近年、これだけ花粉症に罹患する人が多くなったのは、日本に植林されているスギが花粉をつける樹齢に達したことが大きく関係しています。また、除菌や無菌を好む生活習慣も、花粉症と関連しているとか。花粉症の背景について、アレルギー専門医で花粉症に詳しい、ながくら耳鼻咽喉科アレルギークリニックの永倉仁史先生に伺いました。
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“なんでも除菌”が花粉症の原因に?
花粉症は、環境も関わります。ひと昔前は、ディーゼルエンジン車の排ガスに含まれる物質が花粉症の発症リスクの一つになっていましたが、首都圏においてはディーゼル車が規制されたことから、それほど影響はないと言われています。
それよりも、「衛生環境がクリーンになりすぎたことの影響が大きい(衛生仮説)」と永倉先生は指摘します。
「昨今は、除菌や無菌を好む傾向があります。雑菌に触れる機会が少ないと、病原菌と戦う指令を出す免疫細胞より、抗体を作る指令を出す免疫細胞のほうが優位になることで、アレルギー疾患が起こりやすくなると考えられています。子どものアレルギー疾患が増えているのも、菌を寄せつけない生活習慣が関係しているといえそうです」
感染症対策で除菌が必要な場面もありますが、要は「ほどほど」がいいということですね。
この10年でスギ花粉の飛散量は倍増
戦後に植林された大量のスギが花粉をつける樹齢に達し、スギ・ヒノキの花粉飛散量は、20年前と比べると、この10年間は2倍に増えています。
「小さい頃から多量の花粉にさらされる環境にあった人も、花粉に対するIgE抗体が作られやすいため、花粉症になりやすいとえます」(永倉先生)
スギは10数年で雄花ができ始め、樹齢25~30年で盛んに花粉をつけるようになります。「樹齢60年までが花粉のピークなので、2050年頃までは、まだまだ大量の花粉が飛散することが予想され、花粉症も起こりやすいといえます」(永倉先生)
スギ花粉症とは、まだしばらくつき合っていかなければならないようです。
東京は意外と花粉の飛散量が多い!?
スギは、東日本を中心に、北海道と沖縄を除く日本全国に植林されています 特に東京都は、ほかの主要都市に比べて、花粉の飛散量は多いそうです。
「桜の開花と同じように、“花粉前線”は南から北上していきます。東京は周辺を山に囲まれており、さまざまな地域から花粉が飛んできます。まず南風に乗って南関東から、花粉前線が北上すると、今度は栃木・群馬へと北上していきます。そのため、花粉の飛散する期間が長く、量も多くなります。中でも、多摩地区は地元にもスギが多く、都心よりも飛散量は多くなり、八王子で都心の2倍、青梅で3倍となっています」(永倉先生)
東京都が平成29年に実施した調査では、15~29歳で62%、30~44歳で57%、45~59歳で48%が花粉症というデータもあります。
スギは悪役ばかりではなく、環境を守る役目も
なぜこれだけスギが多くなったかというと、生育が早く、木材用として大量に植林されたものの、住宅や家具には安い海外の輸入材が使われるようになり、伐採されずに残っているからです。林野庁のデータでは、日本の人工林面積の中で、スギは44%、ヒノキが25%と大きな割合を占めています。
「花粉症をなくすために、スギを伐採すればいいのでは? と考えるかもしれませんが、スギは花粉症を引き起こす一方で、集中豪雨による土砂崩れを防いだり、治水のための森林資源という役目もあります。CO2を吸収する量も多く、温暖化対策にもひと役買っています。無計画に伐採しても、保管場所がありません。現在、日本では、花粉の少ないスギに植え替えたり、手入れができずに荒れたスギを管理するなど、花粉の発生を抑える対策をとっています」(永倉先生)
取材・文/海老根祐子