甲状腺の病気は女性に多いと知られています。家族や友だちで悩みを抱えている人の話を聞いたことがあるかもしれません。甲状腺の機能が低下したときには、治療として基本的にホルモン製剤が処方されます。しかし、このたび国際的な専門家委員会が、症状がない場合のホルモン補充療法に反対する報告を行いました。
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ホルモン補充療法が倍増
今回勧告を出したのは、国際的な専門医から構成される委員会。英国医師会が発行する医学誌『BMJ』誌で、「緊急勧告(Rapid Recommendations)」と呼ばれる重要な勧告のひとつとして発表されました。日本でも甲状腺の病気を抱える女性は多いですから、参考となる勧告と言えます。
そもそも甲状腺とは、体の新陳代謝をコントロールするホルモンを出す器官です。体温を調整したり、エネルギーを作り出したりするために欠かせません。
甲状腺の働きが低下しているものの、症状が出るほどではない人は「無症候性甲状腺機能低下症(潜在性甲状腺機能低下症)」と呼ばれます。
今回の報告によると、この状態が見られるのは、成人では最大5%。高齢者では10〜15%にのぼるそう。全く症状が出ない人もいる一方、疲れ、憂うつな気分、体重増加といった軽い症状が出る人もいるようです。
無症候性甲状腺機能低下症かどうかは血液検査でしかわかりません。英国では成人のうちおよそ25%の人が毎年甲状腺検査を受けているようですが、無症候性甲状腺機能低下症に当てはまる人には、ホルモン補充療法をすすめられることが多くなっています。無症候性甲状腺機能低下症のホルモン補充療法は1996年から2006年で2倍に増加したという調査結果もあるようです。
ところが、このたび医師と患者で構成される国際的な委員会により、このホルモン補充療法に強く反対するガイドラインが発表されたのです。
妊娠したい女性など、当てはまらない人のグループも
今回の勧告の根拠になったのは、2018年に国際研究グループが発表した研究です。無症候性甲状腺機能低下症の人を対象として甲状腺ホルモン補充療法の効果を分析したものでした。この研究から、ホルモン補充療法が疲れや憂うつ感のほか、体重増加などの症状に効果がないことが今回の勧告を出した委員会によって認められました。
とくに問題視しているのは、一生にわたって検査を受け続けたり、治療を受けたりすること自体が、患者にとってデメリットが大きすぎる点です。甲状腺ホルモン製剤は費用対効果も高いものではないと指摘しています。
ただ、つけ加えているのは、治療を受けるべき人も中にはいること。妊娠を望む女性のほか、甲状腺ホルモンの分泌を促すホルモンが高い人(甲状腺刺激ホルモンが20 mIU/Lより上)。こうした条件に合う人のほか、症状が重い人や30歳未満の人の一部もホルモン補充の対象になるといいます。
研究グループは、さらに研究を続けることで、ホルモン補充療法で効果が得られるタイプの患者がいるかもしれないとしつつも、現時点ではホルモン補充を問題視しています。
今回の勧告は、国際的なものであり日本とも無縁ではありません。自分自身に当てはまっていたり、周りに悩む方がいたりするならば、参考としてもよさそうです。
<参考文献>
BMJ. 2019 May 14;365:l2006. doi: 10.1136/bmj.l2006.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31088853
https://www.bmj.com/content/365/bmj.l2006
Experts advise against hormone treatment in adults with mild thyroid problems
https://www.bmj.com/company/newsroom/experts-advise-against-hormone-treatment-in-adults-with-mild-thyroid-problems/
JAMA. 2018 Oct 2;320(13):1349-1359. doi: 10.1001/jama.2018.13770.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30285179