40代以降、「以前と同じように食べているのに体重が増えやすくなった」「産後や更年期をきっかけに、やせにくさを感じるようになった」という女性は少なくありません。体重の変化は、意志の弱さや努力不足だけでなく、加齢、ホルモンバランス、生活習慣、ストレスなど、さまざまな要因が関係していることもあります。さらに、健康状態によっては、医学的な減量治療の対象となる「肥満症」が隠れている場合も。今回は、日本橋れいわ内科クリニック理事長・井内裕之先生の解説をもとに、「肥満」と「肥満症」の違いや、近年注目される肥満症治療について紹介します。
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がんばっているのにやせにくい。まず知りたい体重増加の背景

肥満症患者向けのオンライン診療サービス「スリマル」を提供するMICIN(マイシン)がBMI25以上の男女500名を対象に行った調査では、出産経験のある女性の79.2%が「産後のやせづらさ」を実感しているという結果に。また、体重増加の背景として「更年期や加齢によるホルモンバランスの変化」を挙げた人も多く見られました。
一方で、体重増加の背景には、単なる「太り気味」ではなく、医学的な減量治療の対象となる「肥満症」が関係している場合もあります。
今回は、日本橋れいわ内科クリニック理事長・井内裕之先生の解説をもとに、「肥満」と「肥満症」の違いや、近年注目される肥満症治療について紹介します。
「肥満」と「肥満症」は何が違う?

まず知っておきたいのは、医学的には「肥満」と「肥満症」は区別されているということです。
日本では、BMIが25以上の場合を「肥満」とします。BMIとは、体重と身長から算出される体格の目安です。これはあくまで体格を示す「状態」であり、BMI25以上だからといって、すぐに病気と判断されるわけではありません。
一方で「肥満症」は、BMI25以上であることに加え、肥満に関連する健康障害がある、または内臓脂肪の蓄積がある場合に診断されることがあります。
たとえば、糖尿病や高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、脂肪肝、ひざや腰などの運動器疾患などがある場合、肥満症として医学的な減量治療の対象になる可能性があります。
井内先生は、「見た目だけではわかりにくくても、健診結果を確認すると、血糖値や血圧、脂質の異常が見つかることがあります。体重だけで判断せず、健康状態とあわせて見ることが大切です」と話します。
「最近体重が増えた」「やせにくくなった」と感じている人の中には、血糖値や血圧、脂質の変化に気づいていないケースもあります。健康診断で指摘を受けたことがある人は、放置せず、かかりつけ医や専門外来で相談してみましょう。
SNSで見かける「GLP-1ダイエット」には注意が必要

近年、SNSや広告などで「GLP-1ダイエット」「やせる薬」といった言葉を目にする機会が増えています。
GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬は、糖尿病や肥満症などの治療に用いられる薬です。医師の診断のもと、対象となる人に適切に使われることで、治療の選択肢のひとつになります。
ただし、これらは「誰でも気軽に使えるダイエット薬」ではありません。
本来は、医学的に治療が必要な人に対して、食事療法や運動療法などを行ったうえで、医師が必要と判断した場合に検討されるものです。美容目的や短期間で体重を落とす目的で、自己判断に近い形で使用することには注意が必要です。
井内先生も、自由診療での安易な使用について、「本来の対象ではない人に使われたり、十分な検査や説明がないまま処方されたりするケースには注意が必要です」と指摘します。
とくに注意したいのは、次のような点です。
・医学的に減量が必要かどうか確認しないまま使う
・副作用を確認せず、短期間で高用量に進める
・ほかの薬やサプリメントと自己判断で併用する
・食事や運動の見直しを行わず、薬だけに頼る
GLP-1受容体作動薬などでは、吐き気、下痢、便秘などの消化器症状が見られることがあります。まれに重大な副作用が起こる可能性もあるため、必ず医師の管理のもとで使用する必要があります。
肥満症治療薬は、どんな人が対象になる?
現在、国内では肥満症治療薬として「ウゴービ」や「ゼップバウンド」などが使われるようになっています。
ウゴービはGLP-1受容体作動薬、ゼップバウンドはGIP/GLP-1受容体作動薬です。どちらも、食欲や代謝に関わるホルモンの働きに着目した薬剤ですが、使用できる人には条件があります。
たとえば、保険診療で使用する場合、BMI27以上で肥満に関連する健康障害を複数有する場合や、BMI35以上の高度肥満症である場合など、一定の条件を満たす必要があります。また、薬を使う前提として、食事療法や運動療法を行っても十分な効果が得られない場合に、医師が薬物治療の対象として適切かを判断します。
つまり、これらの薬は「少し体重を落としたい」という目的で誰でも使えるものではありません。肥満症という疾患に対して、医師が必要と判断した場合に選択肢となる治療です。
治療の基本は、生活習慣の見直しと継続

