文部科学省が公表する食品成分表から管理栄養士の藤原朋未さんが読み解く日本の食傾向や、食に関するウワサの真意。どんな食品が新たに追加されたのか、また、そこから見えてくる情報をお届けします。
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日本食の傾向がかわる食品成分表
ごはん100gのエネルギー(カロリー)は?
そんな問いにすぐに回答できる人はどのくらいいるでしょうか。実際に計測してみると、銘柄や炊く際の水分量によって多少の誤差は生じるはずです。しかし、日本食品標準成分表2020年版(八訂)(以下、食品成分表)では、ごはん(精白米)100gのエネルギーは156kcalと決められているのです。これは日本共通で使用される基準値としてのデータです。
食品成分表は正式名称のその名の通り、2020年版(八訂)が発表され、2,478品の食品が掲載されていました。そして毎年食品の追加や変更があり、少しずつデータが増えています。今年の4月に【2023年増補】として、データの一部が更新されました。「少しずつ」と言いましたが、今年の更新は107食品、うち新規60食品です。栄養士としてはこれらの資料の見直しが必須となります。最新のデータチェックを怠るわけにはいきません。
初回でもお話しましたが、食品成分表は文部科学省が公表しています。ここに掲載されるということは、いわば“国が認めた食品”と言えるのではないでしょうか。食のトレンドは移り変わりが激しく、私たちの食卓に定着するものは限られています。新たに追加された食品をみてみると日本の食傾向がわかるかもしれません。
それでは、2023年に更新された107食品をチェックしていきましょう。ポイントは大きく3つに分けられています。
① 新たな食品の追加
バンズ、絹厚揚げ、アイスプラント、堀川ごぼう、万願寺とうがらし、島にんじん、九条ねぎ、めねぎ、赤すぐり、ランチョンミート、うぐいすあん、スィートチョコレート、缶コーヒー、調理済み流通食品類(お好み焼き、かきフライ、とりから揚げ、春巻き) など
深川ごぼうや九条ねぎ、万願寺とうがらしは京都府、島にんじんは沖縄県で多く生産されています。そんなご当地食材も最近ではネット販売をはじめスーパーなどでも簡単に手に入るようになりましたね。現地だけでなく、全国で広く使われるようになったことも追加のきっかけになったのでしょうか。絹厚揚げはその名の通り、絹ごし豆腐で作られる厚揚げのこと。ここ最近では「絹厚揚げのほうが多いのでは?」と感じるほど、木綿豆腐で作られる厚揚げ(生揚げ)よりも多く見かける印象です。
絹厚揚げのほうが、やわらかく水分をたっぷり含んでいます。生揚げと比べてエネルギーやたんぱく質、脂質が低いことがわかりますね。今まではどの種類の厚揚げでも【生揚げ】のデータでしかありませんでしたが、これからは種類によって正しい栄養価を計算できるようになりました。
② 新たな調理形態の追加
あずき(つぶし生あん)、だいずもやし(油いため)、りょくとうもやし(油いため)、 乾燥わかめ(水煮)、くろまぐろ 脂身(水煮、蒸し、電子レンジ調理、焼き、ソテー、天 ぷら)、まだこ(蒸し、油いため、素揚げ)、ばらベーコン(ゆで、焼き、油いため) など
食品成分表ではひとつの食材の中でも調理形態によって細かく分けられて計測されています。
例えば、油揚げ。
油揚げの生は100gあたり377kcalです。油抜きをすることによって266kcalに、さらにゆで調理をすることで164kcalとなります。油抜きをする前としたあと、さらにゆでることによって数値が大幅に変化しています。これは湯をかけたりゆでたりすることで、油揚げに含まれる余分な油が除かれたことが原因と考えられます。油抜きは、油臭さを取ることや味染みをよくするなどの効果があると言われていますが、「面倒だな…」と感じてしまうときもありますよね。しかし、これほど余分な油が抜けていることがデータとしてわかると、このひと手間も積極的にできるようになるかもしれません。
今年追加された絹厚揚げや生揚げは油抜きのデータがありません。きっと数年後には多くの食品で調理形態の追加がされていくことが考えられるでしょう。
③ 生産・流通実態に合わせ再分析・細分化した食品
コッペパン、水稲全かゆレトルト(玄米、精白米)、日本かぼちゃ、西洋かぼちゃ、キャベツカット(次亜塩素酸洗浄)、にんじんカット(次亜塩素酸洗浄)、シャインマスカット、マッシュルームブラウン種、あまのり、えごのり、くろまぐろ(養殖(畜養)、ほん しゅうじか、番茶(茶葉)、ほうじ茶(茶葉) など
キャベツカットやにんじんカットの次亜塩素酸洗浄に注目してみましょう。
いわゆるスーパーやコンビニ等で売られているカット野菜をイメージしてみてください。洗わずにそのまま食べられるよう、工場で次亜塩素酸洗浄を行っています。「カット野菜は栄養が抜けている」という話を耳にしたことがありますでしょうか?その“ウワサ”の真意が公式データとして明らかになったということになりますね。
キャベツの項目のなかの、【生・ゆで・カット(次亜塩素酸洗浄)】のビタミンC量を比較してみましょう。(ビタミンCは水溶性ビタミンのため、水に溶けやすくゆでたり水に浸けたりすると減少します)
キャベツ100gあたりのビタミンC量は、生:38mg、ゆで:17mg、次亜塩素酸洗浄:28mgです。たしかに生で食べるよりも減少はしていますが、ゆで調理よりは減少率が低いことがわかります。キャベツを1玉購入しても食べきれないこともあるでしょう。いつまでも野菜室に眠らせてしまうより、カット野菜は少量ずつを手軽に食べられるというメリットもありますよね。栄養の減少を気にすることなく、ご自身が使いやすいものをとり入れていくのがよいのではないでしょうか。
いかがでしたか?
来年はどんな食品が更新されるでしょうか。調理形態の追加のほか、「〇〇オフ」商品や冷凍食品のデータが増えていくのではないかと予想しています。個人的にはコチュジャンやアーモンドミルク、大豆ミートなど、身近な食品でもまだまだ掲載されていないものがたくさんあるので、来年の更新に期待しています……!
<参考>
・「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の公表について:文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20230428-mxt_kagsei-mext_01241_01.pdf
・日本食品標準成分表(八訂)増補2023年:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html