「牛乳を飲むと骨折しやすくなる」という話…。牛乳をめぐっては、これまでもネガティブな話がいろいろ語られてきました。本当のところどうなのでしょうか。
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牛乳を飲むと骨折しやすくなる?
週刊誌やネット記事にあがってくる、牛乳のネガティブな話題。その中のひとつに、骨を丈夫にすると言われてきた牛乳が、逆に「骨折しやすくなる原因になる」というものがありました。この主張は、牛乳消費の多い米国や北欧3国で骨折が多い、という調査結果からきたものです。これらの国は、確かに他国と比べて骨折が多い傾向にありますが、他の要因として身長(身長が高いほど骨折リスクが高くなる)、日照時間(少ないほどカルシウム体内吸収量が減少)、食生活(肉類の過剰摂取)などがあげられます。これらの要因を取り除いて牛乳だけの影響を調べると、牛乳を多く飲むから骨折リスクが高まる、という結果にはなりません。
一方、「カルシウムの摂取不足は骨折の危険因子である」という研究が国内外で数多く報告されています。また、継続して十分なカルシウム摂取をすることは、骨粗しょう症の予防にも重要とされています。牛乳はカルシウムを多く含むことを考えると、牛乳を飲むと骨折しやすくなるとは言えません。
牛乳はアトピーや花粉症の原因になる?
牛乳のたんぱく質は、一部の人にとって食物アレルギーの原因物質となります。牛乳アレルギーの人は牛乳・乳製品を摂取しないよう注意が必要です。しかし、そうではない体質の人が牛乳を飲みすぎて、アトピー性皮ふ炎や花粉症になるということはありません。
アトピー性皮ふ炎や花粉症などのアレルギーは、食品だけでなく、花粉、ダニ、昆虫、建材、排気ガス、チリ、ほこり、ストレスなどの環境要因が複雑にからみ合って起こります。
また、アレルギーの心配から離乳食に牛乳を与える時期は、遅らせたほうがいいという考えが以前はありました。しかし、最近では牛乳デビューを遅らせても、アレルギーの発症予防にはならないことがわかっています。1歳を過ぎたら、他の食品と同じようにちょっとずつ、様子を見ながら牛乳に慣れさせていって問題ないと言われています。
高温殺菌牛乳は体に悪い?
しぼりたての生乳は、殺菌され製品になります。牛乳の殺菌の条件は法律で定められており、殺菌方法ごとに5つに分類できます(右図)。
このうち、超高温瞬間殺菌(UHT)は120〜130度の殺菌温度で1〜3秒加熱するもので、日本の牛乳の9割以上がこれにあたります。栄養価はほかの牛乳と変わりません。「超高温殺菌にすると、乳脂肪が酸化されて有害物質ができる」という主張がありますが、殺菌中は外気と触れず密閉装置の中で行われ、牛乳中に溶け込む酸素もきわめて少なく酸化の可能性はほとんどありません。
しかし、殺菌方法によって風味や日持ちは違いますので、特徴を知って選ぶとよいでしょう。
牛乳は和食に合わないので 学校給食にはいらない?
新潟県三条市では、「ご飯と牛乳は合わない」という保護者からの指摘を受けて、一定期間牛乳を出さないことにしました。
この決定は大きく報道され、さまざまな意見が聞かれました。メニューによっては牛乳とは合わないのは確かでしょう。しかし気になるのは、子どもたちのカルシウムが足りているかということ。10~11歳の場合、1日のカルシウム摂取推奨量は700㎎ですが、現在の平均摂取量をみるとまだまだ届いていません。
牛乳は100gあたり110㎎のカルシウムを含みます。小魚もカルシウムを多く含み、ちりめんじゃこは100gあたり520㎎も含みますが、1回分で食事に使用するのは平均10g程度にすぎません。多くとるとその分だけ食塩を一緒にとってしまうのが問題です。ちりめんじゃこの場合、10gで塩分0.7gです。1回の給食の塩分を3g未満に抑えるようにしているところも多いため、献立上の調整が大変そうです。
牛乳のカルシウムは小魚や野菜に比べて吸収率が高く、手軽にとれることが最大のメリットです。育ちざかりの子どもたちが将来に備えて強い骨をつくるために、カルシウム摂取はとても重要なのです。
牛乳をめぐるウワサはいろいろとありますが、ほとんどが科学的な根拠がないことがわかります。ウワサに惑わされて、食生活のバランスが損なわれることのないよう、判断してもらいたいと思います。
イラスト / オオスキトモコ