肥満症の治療では、薬を使う場合でも、それだけで完結するわけではありません。
井内先生のクリニックでも、いきなり薬物療法を始めるのではなく、まずは食事や運動などの生活習慣を見直し、体の状態を確認しながら治療を進めているそうです。
治療の流れとしては、次のようなステップが考えられます。
1. 血液検査、血圧、体重、BMI、腹囲などを確認する
2. 食事療法、運動療法、生活習慣の見直しを行う
3. 必要に応じて、医師の判断で薬物療法を検討する
4. 副作用や体調の変化を確認しながら通院を続ける
5. 減量後もリバウンドを防ぐため、生活習慣の定着を目指す
薬はあくまで治療をサポートする手段のひとつ。食事、運動、睡眠、ストレスケアなどを含め、自分の生活に合った方法を続けていくことが大切です。
目標は「見た目」だけではなく、健康リスクを減らすこと
肥満症治療の目的は、単に体重を大きく減らすことではありません。血糖、血圧、脂質、睡眠時無呼吸、ひざや腰への負担など、肥満に関連する健康障害のリスクを減らすことが大きな目的です。
肥満症の診療ガイドラインでは、3~6か月で現体重の3%以上の減量を目標としています。BMI35以上の高度肥満症では、5~10%以上の減量が目標とされます。
たとえば体重70kgの人であれば、3%は約2kgです。大きな数字には見えないかもしれませんが、医学的には血圧や血糖、脂質などの改善につながる可能性があると考えられています。
「10kgやせなければ意味がない」と考える必要はありません。まずは自分の健康状態を確認し、無理のない目標を立てることが大切です。
「肥満は自分のせい」と抱え込まず、まずは相談を
体重が増えたとき、「自己管理ができていない」「だらしない」といった見方を人からされることがあります。また、自分自身でも「私の努力が足りないから」と抱え込んでしまう人は少なくありません。
しかし、肥満には、生理的、心理的、環境的、遺伝的な要因が複雑に関係しています。気合や根性だけで解決しようとするのではなく、医学的なサポートを受けることも選択肢のひとつです。
井内先生は、「肥満は意志の弱さだけで起こるものではありません。体質や生活環境、ホルモンの変化などが重なって起こることもあります。健康診断で指摘を受けた人や、体重増加に不安がある人は、恥ずかしがらずに医療機関へ相談してほしいです」と話します。
将来の病気を防ぎ、これからの体をすこやかに保つためにも、まずは自分の体の状態を知ることから。気になることがある人は、かかりつけ医や肥満症専門外来に相談してみてはいかがでしょうか。
<プロフィール>
井内裕之先生
医療法人社団桜令会 日本橋れいわ内科 理事長。糖尿病、肥満症、生活習慣病を専門に診療。10年後、20年後の健康を見据えた治療や生活習慣の改善提案に取り組み、肥満症について正しく理解することの大切さを発信している。
https://leiwa.clinic/
取材・文/FYTTE編集部


