寒いときはもちろん、季節を問わず人気の温泉。古来受け継がれる日本の温泉文化は日本人のとある性質を作ってきたかもしれません。それは和を尊重する国民性です。今回は遺伝子を研究する医学博士の一石 英一郎先生の書籍『最新の研究でわかった人生を支配する真実 すべて遺伝子のせいだった!?』からお伝えしていきます。
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気温17℃以下になると「協調遺伝子」にスイッチが入る?
日本人は、昔から「和」を尊重する国民だといわれますが、現在でも個人プレーの競技よりも協調性が重んじられる競技のほうが得意だといわれることがあります。
「アメリカ・ボストン大学の研究は、協調性の高い低いに関係する“協調遺伝子”があると明らかにしました。私たちの体には、温度によってスイッチが入る温度センサー(TRPA1)があるのです。これは、わさびなどの辛み成分でもスイッチが入ります。研究ではそのセンサーの遺伝子タイプによって、協調性のある人とない人が分かれました。『TRPA1遺伝子』のうち協調性の遺伝子タイプをもつ人は、外気温が17℃以下でスイッチが入り、協調性のある行動をとると推測されます」(一石先生)
どうして17℃なのかというと、それは「外気温が17℃からどんどん下がっていくと、古代なら生命の危機につながりかねないから」
「人々は身を寄せ合って体温の低下を防いだのでしょう。勝手にふらふら外に出かけていくような協調性に欠けた行動をすれば死んでしまいます。こうして人体の温度センサーと協調性が連動していったのではないか」と一石先生は推測します。
協調性が高いというのは仲間とうまくやっていくということ以外にも、人を信頼する、実直である、よろこんで人の頼みを聞く、謙虚で人にやさしいといった傾向が強くあり、協調遺伝子をもつ人には、そんな人が多いとされています。これは日本人の気質にも通じるものがある気がしますね。
「温泉遺伝子」をスイッチオン! 健康と家族円満が手に入る
2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度をはじめさまざまな化学的・物理的・刺激をとらえるセンサーとして、生体の多種多様な機能に関係して働く「TRPチャネル」の発見者2人に与えられました。
「TRP(一過性受容体電位)チャネルは細胞膜にあるタンパク質で、温度をはじめさまざまな刺激をとらえるセンサーとして、多くの動物がもっています。このTRPチャネルは温度を感じるセンサーでありながら、唐辛子成分のカプサイシンやハッカ成分のメントールなどの受容体としても働き、温度と無関係に熱感や涼感を生じます。人間はTRPチャネルなんてまったく知らない昔から、寒いときに唐辛子を靴下に入れたりしょうが風呂に入ったりしていました。すばらしい知恵だと感心しますね」
協調性と連動する「TRPA1」という温度センサーは、17℃以下でスイッチが入るとお話ししましたが、TRPチャネルはヒトでは6つのサブファミリー、27種類のチャネルがあります。このうち温度感受性をもつものは10種類です。
「おおまかに43℃で反応する“熱湯スイッチ(TRPV1)”、17℃以下で反応する“冷水スイッチ(TRPA1)”、35℃付近で反応する“ぬるま湯・適温スイッチ(TRPM4・M5)”に分けられます。40℃前後でスイッチが入るものが多いので、私はTRPチャンネルを『温泉遺伝子』と呼んでいいと思っています。水風呂を備えた温泉がありますから、温冷交互浴をすれば全部の温度センサーのスイッチが入ります。だから温泉は、さまざまな細胞が活性化され、健康を増進させてくれるのだと考えています。温泉やサウナ後の冷たいシャワーや、温泉地で食べる刺し身のわさびで、TPRA1のスイッチがオンになり協調遺伝子が働くとしたら、なんと不思議で興味深い仕組みなのでしょう」
家族や仲間と温泉に行って、入浴後に刺し身をわさびでいただく。協調性が増してお互いの絆が深まれば、健康と家庭円満の一石二鳥です。もし温泉に浸かる機会があったら、温泉遺伝子のことを思い出してくださいね。
文/庄司真紀
参考書籍/
『最新の研究でわかった人生を支配する真実 すべて遺伝子のせいだった!?』(アスコム)
著者/
一石 英一郎
いちいし・えいいちろう 1965年生まれ。兵庫県出身。医学博士。国際医療福祉大学病院内科学/予防医学センター教授。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。世界の著名ながん研究者が名を連ねる米国癌学会(AACR)の正会員(ActiveMember)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得。長年にわたり、遺伝子の研究を行っている。