「共感」──英語では「エンパシー(empathy)」。他人の気持ちや感情をその人の立場に立って“理解できる”ことです。一般的には美徳と考えられますし、他者に共感を示す人は好かれそう。ところがこのたび、誰かに共感を示したからといって必ずしも第三者から好かれるとは限らないという研究報告がありました。その意外な理由とは…?
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共感される人のキャラクターを設定して調査
同じ「共感」と訳される言葉として「シンパシー(sympathy)」もあります。こちらは「同情」や「かわいそうに思う気持ち」という意味なので、エンパシーとはちょっと違います。今の世の中で求められることが多いのは「エンパシー」のほうだと考えられそうです。
たとえば、世界的なコロナ禍ではとりわけ、感染した人や失業した人に対してはシンパシーではなくエンパシーが求められています。そうした共感を公に示す人々は心の温かい人と一般的には見なされそうですが、どうでしょうか。
こうしたなかで、米国カリフォルニア大学の研究グループは、誰かに共感を示す人を第三者がどのように思うかについて調べてみました。全米から3000人以上の参加者を募り、7回の調査を行いました。調査では、さまざまな筋書きを参加者に見せます。たとえば、誰かが自分の体験を他者に話し、その他者がなんらかの反応を示すというパターンです。このときに反応した他者がどう考えているのかを評価してもらいます。他者に話す体験内容は、調査によって変わり、仕事のストレスといったネガティブなものや、昇進などのポジティブなものが設定され、反応としては共感する、中立的な対応をする、非難するなどがありました。
また、重要なポイントとして、体験を話す人の特徴についての設定も伝えられました。所属や主義主張などから、社会的および道義的に好感をもたれやすい特徴の人である場合、または好感を得づらい特徴の人の場合という具合に設定を変えたのです。
好感を得づらい特徴の人に共感すると…
ここからわかったのは、共感を示す人は一般的には好感をもたれそうなところですが、実際には必ずしも好ましく受けとられるとは言えないということです。調査の筋書きにおける設定で、体験談に共感を示した人が好ましいと受け止められたのは、体験を話した人が子どもの医療に取り組んでいる人など、好感をもたれやすい特徴をもつ人である場合だけでした。
それに対して、体験を話した人が差別主義の人であるなど、好感をもたれない特徴をもつ人である場合には、共感した人もあまり好ましいと受け止められなかったのです。こうした特徴の人に対しては共感よりもむしろ非難するほうが好感をもたれるケースもありました。話した人が好感をもたれづらい人でも、話している体験ががんになったなど、その特徴と無関係である場合には共感した人に対する好意や敬意がアップしました。
SNSなどで共感を示す状況はよくあります。ですが、相手や特徴によっては、もしかすると共感する自分が嫌悪感を抱かれることもあるのかもしれません。今回の研究結果はそんなハレーションを考えるためのヒントになりそうです。
<参考文献>
Empathy May Be in the Eye of the Beholder
https://www.ucdavis.edu/news/empathy-may-be-eye-beholder
Wang YA, Todd AR. Evaluations of empathizers depend on the target of empathy. J Pers Soc Psychol. 2020 Sep 17. doi: 10.1037/pspi0000341. Epub ahead of print. PMID: 32940513.
https://doi.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspi0000341
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32940513/