むし歯は子どもがなるもの、と思っていませんか? 大人でも、むし歯になります。気をつけたいのが、歯と歯の間のむし歯や以前に治療した歯から再発するむし歯です。デンタルフロスが詰めものに引っかかるようなことがあったら、異常が起きているサインかも知れません。大人のむし歯について、歯科医の照山裕子先生にうかがいました。
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詰めものや被せものは、もって数年!?
むし歯は、ミュータンス菌などのむし歯菌が、口の中に残った食べかすの糖分を材料に酸を作り出し、歯のエナメル質を溶かす病気です。
「やわらかい子どもの歯と違い、大人の歯のエナメル質は硬いので、汚れがきちんと落とせていれば歯の表面がむし歯になることは、ほとんどありません。大人が虫歯になりやすいのは、プラークがつきやすい歯と歯の間、歯ぐきとの境目です。また、長年のかみしめによって、歯の表面に細かいクラック(亀裂)ができてしまい、そこから穴が開き虫歯が始まることもあります。クラックは睡眠時などの食いしばりで、特定の歯に強い力がかかることも一因です。前歯のむし歯は、口呼吸の人によくみられます。最近は新型コロナウイルスの影響からか、歯科医院では、ストレスによる歯痛や口呼吸によるトラブルを抱えた患者さんが急増しています」
それから、大人が注意したいのは、一度治療した歯から再発するむし歯です。
「材質の経年劣化で、詰めものや被せものと歯の間にスキマができて、そこから汚れやむし歯菌が入り込み、再発を起こすのも大人によく見られる特徴です。知らないうちに中でむし歯が広がり、詰めものや被せもの自体が外れてしまうこともあります。保険診療で、詰めものや被せものに使われるのは、プラスチックや金属です。プラスチックは劣化しやすく、金属は温度変化やかむ力によって変形しやすいものです。
むし歯になったところを削り、詰めものや被せものをしたからといって、もと通りの健康な歯に戻ったわけではありません。むし歯も歯周病と同じで、進行を食い止めることはできても、完治させることは難しいと思ってください。その治療で痛みはとれたかもしれませんが、同じ生活習慣やかみ合わせのアンバランスが続けば、いずれ同じようなトラブルが起きます。失われた部分には、むし歯を予防し健康を維持する機能が備わっている材質を適用すると再発を最小限に抑えることができます。歯を削って再治療する回数が増えるほど、歯を失うリスクが出てくるというデータもありますから、なるべくダメージが少ないうちに天然の歯に近い性状の材料で補うのが賢い選択です。
セルフチェックには歯間ケアが効果的です。デンタルフロスや糸ようじを歯と歯の間に入れたときに、詰めものの金属に引っかかりがあるようなら、すでに詰めものが変形している可能性があります」
むし歯の治療法は、飛躍的に進化している
昔の痛かったむし歯治療を思い出して、なんとなく歯科医院へ行くことがおっくうになっている人もいるかもしれません。しかし、現在の歯科治療は、痛みを抑える工夫や技術、接着に使うセメント等の品質も飛躍的に進化しているそうです。
「それによって、20年30年と健康なお口をキープできる治療法の提案ができるようになりました。例を挙げると、天然の歯に近いセラミックは汚れがつきにくく衛生的です。縦にかかる力に弱いため、かむ力で割れてしまうデメリットもありましたが、長年の改良で欠点も克服しています。ただし、セラミックは現段階で自由診療です。ムリのない範囲で慎重に歯科医に相談しましょう」
一方、むし歯予防には、歯周病ケアと同様に、「歯みがきにプラスして、デンタルフロスとブクブクうがいをとり入れて」と照山先生はアドバイスします。
「デンタルフロスで歯と歯ぐきの境目や歯と歯の間についたプラークをとり除く一方で、食後のブクブクうがいで、むし歯菌のエサとなる食べかすを洗い流し、新たなプラークができないようにします。細菌が繁殖しやすいのは、唾液が少なくなる睡眠中です。夜のケアには必ずデンタルフロスを使いましょう」
ブクブクうがいはこちらの動画から見ることができます。
取材・文/海老根祐子