柔軟性を高めようとストレッチを頑張ってもすぐにもとに戻ってしまう、それどころか無理をして痛めてしまった…という人は少なくないでしょう。体の柔軟性を高めるには、ゆがみをとり去り、本来あるべき形に骨格を整えるということが大切です。今回は、メディカルトレーナーである夏嶋 隆さんの著書『10秒でほぐす カラダが硬い人でもラクに柔らかくなる。きつくない、痛くない「シン柔軟法」』から、お伝えしていきます。
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体の動きを研究し続けてわかった「究極の姿勢」
体をやわらかくしたい、疲れやだるさをとりたい、こりや痛みをほぐしたいといったときに行うストレッチ。しかし、体がかたくなっている人が行うと、逆に大きな負担となって、さらに体を痛める原因にもなってしまいます。
プロアスリートのケアにたずさわり、治療院院長でメディカルトレーナーの夏嶋さんの柔軟メソッドは、“伸ばさない柔軟法”。
「人の体は本来、とても柔軟性に富んでいます。赤ちゃんのころは、いまよりずっとやわらかい体だったはずです。人は“二足歩行で直立する”ことで、手を自由に使えるようになりましたが、その代償に、重力の影響に耐えながら、頭を中心とする上半身の重みを、背骨や腰、2本の足で支えなければならなくなりました。結果として、年齢を重ねるごとにその重さに耐え切れず、その場その場でラクに感じてしまう動き、重力の影響を受ける面積が広い姿勢をとり続け、体がゆがみ、縮んで、最終的にかたさとなって体に現れるのです」(夏嶋さん)
ゆがみの大もとは「重力」。5年、10年、20年と長年染みついた、その間違った姿勢や動きを、直すことは簡単ではありません。ゆがみや縮んだ体をもとの状態に戻し、重力の影響を最小限にする―夏島さんの動作解析の研究では、それを可能にする「究極の姿勢」を導き出しました。
「究極の姿勢=ナチュラルポジションは、すべての基本動作の始まりであり、私たち人間にとってもっとも自然な姿勢。人の体の構造を考えると、足の真上に骨盤があり、骨盤の真上に頭がある状態が、重力の負荷をもっとも受けにくい姿勢です。ナチュラルポジションは、ゆがみ、縮んだ体を、骨や筋肉をあるべき位置に瞬時に戻す姿勢のことです」
試しにやってみましょう。
【ナチュラルポジション】
【STEP1】力を入れずにまっすぐ立ってください。
【STEP2】 次に上から糸で吊られていく意識で、グーッと体を10秒かけて、自分が感じる限界のちょっと先をイメージしながら伸ばしていってください。このときにつられて肩やかかとを上げないように注意してください。
【STEP3】最後に力を抜いて終わりです。
ナチュラルポジションのポイント「浮遊ろっ骨」
骨格が整った状態のナチュラルポジション。そのポイントとなるのが、「浮遊ろっ骨」と呼ばれる部分です。
「ろっ骨は12本あります。そのなかでいちばん下にある『第12ろっ骨』と呼ばれる小さな骨が、『浮遊ろっ骨』です。後方は背骨に関節でつながっていますが、前方は遊離しており、そのため浮遊ろっ骨と名づけられています。浮遊ろっ骨を意識できるか、じょうずに閉じることができるか否かによって、体は大きく変わります」
浮遊ろっ骨はとても小さな骨ですが、体を動かすうえで重要な役割を果たします。前屈、後屈、側屈、回旋といった動作の起点となるのが、じつはこの小さな骨です。ナチュラルポジションではこの浮遊ろっ骨がちゃんと閉じている状態です。
「ナチュラルポジションを自然にとれて浮遊ろっ骨が閉じるようになると、まず、ウエストにくびれができます。そして、お尻がクッと上向き、スラッとしたスタイルに変わります。さらに可動域が広がることで燃焼効率が改善され、太りにくい体が手に入ります。また、肩や腰に感じていた違和感や痛みも衰えも、一気に改善に向かうことでしょう。痛みを我慢し、無理をしてやっていたストレッチは、もうやる必要がないのです」
場所も時間も選ばず、いつでもどこでも意識さえすればすぐに全身がほぐれるナチュラルポジション。猫背の人は慣れるまで少しつらいと感じるかもしれませんが、慣れると自然と心地よく感じられるようになります。次回以降、浮遊ろっ骨が閉じる感覚をつかむエクササイズなどをお伝えしていきます。
文/庄司真紀
参考書籍/
『10秒でほぐす カラダが硬い人でもラクに柔らかくなる。きつくない、痛くない「シン柔軟法」』(アスコム)
著書/夏嶋 隆
なつしま・たかし メディカルトレーナー。動作解析専門家。大阪体育大学サッカー部、関西国際大学サッカー部トレーナー。1957年、大阪府出身。大学を卒業後、実業団バレーボール部の指導者としてキャリアをスタート。しかし道半ばにして医師に完治不能といわれた怪我を負う。だが、最後の望みをかけて訪ねた、かつて旧日本軍の軍医も務めていた医師のもとで治療を受けるとみるみる回復。その治療方法と、患者に真摯に向き合う姿勢に感銘を受け、同医師に師事。手技療法の道に進む。そこでの経験をもとに、人間の動作を観察・記録し、科学的アプローチを背景にした、人間が本来持つ力を十分に引き出す指導する、動作解析の専門家として活躍を始める。とくにアスリートからの支持は絶大で、サッカー、プロ野球、バスケットボールからブレイクダンスまで多岐にわたる。著書の『疲れないカラダ大図鑑』(アスコム刊)はベストセラーを記録。