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被災地でもフェムテックは重要。能登半島地震など被災地で活動している専門家が考える問題点、解決策とは?
一般社団法人日本フェムテック協会(以下、日本フェムテック協会)が、フェムテックやフェムテラシーをテーマにした「ランチタイムウェビナー」を毎週火曜12:00~12:30に定例開催中。今回は、そのアーカイブの中から、「能登半島地震から学ぶ災害とフェムテック~いま何が起きているのか?私たちにできることとは?~」の内容を紹介。日本フェムテック協会理事の市川美和さんを進行役に、一般社団法人助けあいジャパン共同代表の石川淳哉さんが災害地におけるフェムテックについてリアルな話を聞かせてくれました。
Contents 目次
災害派遣トイレにも男女差に配慮が必要。「女性は使用時間が長い」は世界基準
市川:石川さんは、能登半島地震の被災地域で助けあいジャパンのプロジェクトとして「みんな元気になるトイレ」(市区町村がトイレトレーラーを常備し、それを自然災害の被災地に派遣し合うネットワーク)という災害支援を行っていています。
今回は、被災地支援ということだけでなく、いつ起こるかわからない災害にどう向き合うのか、助けあいジャパンの活動の中で石川さんが気づいたことなどをフェムテックの視点も含めて示唆いただこうと思っています。まずは、石川さんの今までの活動や、災害支援に取り組み始めたきっかけなどについて教えてください。
石川:僕はずっと広告の仕事をしてきました。(半導体メーカーの)「インテル入ってる」という広告キャンペーンや『世界がもし100人の村だったら』という本の宣伝です。この本は2001年のプロダクトで、9.11(アメリカ同時多発テロ事件)で世界中が戦々恐々とした中で、世界中の人を100人の村に縮めてみたらどうなるんだろう、世界の格差や多様性について考えてみようという内容で、広告宣伝を担当しました。
「もっと世界中のみんなが知り合えたほうがいいんじゃないか」という内容の絵本が大きな話題になったんです。「インテル入ってる」と比較すると、僕の脳と細胞がふるえて喜んだのは『世界がもし100人の村だったら』でした。これがきっかけで「自分の人生は社会課題の解決に向けていこう」と決めたんです。
今、僕のクライアントは地球や地域だと思っているのですが、地球は企業と違ってミッション・予算・スケジュールを投げてくれません。なので、まずは自分で社会問題を見つけ、それをプロジェクト化して、みんなを巻き込んで解決するというのが僕の仕事です。なかなか大変なのですがだからこそやりがいがある。フェムテックもそのうちのひとつと考えています。
市川:能登半島地震の被災地に入られるのは今回で2回目ということですが、現地で展開されている「みんな元気になるトイレ」について教えてください。
石川:助けあいジャパンでは、3.11(東日本大震災)の際は、インターネットなど情報の力を使って人、物、金、ボランティアを被災地に送るという活動を6年ほど続けました。
そんななかで熊本地震が起きて、直接死が50人、災害関連死が223人と、多くの人が地震ではなくそのあとの体調不良で亡くなっています。そして災害関連死の主たる原因のひとつがトイレだということを知ったんです。それで、地震を防ぐことはできないけれど災害関連死を防ぐことはできるかも、トイレ問題を解決しようと僕のスイッチが入ったんです。「みんな元気になるトイレ」はいろいろな形で報道もされているので、見ていただいた人もいるんじゃないでしょうか。
市川:私もテレビで見ました。参加する自治体も増えてきていますね。
石川:そうなんです。今回、多くの被災者の人から「本当に助かった」「トイレが来てくれてうれしい」という声がすごく広がったので、いろいろなところがトイレ問題を考え始めるようになっているんじゃないかと思います。でも、トイレというのは、単にトイレを持っていくだけではダメなんです。たまった糞尿をきちんとバキュームしないとダメだし、水洗のための水を入れ続けないとダメ。
僕らのネットワークの自治体の人たちは、水を運んだり、運用のサポートをしたり、みんなで回していてすごいチームワークなんですよ。みなさんもちょっと意識を変えて、「災害関連死は防ぐことができる」と思ってほしいです。それにはまず状況や対策を知ることが重要。それから、寄付やボランティア、インターネットでの支援などいろいろな形で参加することができます。
ちなみに、トイレトレーラーにはトイレが4つあるのですが、女性3、男性1で運用しています。なぜだかわかりますか?
市川:2対2ではないんですね。子どもは女性と一緒に入るから?
