風邪はほとんどの場合、ウイルスによって起こるのですが、ウイルスには効かない抗生物質が使われることが、日本を含め世界的に問題になっています。デメリットがなければよいのですが、問題がありそうだと徐々に明らかになってきたのです。このたび海外の研究グループは、妊娠時に抗生物質を使うと、生まれてくる子どもがぜん息にかかる可能性が高まると報告しています。気をつけるとよさそうです。
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妊娠中の抗生物質が問題になるのは、なぜ?
従来、妊娠中に抗生物質を服用する母親が増えていることから、その影響が問題視されるようになっていました。発育中の胎児に悪影響がある可能性が示されていたからです。
抗生物質の問題は「腸内細菌叢」を変化させてしまうことです。腸内細菌は心身の健康に深い関係があることがわかっています。抗生物質は細菌を殺す薬剤ですから、体にとって望ましい働きをしている腸内細菌にも効果を示してしまう可能性があるのです。妊娠中に服用すれば、胎児の腸内細菌叢にも影響が及ぶ可能性が考えられていました。
このたびデンマークとオーストラリアの研究グループは、抗生物質の使用が生まれてくる赤ちゃんにどのように影響を与えるのかを分析しています。妊娠中の抗生物質が赤ちゃんの腸内細菌の状態を変えて、赤ちゃんの健康にも問題を引き起こしているのではないかと予想したのです。なかでも、腸内細菌が関係していると考えられている免疫機能への影響に注目し、自己免疫疾患のひとつである、ぜん息の発症が赤ちゃんに増えるかを調べています。対象はデンマーク国立出生コホートと呼ばれる研究で、1996年から2002年までの期間に妊娠6~10週で研究に参加した妊婦から生まれてきた3万2651人の赤ちゃんです。妊娠中期と後期、出生後1回、および子どもが11歳になった時点に抗生物質の服用やぜん息の有無などを調査しています。
ぜん息になる赤ちゃんが多くなる
こうしてわかったのは、妊娠中に抗生物質を服用していた場合に、たしかに生まれる子どもがぜん息を発症する可能性が高まるということです。具体的には、妊娠中の抗生物質の服用が14%リスクを高めていると判明しました。特に妊娠中期から後期にかけて服用している場合は17%リスクが高く、やや可能性が高まる傾向が見られました。
さらに、帝王切開で生まれた子どもでは関連性は見られないことも判明。自然分娩で生まれた場合は母親から腸内細菌叢を引き継いでいるために、抗生物質の服用の影響が現れる可能性があることが示唆されました。抗生物質の使い過ぎが多いと問題になっているなかで、思わぬデメリットして今後、注目されそうです。
<参考文献>
Fetal exposure to antibiotics in mid to late pregnancy linked to heightened childhood asthma risk
https://www.bmj.com/company/newsroom/fetal-exposure-to-antibiotics-in-mid-to-late-pregnancy-linked-to-heightened-childhood-asthma-risk/
Uldbjerg CS, Miller JE, Burgner D, Pedersen LH, Bech BH. Antibiotic exposure during pregnancy and childhood asthma: a national birth cohort study investigating timing of exposure and mode of delivery. Arch Dis Child. 2021 Feb 9:archdischild-2020-319659. doi: 10.1136/archdischild-2020-319659. Epub ahead of print. PMID: 33563603.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33563603/