10月はピンクリボン月間。乳がんの早期診断と早期治療を促すための啓発が活発になります。乳がんの早期発見には、セルフチェックによる自主的な医療機関への受診のほか、検診の定期受診が大事だといわれます。こうした対策に加え、米国では乳房に良性腫瘍が見られるなど乳がんのリスクが高い人に対して、がん予防のための投薬が推奨されるようになっています。日本では予防投薬は一般的ではありませんが、医療を考えるときの参考としてもよいかもしれません。
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乳がんを予防するための薬とは?
日本において乳がんはますます身近な病気になっています。厚生労働省の患者調査によると、2014年の総患者数は20万6000人。この10年で5万人近く増えました。国立がん研究センターによると、同年に新たに乳がんと診断された女性は7万6257人。女性のがんのなかでは最も多いがんです。乳がんで死亡した人は、2017年のデータで1万4285人。女性のがんによる死亡原因としては5位です。
このたび病気の予防についての推奨を発表している米国の公的機関、米国予防医学専門委員会(USPSTF)が、乳がんのリスクが高い人に対して、がん予防を目的とした投薬が有効であると推奨を出しました。2014年に出した推奨を更新したものです。
予防のために使われる薬は、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害薬という乳がんの治療にも使われている薬です。こうした薬には副作用もありますが、今後5年間に乳がんになる可能性が3%以上と考えられる場合は、予防のための投薬が有効であるという考え方を示しています。なお、過去に乳がんになったことがある人は対象にはなっていません。
乳がんのリスクが高い人とは?
乳がんのリスクが高いかどうかは、医師によって総合的に判断されることになります。これまでの研究から、今回の推奨を出している論文では次のような女性は乳がんのリスクが高いと考えられると説明しています。
・65歳以上の人のうち、1親等の親族が1人でも乳がんになった人
・45歳以上の人のうち、2人以上の1親等の親族が乳がんになった人、または1親等の親族で1人でも50歳前に乳がんになった人
・40歳以上で1親等の親族が1人でも両乳房の乳がんになった人
・異型乳管過形成や異型小葉過形成や非浸潤性小葉がん(LCIS)になった人
こうした条件に合う女性は、予防のための投薬に意味がある可能性があると、米国予防医学専門委員会は推奨を出しました。
一方で、次のような条件に合う人は、リスクが高まることが報告されているものの、予防のための投薬を行うべきかは、さらに研究が必要だと指摘しています。
・BRCA1/2の遺伝子変異のある人
・胸部の放射線治療を受けたことのある人(ホジキンリンパ腫または非ホジキンリンパ腫の治療など)
予防の投薬は、血管の中で血液がかたまる血栓を作りやすくするというデメリットもあります。さらに、子宮内膜がんや白内障のリスクに関係することなども知られています。そのため、むやみに薬を使うべきではないとも指摘しています。
日本においては、日本乳癌学会が米国での推奨も踏まえて、予防投薬のメリットがあると認めています。ただし、日本人女性に適用するためには、有効性や安全性の検証が必要であると説明しており、いまのところ「有用かは結論づけられない」という立場を示しています。
米国での予防投薬の動きは、これからの乳がんの医療を考えるヒントにはなりそうです。
<参考文献>
国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
JAMA. 2019 Sep 3;322(9):857-867. doi: 10.1001/jama.2019.11885.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31479144
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2749221
USPSTF Recommendation on Medications to Reduce Breast Cancer Risk
https://media.jamanetwork.com/news-item/uspstf-recommendation-on-medications-to-reduce-breast-cancer-risk/
日本乳癌学会「BQ18.乳癌の発症を予防するための薬剤を投与することは有用か?」
http://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/ekigakuyobo/bq18/