増加を抑制
・IgE抗体とアレルゲンの結合を妨げるIgG抗体の増加
「こうした免疫の働きの変化で、結果的に免疫バランスが整い、花粉をむやみに攻撃せず、受け入れるようになるのです」(永倉先生)
もう花粉シーズンにマスクがいらなくなる!?
●舌下免疫療法の効果
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといった花粉症の症状を改善します。
「花粉が多い時期でも、症状は軽くすみます。花粉の飛散量が多い時期にもほとんど症状が現れない人もいます。『マスクがいらなくなった』『睡眠がラクになった』という声もあり、QOLの向上が期待できます。舌下免疫療法を行っている最中でも、通常の花粉症の治療を行えるので、症状があるときは、抗ヒスタミン薬などを併用します。シーズン全体でアレルギー治療薬の量を減らすことができます」(永倉先生)
舌下免疫療法は、ヨーロッパでは30年以上前から行なわれていますが、日本では花粉症に対して行われるようになったのは2014年から。当時は、「シダトレン」という液体の薬剤でしたが、2018年6月に服用しやすい錠剤タイプの「シダキュア」が登場。現在は、シダキュアの服用が主流です。
スギ花粉が飛んでいる時期は、副作用が強く出ることもあるため、治療を始められません。舌下免疫療法を始めたい人は、スギ花粉の飛散が収まった頃に、耳鼻咽喉科などに相談しましょう。
取材・文/海老根祐子