石川:それもあるのですが、じつは「スフィア基準」という避難所の世界基準が3対1なんです。実際の男女比が50対50でも、3対1で運用するんです。どうしてかというと、女性はトイレを使う時間が長いから。生理があったり、お化粧直しをしたりとか、やる作業が多いんですよね。男女の違いって、気持ちやホルモンの差だけではなくて、行動や必要な時間の差も出てくるんです。それを理解していれば、男性も女性に対して「トイレが長い」なんて思わずに待てると思うんです。僕自身もフェムテックを知れば知るほど、気づくことがたくさんありました。
災害時、女性は脆弱。女性自身がジェンダーに配慮した防災を求めていこう
市川:トイレってすごく重要ですよね。トイレ以外に、被災地に入ったことで気づいたことはありますか?
石川:いちばん大きいのはジェンダー問題。企業では女性役員や女性経営者が増えてきているのですが、自治体の危機管理課、防災課なんかは男ばかりなんです。緊急時は弱いところが吹き出すのに、その対策が全部、男の考えで進められていると思うと恐ろしいですよね?
例えば、熊本地震の災害関連死の7割は高齢者と女性だったんですよ。女性は災害関連死の危機に直面しているわけです。でも、男性は女性の脆弱性をカバーしきれないし、自治体もカバーしてくれない。女性はそういうふうに思ったほうがいいと思います。
市川:防災というと、「力仕事」「危険」というイメージなので男性の担当者が多いんでしょうね。でも、高齢者や女性に目を向けないと、本当の意味での防災、災害支援にならないということですね。
石川:そうなんですよ。自治体は、「平等」ということで、同じものをみんなに配ろうとするんです。でも本当は、弱い人にちょっと支援を厚くしないと公平は生まれないんですよ。
市川:なるほど。「配分するものが同じ」ではなく、「支援後の状態が同じ」であることが平等で、「弱い人には厚く」なんですね。
石川:そうなんです。小さい子どもにちょっと高めの台をあげるのが公平なんです。大人にも同じ台を配ったら平等ではなくなっちゃうんですよ。
市川:なるほど。すごく大きな気づきになりました。
視聴者から「私は和歌山県に住んでいて、南海トラフ地震に備えましょうと子どものころから言われてきました。能登半島地震のニュースを見て、他人事ではないと感じました」というコメントがきています。南海トラフ地震の問題は非常に懸念されますね。
石川:そうですね。能登半島地震以上のことが起きる可能性があるので十分に注意してほしいですね。そのためにも、女性が声をあげて「ジェンダーに配慮した防災にもうちょっと力を入れてください」と自治体に言ってほしいですね。
市川:「トイレの個数の配慮のほかに、男女差を配慮した防災対策として、個人や自治体でどのようなことを行うべきだと思いますか?」というコメントがあります。
石川:計画を立てるときに女性の意見を入れる、これに尽きますね。僕は男性なので、女性を計画の場に組み込むことが仕事だと思ってやっています。あとは、危機管理課に女性がいないなら、男女共生課といった部署が自治体には必ずあるので、そういうところに男性が立てた計画を投げて、女性の意見を聞くようにするだけでもぜんぜん違ってきますよね。
市川:自治体の職員でなくても、住民が加わって対策を考えてもいいわけですよね。
石川:そのとおり。やっぱり、みんなで計画を立てていくというのがいちばんいいですよね。
市川:「みんな元気になるトイレ」の活動も、各自治体がトイレトレーラーを持つことによってこのネットワークに参加する権利を持ち、有事のときに助け合うということですよね。助け合いのネットワーク。
石川:ただトイレを買う自治体を探してるわけではなくて、みんなで助け合うネットワークに参加するためにトイレを持つということなんです。
市川:私は子どものころ、大きな地震が起きたあと長い間トイレが使えなかったことがあって、その苦労を今でも覚えているんです。あのときトイレトレーラーがあったらよかったのにと、本当に思います。
石川:そうなんですよね。トイレを持っていくと、みんな泣いて迎えてくれるんですよ。そこで、みなさんに手伝ってほしいことがあります。さまざまな自治体が「みんな元気になるトイレ」の導入のため、READYFORというプラットフォームでクラウドファンディングを行っています。ふるさと納税の枠がある人は参加してみてほしいです。
また、フェムテック、ジェンダー問題というのはあらゆるところに適用できます。それらの土台を身に着けるためにフェムテックについて知る、学ぶことは大切だと思います。
このランチタイムウェビナーは毎週火曜のランチタイムに開催されています。30分間ですがフェムテックやフェムテラシーのヒントになる内容が満載なので要チェック! FYTTEでのレポートも続けていきますのでお楽しみに。
【登壇者】
市川美和 日本フェムテック協会理事、国家資格キャリアコンサルタント。
石川淳哉 日本フェムテック協会顧問、ソーシャル・グッド・プロデューサー、一般社団法人助けあいジャパン共同代表理事。
【クレジット/協力】
一般社団法人 日本フェムテック協会 スペシャルコンテンツ
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文/小高 希久恵